研究課題/領域番号 |
22K01504
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07040:経済政策関連
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
中平 千彦 明海大学, 経済学部, 教授 (50433371)
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研究分担者 |
長原 徹 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (30509253)
薮田 雅弘 中央大学, 経済学部, 教授 (40148862)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 自然利子率 / インフレ期待 / バンドパスフィルター / フィッシャー方程式 / カールソン=パーキン法 / NAIRU / 労働市場の動学的分析 / 実質利子率 / ホドリック=プレスコット・フィルター / バンドパス・フィルター / カルマンフィルター / スタグフレーション / 自然率 / 利子率 / 期待インフレ率 / 金融政策 / 構造変化 |
研究開始時の研究の概要 |
今回の研究では、日本における自然利子率の考察を、人口構成の推移、労働生産性の変化、技術進歩の観点から理論的・実証的に行い、日本経済の将来像を捉える。 自然利子率と人口構成の関係を探るにあたり、米国のように人口構成が砲弾型になっている国と日本のように逆ピラミッド型になっている国とでは、それらの相互関係は異なるはずであり、その視点からの研究が可能である。また、自然利子率と技術進歩の関係について、例えば技術進歩の停滞は負の要因であるが、AIの発達による生産要素間の代替可能性の拡張は、自然利子率を改善する要因となる可能性を持つ。 本研究では、このような観点から、独自性のある考察を試みる。
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研究実績の概要 |
(中平) 2020年度は、バンドパスフィルター、具体的には、Christiano-Fitzgerald filterおよびBaxter-King filterによって、推定実質短期利子率のトレンド要素を統計的に抽出する形で、2004年4月から2023年10月までの期間における自然利子率を推定した。その結果、日本の自然利子率が継続的に下落しているとの結論を導いた。その成果は、論文として、『経済学論叢』(同志社大学),第75巻2・3号およびEconomics and Business Quarterly,vol.6,No.4に掲載された。 (長原) 「名目利子率=実質利子率+期待インフレ率」で定義されるフィッシャー方程式をもとに、カールソン=パーキン法を用いて期待インフレ率を推計した後、名目利子率から推計された期待インフレ率を差し引くことで実質利子率を算出した。こうして算出された実質利子率と、一定条件下で実質利子率と同義に扱われる自然利子率とを比較し、実質利子率と自然利子率がほぼ等しくなるための条件を検討した。先行研究によれば、この条件の一つは市場が完全雇用状態にあるときというものだが、長原の研究結果からは不完全雇用状態と思われる時期でも実質利子率と自然利子率がほぼ等しくなっていることが分かった。 (薮田) 本研究課題は、自然利子率をキーワードにマクロ経済の長期的な安定性について検討を行う点が主題であるが、この点について、主に薮田は自然利子率の理論的な把握とその経済的把握に関するレビューをベースに検討を行った。安定性を担保する考え方は、NAIRUなどのように労働市場との関連の中で把握するアプローチがあるが、この点も踏まえて分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(中平) 自然利子率は観測不可能な変数であるため、推定が必要であるという観点から、実証研究を行ってきた。2023年度は、統計的フィルターの中でもBand-Pass Filterに分類される2つ、具体的にはChristiano-Fitzgerald filterおよびBaxter-King filterを用いて推計を行った。特に、中央銀行がインフレ圧力や超過需要を認識して政策金利を上昇させ、それが速やかに物価調整過程に波及するならば、実質短期利子率は自然利子率の漸進的な経路と密接に変動するはずであり、その点で、短期実質利子率から統計的フィルターを用いて抽出されたトレンド要素は自然利子率の推計値と見なされるという視点で、研究を進行させた。 (長原) 研究分担者の長原はアーヴィング・フィッシャー著『価値上昇と利子』、『利子率』、『利子論』をサーベイし、「名目利子率=実質利子率+期待インフレ率」で定義されるフィッシャー方程式における実質利子率がどのような理論的枠組みのもとで説明されるかを研究した。また、クヌート・ヴィクセル著『利子と物価』や渡辺努著『物価とは何か』などをサーベイし、自然利子率の定義に関する再解釈を行った。こうしたサーベイの結果、(1)研究実績の概要で述べた通り、実質利子率=自然利子率の成立条件の一つである市場の完全雇用状態が成立しない場合でも、両者が等しくなる期間が日本において存在することを発見した。 (薮田) 供給面などの外生的ショックの影響を分析し、これが及ぼす経済成長への影響、労働市場への影響について分析し、スタグフレーションを含むマクロ経済分析を行うための基礎的分析とサーベイを行った。2023年度は論文などの成果を出すことができなかったが、2024年度には、研究会、学会などで意見交流などを積極的に行なう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(中平) 今回の研究では、経済学の“自然率”の1つである“自然利子率”に焦点を当て、日本の自然利子率がいかなる推移を見せているか、あるいは、政策変数がどのようにそれを誘導できるかを、実証的に考察している。自然利子率は観測不可能な変数ゆえに推定が必要であるため、さまざまな推計を行ってきた。今後は、たとえば、カルマンフィルターやVAR(ベクトル自己回帰)モデルを用いた計測を試み、今まで行った計測の結果と比較し、その中から次の研究の方向を模索し、特に政策変数が、いかに自然利子率を誘導できるのかを考察するする意向である。 (長原) 実質利子率という観察不能な経済変数を算出し、本研究課題のテーマである自然利子率との比較を行ってきた。一方、先行研究では自然利子率の推計方法の確立が進められており、その中の一つにHPフィルターやカルマンフィルターといったフィルタリングによって利子率推移におけるトレンド部分を抽出し、このトレンド部分を自然利子率とする方法がある。今後は、こうしたフィルタリング手法によって自然利子率を推計する方法のサーベイを行うとともに、トレンド部分を自然利子率と見なす理論的背景の検討を行う所存である。 (薮田) 外生的ショックなどの影響が労働市場に及ぼす影響を分析する。これに関し、労働市場の動向が賃金決定に及ぼす影響を分析したYabuta(1993)のマクロ分析(Economic Growth Models with Trade Unions: NAIRU and Union Behavior, Journal of Macroeconomics)、ならびにNakahira and Yabuta(2016)の分析(The Keynesian Unemployment and Capital Shortage: A Simple Dynamic Approach with Trade Union)などの分析視点を援用する予定である。
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