研究課題/領域番号 |
22K01536
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
菅 万理 兵庫県立大学, 国際商経学部, 教授 (80437433)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 男女雇用機会均等法 / 学歴 / 抑うつ症状 / 中高年期 / ジェンダー / マイクロデータ / 健康 / プログラム評価 / Well-being |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日本の労働市場における男女間差別の是正について初めて規定した「男女雇用機会均等法」が、対象となった女性の心身の健康や生活習慣にどのような影響を及ぼしたか、中長期的効果に注目してマイクロデータを用いて実証分析する。 ポスト均等法の第一世代は現在50代後半のプレ定年期に差し掛かっており、改正均等法以降の第二世代も40代後半に差し掛かる。本研究では、この2つのポスト均等法世代の健康がその直前の世代の健康とどう異なるかを差の差分析(difference-in-differences)などのプログラム評価の手法を用いて明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、日本の労働市場における男女間差別の是正について初めて規定した「男女雇用機会均等法(「均等法」)」が、対象となった女性の心身の健康にどのような影響を及ぼしたか、中長期的効果に注目して実証分析するものである。 これまでの均等法の効果分析は、40歳前後までのデータを使い、大学進学率、就労と賃金、結婚のアウトカムに集約されており、本課題が健康への影響についての初めての実証研究となる。初年度の2022年度は、「消費生活に関するパネル調査」(以下、JPSC)のマイクロデータを用い、家族状況、就労状態、経済的状況、生活習慣、健康状態など中高年期の広範なアウトカムについて、「ポスト均等法世代の何がどう異なるか」を検証した。結果から、家族形成に関し、先行研究で確認された30代での違いが、その後も継続し、長期的にもポスト均等法世代の方で有配偶率が低くなっていた。50歳以降の就労率、雇用所得、貯蓄額など、経済的状況について、ポスト均等法世代で優位であることが観察された。メンタルヘルスについては、ポスト均等法世代でよい状態が継続していた。 本研究の第一の関心は均等法の健康指標への効果であり、2023年度はメンタルヘルスを被説明変数とした計量分析を進めた。具体的には、新卒採用で均等法の影響を受けたと考えられる大卒者をトリートメントグループ、対して高卒者をコントロールグループと設定し、直前・直後の2つのコホートグループのアウトカムを措置前後の値とみなした疑似的な差の差の分析(DID) の手法を用いた分析を行った。結果から、大卒者のうち均等法施行後のコホートは、うつ症状を訴える確率が低くなっていた。このことから、均等法は、大卒女性の中高年期のメンタルヘルスに良い影響を与えたと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、「均等法」の健康指標への中長期的効果を検証するものであるが、これまでのところ均等法の効果については、就労と賃金、大学進学率、結婚のアウトカム、あるいは、結婚と就労との連関に集約されており、また先行研究のいずれもが、対象者が40歳前後となるまでのデータを用いた分析であった。このことから、そもそも中長期的な効果はあるのか、さらに何らかの健康指標についての効果はあるのか、という問いへの答えについて、よりどころとする先行研究は存在せず、データから観察する以外になく、初期的な探索的分析に時間を費やす必要があった。本課題の初年度には、記述的な分析を行い、大卒女性について、「均等法」前後の世代のグループ間で、健康指標について違いがあるかを検証した。その結果、中高年期の主観的な健康観については明確な違いが観察されなかったが、メンタルヘルスについては体系的な違いが観察されたことから、中高年期のメンタルヘルスー具体的には抑うつ症状をアウトカムとする分析を進めることとなった。 2023年度は、上記のアウトカム変数を用いた計量分析から、均等法が、大卒女性の中高年期のメンタルヘルスに良い影響を与えたことが観察され、均等法の一定の効果が確認された。これらの研究結果を国際学会で報告する予定で準備を進めていたが、6月にコロナウィルスに感染し、その後の持続的な症状のため学会報告を取りやめることになった。さらに12月にインフルエンザ感染してしまったことから、本来進めているはずであった得られた結果の経路分析が遅延することになってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の分析から、均等法は、大卒女性のメンタルヘルスに良い影響を与えたことが示されたが、研究課題最終年度の2024年度は、メンタルヘルスへの効果がどのような経路を経て対象者に及ぶことになったかを中心に分析する。これまでのところ、単純なモデルを用いたパス分析を進めている。 2024年度は、国内外学会、研究会などで研究報告を積極的に行い、そこで得られたコメントなどを参考に、迅速に論文の執筆、学術誌への投稿を進める。学術誌の査読過程を考慮し、2024年度中には最終的な研究成果が出せるよう年度前半に効率よく論文執筆を進める。 また、均等法の施行から既に38年が経過し、均等法第一世代はそろそろ定年退職期に差し掛かってているが、「均等法」が対象となった女性にどのような効果を与えたかは十分に明らかになっていない。例えば、「就職氷河期」に労働市場にエントリーしたことを新卒時のネガティブ・ショックと見做すならば、新卒時のタイミングで「均等法」が施行されることはポジティブ・ショックといえるかもしれない。そのショックは対象となった女性にどのような中長期的な効果を及ぼしたのか、その効果はどのような経路を通して及んだのか。「差別禁止法」の効果を計測し、その結果を示すことは国際的に重要な意義があるのはもちろんであるが、まだまだ男女間平等が実現しない日本の労働市場において今後の施策を検討するうえでも欠かせないことであると考えられる。論文の執筆に当たっては、英文による学術的発信だけでなく、和文の論文を広く発信する方策も模索したい。
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