研究課題/領域番号 |
22K01442
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中嶋 亮 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (70431658)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | イノベーション / 特許発明 / 知識波及 / 知識の波及 / 技術革新 / 特許 |
研究開始時の研究の概要 |
経済理論において知識溢出は技術革新を誘発し経済成長の原動力とされている。経済実証分野においても特許書誌情報を用いて革新的な発明の時間的空間的な波及効果が綿密に測定され、知識溢出効果が技術革新を誘起したかどうかが検証されてきた。しかしながら発明者間の知識溢出効果については否定的な実証分析結果が近年では示され、知識溢出の検証は現在においてもイノベーション経済学・都市経済学分野における活発かつ重要な研究課題の一つである。果たして革新的な発見や発明は人々の近接的な相互作用を通じた自由な知識の流れによって創出されているのか?本研究ではこの「問い」を詳細な特許データを用いて実証的に解明する。
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研究実績の概要 |
本研究課題の目的は技術革新に影響を与える発明者間の局所的相互作用を定量的に明らかにすることである。具体的には、米国・欧州特許庁が提供する特許書誌情報を利用して、スター発明家が近接地域のイノベーション創発に与える影響を知識溢出効果として精確に測定することを試みることである。
令和4年度は研究遂行の第一段階を実施した。具体的には、(1) 米国特許庁および欧州特許庁が公表しているデジタル化された特許書誌データを利用して20世紀後半から21世紀初頭の期間の各年を対象に上位特許発明家を特定し、その居住地履歴の詳細なデータベースを作成した。(2) さらに米国および欧州各国それぞれの通勤圏に居住する発明家の特許数を発明家の生産性ランクごとに集計してイノベーション活動の時間的・地理的分布も把握した。(3) さらににNBER およびOECD が提供するTax Calculator を利用して米国および欧州各通勤圏住民の所得階層ごとの平均および限界税率を求め特許データと関づけた。
以上で構築されたデータベースをもとに予備的な実証分析として、特許書誌データから構築した居住地履歴データを発明家の居住地選択行動モデルに適用して上位5%発明家の各通勤圏間の移住確率の推定を実施した。手法としては二元配置固定効果を含む多項ロジットモデルを援用し、上位5%発明家がある期間tに通勤圏間を移住する確率を最尤推定により計算した。これらはすでにMoretti and Wilson (2017)が実施した推定であるが、我々のデータを利用しても米国のトップ発明家は個人所得税率が低い州に移動する傾向が明らかにされている。これらは次年度以降に知識溢出効果の因果推定分析を実施する際の前提が満たされていることが実証的にも確認されたことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究目的を達成するために、事前に提出した研究計画書では、(i) 各国特許庁が公表している特許書誌情報を利用して上位特許発明家の居住地履歴のデータベースを作成すること、および(ii) スター発明家の居住地選択行動をモデル化し、居住地履歴データをもとに上位発明家の各通勤圏間の移住傾向を定量的に把握すること、という2つの研究目標を初年度に達成すべきものとしていた。令和4年度の研究ではこれらの研究目標をいずれも達成することができた。
令和4年度の研究の結果として得られたデータセットと予備的な分析からもたらされた実証的根拠を基盤にして、税制設計と技術革新の間の密接な関係を前提としながら、発明家の租税回避インセンティブによる転居行動を局所的な知識溢出効果の因果効果を推定することが可能となったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては上位発明家の通勤圏への移住が移住先の通勤圏に居住する下位発明家のイノベーション活動に与える因果効果を操作変数法(Instrumental Variable Method, IV Method)により推定する予定である。具体的にはある年にある通勤圏に移住した上位5%発明家が流入先の通勤圏に現住する下位95%発明家のイノベーション活動に与える知識の溢出効果を推定するために二元配置固定効果モデルによる回帰分析を実施する。
その際に、回帰分析における因果推定の障壁となる説明変数の内生性問題を解決するために、計量経済学理論分野において急速かつ重点的に研究が実施されているBartik IV やEvent Study といった分析手法を適用する。これらの最先端の分析手法、特に、IV Event Study 分析の手法は最上位の経済学雑誌でも適用された例はほとんどないため、計量経済学理論にもとづいたこれらの推定手法の解析とシミュレーション分析についても、本研究課題の主眼である上位発明家の通勤圏への移住が移住先の通勤圏に居住する下位発明家のイノベーション活動に与える因果効果推定とともに実施する計画を立てている。
もし、上記の研究計画が順調に進んだ場合では、さらに研究をすすめ、因果効果の分析を時間的・空間的・制度的に拡張することで発明家間の知識溢出が技術革新を誘発するメカニズムを解明する作業に取り掛かる予定である。
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