研究課題/領域番号 |
22K01416
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07020:経済学説および経済思想関連
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
石井 穣 関東学院大学, 経済学部, 教授 (10587629)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | ジョン・バートン / 古典派経済学 / イングランド / 共和主義思想 / 土地再分割 / 救貧法 / 穀物法 / 植民 / 19世紀 / 経済政策 / 19世紀前半 / イギリス |
研究開始時の研究の概要 |
ジョン・バートンが、救貧法、政策的植民論、穀物法、土地再分割などの諸政策に関する著作を残していることは、これまでの研究では十分に取り扱われていない。バートンの経済学史における意義は、これら政策に関する同時代の論争と、その中での位置づけを考察することで明らかにすることができる。ただ19世紀前半のイギリスにおける政策論争については、この30年ほどの新たな研究をふまえ、その全体像を捉え直す試みが必要である。そこで本研究計画は、19世紀前半のイギリスの政策論争の全体像の提示を試みる。また手稿や手紙などの資料も各地の公文書館に残されており、それらの調査も進めることで、バートンの意義を明らかにする。
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研究実績の概要 |
令和5年度はバートンと共和主義思想との関係をさらに追求すべく研究を進めた。またバートンと農業主義および土地分割との関係についても論文化を進めた。前者については、令和4年度に「バートンにおける市場の調整と過剰な富──古典派経済学と共和主義思想」(『マルサス学会年報』第32号)を公表したが、ヒュームをはじめシヴィック・ヒューマニズムと関係の深い経済学者の検討は課題として残されていた。バートンの初期の手稿にヒュームを批判的に検討したものがあり、そこでは富国=貧国論争が取り扱われている。この論争はヒュームに端を発すると同時に、ホントらが近代ヨーロッパの共和主義思想における重要な論点として論じている。そこで今年度は富国=貧国論争の展開とこの論争に対するバートンの立場について研究を進め、イギリス経済学史学会(グルノーブル・アルプス大学 2023年8月31日)およびInternational Workshop on Classical Political Economy(2024年3月13日 立教大学)において報告を行った。後者については、農業における土地所有の状況や自作農の割合と、国民の身体的、道徳的な福祉との関係についてのバートンの考察を取り扱った。これは本研究の前身となる研究「ジョン・バートンの時論分析と政策論の総合的考察」(課題番号 16K0358 平成28年度~31年度)から取り組んできた論点であるが、まだ論文化にいたっていなかった。これまではバートンの道徳的抑制論と農業における土地所有の状況をあわせて論じていたため、論点が複数にわたっていたが、マルサスとの比較で道徳的抑制論に関するバートンの特徴を明確にする必要があるとの認識に到達した。その結果、道徳的抑制におけるマルサスとバートンとの立場の相違を明確にすることができた。本年度は、このような観点から論文を執筆し、投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、バートンの政策的主張の背後にある思想的基礎を解明し、当時の論争の対立軸を明らかにしようとするものである。また上記の対立軸の明確化を通じて、経済学史におけるバートンの位置づけを明確にするものでもある。バートンの思想的基礎については、バートン自身が「共和主義的な徳(Republican virtue)」に言及していることから、昨年度は共和主義思想もしくはシヴィック・ヒューマニズムとの関連で考察を進めた。ただしバートンは古典派経済学の市場観にも一定の信頼を置いており、思想的な観点からの経済学への批判やロマン主義的な立場とは一線を画していたことを明らかにした。本年度はバートンと共和主義思想との関係をさらに考察すべく、ヒュームに対するバートンの批判的考察をふまえ、考察を進めることができた。バートンは商業化や奢侈の意義を一定程度認める一方で、経済成長の影響については、アダム・スミスやリカードウのような楽観的な立場をとっておらず、この点では古典的な共和主義に近づいていることを示した。そのような文脈から機械導入の問題や土地所有の問題をバートンは考えていたとの見通しもまた示すことができた。昨年度および今年度の研究成果は、経済学史におけるバートンの位置づけを明確にする点で、大きな意義があったと考えている。バートンと農業主義については、これまでなかなか進捗が見られなかったが、道徳的抑制論と土地所有との問題とは別々の論文として取り上げる必要があるとの認識に到達することができた。これは道徳的抑制論におけるバートンとマルサスの相違を明らかにするだけでなく、J.S.ミルをはじめ自作農の是非に関する論争を射程に入れることができた点で、今後の研究に向けて意義があったといえる。今年度の研究成果を通じて、バートンの思想的立場を明確にし、経済学者としての全体像を示す見通しが得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、バートンの政策的主張の背後にある思想的基礎の解明をさらに進めるとともに、救貧法、穀物法、植民、土地再分割など、当時の政策的諸論争におけるバートンの立場についても考察を進める。ヒュームおよび富国=貧国論争との関連からバートンの考察を取り扱った研究報告を、ヨーロッパ経済学史学会(グラーツ大学 2024年5月9日)にて行った後、投稿を行う予定である。富国=貧国論争はホントをはじめ、19世紀はじめの古典派経済学の確立をもって終息し、富国が直面する困難は全般的供給過剰の問題へと移っていったと考えられてきた。だがバートンは同時代的な問題としてとらえており、この論争が19世紀以降の経済学的考察に影響を及ぼしていた可能性が考えられる。そこで富国=貧国論争という観点から、19世紀における政策論を考えることができないか、検討を進める予定である。マルサスとの比較によるバートンの道徳的抑制論については、今年9月に公表されることとなった。今年度はさらに、自作農の是非に関する古典派経済学の論争をもとに、バートンの立場を検討する予定である。これはマルサス学会(同志社大学 2024年7月5~6日)に報告することになっている。バートンは土地所有の状況と身体的、道徳的福祉との関係を考えた1850年の論文では、J.S.ミルに言及している。そのJ.S.ミルは自作農主義の是非を考えるにあたって、自作農は道徳的抑制を妨げ、人口増加を促進するいうマカロックらの考察に言及し、農民の知能に及ぼす影響など肯定的な評価を下している。マカロックらとJ.S.ミルとの見解の対立を跡づけたうえで、バートンとJ.S.ミルとの関係も射程に入れ、研究を進めたいと考えている。バートンにおける農業主義の問題について区切りをつけた後、救貧法、穀物法、植民などの政策的諸問題に立ち返りたい。バートンの手稿の調査・分析も引き続き行う。
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