研究課題/領域番号 |
22K01558
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07060:金融およびファイナンス関連
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
林田 実 北九州市立大学, 経済学部, 教授 (20198873)
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研究分担者 |
大野 裕之 東洋大学, 経済学部, 教授 (50285459)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | Causal Forest / 確定拠出年金 / 優遇税制 / 金融行動 / NISA |
研究開始時の研究の概要 |
日本経済の成長を後押しするために、「貯蓄から投資へ」が言われて久しい。1996年の日本版金融ビッグバン以来、家計の証券投資を税制面で後押しするために様々な改革が進められてきているが、その成果は十分表れているとは言い難い。そのような背景にあって、近年「金融教育」の効果を肯定的にとらえる声が大きくなってきている。しかし、それは、事実であろうか。我々は日本証券業協会による『証券投資に関する全国調査(個人調査)』と『個人投資家の証券投資に関する意識調査』を分析の中心に据え、Causal Forestという機械学習によってデータ分析を行い、金融教育が個人の投資行動に与える影響を分析していく。
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研究実績の概要 |
「貯蓄から投資」が叫ばれて久しい。日本銀行調査統計局(2021; p2)によれば、2021年3月末時点で、個人金融資産に占める「株式等」および「投資信託」の割合は、米国が51.0%、ユーロエリアが27.8%であるのに対し、我が国は14.3%という低水準である。反対に、「現金・預金」の割合は、米国が13.3%、ユーロエリアが34.3%であるのに対し、我が国は54.3%もの高水準にある。我が国の預金偏重をいかに打開していくかは依然として喫緊の課題である。 そのような中にあって、昨今、金融教育やその成果としての金融リテラシーが注目を集めている。OECDでは2008年より「金融教育国際ネットワーク(INFE)」を組織して、政策対話や金融リテラシー調査に取り組んでいる。我が国でも金融庁が2012年に「金融経済教育委員会」を立ち上げて報告書をまとめた他、貯蓄広報中央委員会がホームページで「金融リテラシー・モデル講義」を公開し、また『金融リテラシー調査』を実施している。税制を含めさまざまな施策を講じながら四半世紀近く経てもなお、日本人の金融行動が大きく変わらない中、金融教育・金融リテラシー向上が残された最後のオプションかもしれない。 このような状況のもと、我々は、本年度の研究において、金融教育が、人々の貯蓄・資産形成や意識・行動に与える影響を探った。ターゲット変数としては、将来見通しが暗い公的年金を補うものとして2001年に導入された確定拠出年金にフォーカスし、それへの影響を計量経済学的手法で探ることとした。特に、Causal Forestと呼ばれる機械学習のひとつを用いて、データ分析を行ったことが我々の研究の特色である。CFを用いることによって、金融教育の処置効果が多用な異質性、すなわち、個々人の属性に応じてその効果が異なることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は後掲する3つの論文を執筆した。論文1はCausal Forestを用いて、金融教育が確定拠出年金への加入・非加入に対してどのような影響を与えているかを探った。具体的には、日本証券業協会実施の『証券投資に関する全国調査』2018年の個票データを用いて、処置変数として金融教育を、目的変数として企業型DCへの加入/非加入およびiDeCoへの加入/非加入を考え、さらに金融資産総額などの主要な変数を説明変数として、最新のデータ解析技法であるCausal Forestによって解析した。これによって、処置効果としての金融教育に全体として効果があるか否か、また、説明変数の高低ごとに処置効果に違いがみられるか否かという異質性の分析が可能となった。結果は、企業型DCについて、全サンプル、投資家サンプルで金融教育にプラスの効果が得られた。また、金融資産保有額(個人)、年収(個人)、性別などで異質性が確認された。他方、iDeCoについては、全体としての金融教育の効果は強くは現れなかった。ただし、処置変数の効果の異質性については、年齢、NISA利用、世帯人数、などで観測された。 他方、論文2,3は論文1を補完する位置づけのもので、分析手法として従来型のプロビットモデルを用いた点に論文1と相違するところがある。また、論文3では、あらたに金融リテラシーに注目して、確定拠出年金への加入・非加入、金融教育、金融リテラシーの3つの変数の関係に注目し分析した。 以上により、当初の研究計画であった優遇税制と金融行動の分析において、具体的に確定拠出年金加入・非加入に対して金融教育が与える影響に着目し、その関係について、一定の分析を行うことに成功したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は日本証券業協会実施の『証券投資に関する全国調査』(以下『全国調査』)の2018年調査のデータを使ってCFによる分析を行ったが、次いで同じく日本証券業協会実施の『個人投資家の証券投資に関する意識調査』(以下『意識調査』)の2019年~2021年調査のデータを用いて同様の分析を行う 。また、『全国調査』の2021年調査のデータも入手できたので、それを用いて同様の分析を行うことも検討している。 その後は、優遇税制のもう一つの柱である、少額投資非課税制度(以下「NISA」)に関する質問を用いた分析に進む。2014年に導入され、確定拠出年金より歴史の浅いNISAについては、CFはもちろんのこと、伝統的な計量経済分析の手法を用いた分析も蓄積が薄い。NISAに関する質問は『全国調査』『意識調査』のいずれにも、さまざまに多数存在している。この中から、CF分析に適したものを選別し、分析を施す。 これらの分析が遂行出来た後には、貯蓄広報中央委員会実施の『金融リテラシー調査』や『家計の金融行動に関する世論調査』など他のアンケート調査の個票データを入手して、確定拠出年金やNISAに関して、適切な処置変数を選択してCF分析を行うことを検討する。
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