研究課題/領域番号 |
22K01521
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
白石 小百合 横浜市立大学, 国際商学部, 教授 (70441417)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 行動経済学 / ウェルビーイング / Unpaid Work / 生産関数 / 操作変数法 / 献血 / ボランティア / 幸福度 / おうち時間 / ボランティア活動 |
研究開始時の研究の概要 |
コロナ禍の現状では自宅で過ごす時間が増え、いわゆるおうち時間に行う家事育児などのアンペイドワークへの興味・関心が高まっている。幸福度研究の知見によると、幸福度と所得、そしてアンペイドワークとの間には(ある程度の)安定的な関係がある。そこで本研究は新しい視点として、パネルデータ分析とサーベイ調査、ナッジ実験の3種類の方法により、家庭内で行われる家事・育児等のケア行為と、ボランティア活動としての献血を研究対象とし、アンペイドワークが人々の主観的幸福感に与えるメカニズムの検証、及び、アンペイドワークのきっかけとなるモチベーションを見いだすことを最終目標とする。
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研究実績の概要 |
主観的幸福感には、金銭面と並んで、金銭以外の要因(家族の存在やボランティア活動への参加等)も影響を与えていることが幸福度研究によって明らかになりつつある。すなわち、人々の日中の活動は、ペイドワーク(給与が支払われる家庭外の労働)と、アンペイドワーク(給与は支払われない家庭内の労働やボランティア活動)に分類されるが、前者のも後者も幸福感に影響を与えることになる。本研究では、アンペイドワークのうち、特に家事・育児・介護などのケア行為とボランティア活動の一種である献血行動を取り上げる。本研究は2つの問いを設定する。第1の問いは、アンペイドワークが人々の主観的幸福感に与える影響を明らかにすることである。第2の問いは、人々の内発的・外発的モチベーションが、アンペイドワークを行う際に与える作用の見える化である。 第1の問いについては、いわゆる幸福度関数の推定作業を進めた。すなわち、日本家計パネル調査(KHPS・慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター)の個票データを用いて、世帯で供給されているアンペイドワークが、世帯員にもたらす幸福感の解析を行うため、アンペイドワークを世帯単位・世帯員単位に整理した。幸福度関数の推定作業にあたっては、アンペイドワーク時間数と幸福度との見せかけの相関関係の可能性を排除するために、アンペイドワーク時間数を内生変数と設定した操作変数法の検討を行った。第2の問いについては、人々の内発的・外発的モチベーションを、①家計内の役割分担意識②大学生を対象とした献血行動促進ナッジ、ととらえ研究を進めた。①については家計生産関数の理論モデルから、世帯員の賃金でアンペイドワークの多寡を説明する推計モデルを導出し、KHPSの2時点間のデータを用いて、代替の弾力性を推定した。②についてはナッジ実験に先立ちペルソナ設定を行うためのアンケート調査を行った後にナッジ実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の問いの幸福度関数の推定作業については、その成果の一部は日本経済学会22年度春季大会にてポスター報告を行った。出席者からさまざまなコメントをいただき、それらを踏まえて、先行研究のサーベイ、理論モデル、推計方法等の工夫を行った。中でも、幸福度をアンペイドワーク時間数で推計する場合、アンペイドワーク時間数が内生変数の可能性があり、操作変数法による推定の必要がある。適切な操作変数の探索に時間を要したが、先行研究を丹念にサーベイすることとデータ分析の組み合わせによって、「親との近居同居」変数を操作変数に用いた推計を行うことによって、幸福度とアンペイドワークに内生性があることが示された。 第2の問いの①家計内の役割分担意識については、Becker(1960)以降で標準的に用いられている家計内生産関数を用いて、家計内の家事分担比率を賃金比で説明する推計作業を進めた。KHPSの2時点間のクロスセクションデータで推計を行うことで、係数の違いを意識の変化として捉えることができるかの検討を進めている。 第2の問いの②大学生を対象とした献血行動促進ナッジについては、申請時点での研究のフレームワークに新しい視点を取り入れたことで研究の幅が広がった。すなわち、ナッジ実験の対象者を勤務先大学の学生に限定することはサンプルの代表性の問題となり得たが、それを、マーケティング分野等で行われるペルソナ設定に置き換えることで本研究の対象者を見える化することとし、ナッジ実験実施前の23年1月にアンケート調査を行って、行動経済学的特質(協調性、リスク回避度、ボランティア意識)を抽出し、それを23年4月実施のナッジ実験でポスターの記載内容に反映させた。
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今後の研究の推進方策 |
第1の問いの幸福度関数の推定作業については、推計作業がほぼ完了しており、今後は論文執筆を進め早急に投稿を行うと共に、行動経済学会での発表を予定している。 第2の問い①家計内の役割分担意識については、推計上等のいくつかの課題(比率を取る際にどちらかがゼロ値である場合の取扱い、働き方改革、年金等諸制度の確認、トービット推計の実施など)への対応を行った後に、シミュレーションを行う予定である。 第2の問い②大学生を対象とした献血行動促進ナッジについては、23年4月下旬にフォローアップのアンケート調査を行っており、ポスター掲示の効果の数量分析を進め、23年夏にはまず論文の第一稿を完成させると共に、行動経済学会で発表を予定している。23年秋にも再度、ナッジ実験の実施を予定しているが、23年4月で行った、アンケート調査、ポスター掲示に加えて、映像情報によって、人々の行動の見える化を図る企画を検討中である。以上の通り、本研究課題が取り組む2つの問いに関しては、申請時に予定していた研究企画について、成果の公表に向けた作業が順調に進められている。 加えて、少子化に関する研究プロジェクト(横浜市立大学ハマスタディ研究)に参加することで、第1の問いの深掘りを行うこととした。具体的には、この研究プロジェクトでは横浜市在住の子育て世帯(夫と妻)を対象とした独自のアンケート調査結果を実施し、幸福度、アンペイドワーク等の生活時間の状況に加えて、K6など幸福度とは逆方向のネガティブな主観、生活の各面に対する主観的な満足度、個人属性、横浜市の子育て関連施策への認知度などの情報を収集する。本研究課題ではこのデータを基に、都市在住の子育て世帯のウェルビーイングと家計が捉えている主観的な政策への満足感との関係、子育て関連施設と子育て世帯ニーズとの需給バランスについて、GISなどの方法論を用いた分析の準備を進めている。
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