研究課題/領域番号 |
22K01560
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07060:金融およびファイナンス関連
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研究機関 | 東洋学園大学 |
研究代表者 |
畔上 秀人 東洋学園大学, 現代経営学部, 教授 (90306241)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 家計のリスク選好 / 消費行動 / 生命保険 / 遺産動機 / 家計の金融資産 / 金融資産選択 / 金融リテラシー / 複合的分析手法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、時間的・空間的視点を持って家計のリスク選好を解明する。消費者行動理論や行動経済学の発展によって、家計のリスク選好に影響を与える要因が、同時点の変数としてはかなり解明されたが、世代にわたってリスク選好の形成に作用する要因については未解明である。本研究では、100年以上にわたる家計の金融資産選択とそれにかかわる定量的データを地域別に整備するとともに幅広い文献資料を用い、家計のリスク選好が過去の世代や地域からどのような影響を受けているのかを明らかにする。これにより、現在の家計が持つ金融資産選択におけるバイアスも明らかになり、その改善に有効な金融・経済リテラシーの特定につながると予想される。
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研究実績の概要 |
研究実施計画に基づき、初めに2019年「全国家計構造調査」の結果を整理した。この調査は情報量が多く、様々な集計方法で結果が公開されている。そこで、本研究の特徴の一つである地域に着目した接近法が可能となるよう、都道府県別の調査結果がわかるものについては、クロスセクション・データの形で集計した。これは、地域ごとに異なり、時間によって変化しづらい共変量の存在を仮定するものである。 本研究の対象となる生命保険等の支払累計額及び有価証券の保有残高に関しては、2014年と2019年の間の相関係数は、有価証券で0.873、生命保険等で0.798となっていた。ただし、2014年調査の名称は「全国消費実態調査」である。また、2014年の生命保険料等の支払累積額と株式等保有額、及び2019年の生命保険料等の支払累計額と有価証券保有額との間には、どちらも負の相関関係があることがわかり、家計のリスク選好が地域内で継続的であることが確認された。 一方、ゆうちょ財団が保有する「家計と貯蓄に関する調査」の個票データを用いた分析では、ホリオカ・新見(2017)「日本の高齢者世帯の貯蓄行動に関する実証分析」『経済分析』(内閣府経済社会総合研究所、第196号)の結果を再検証した。初めに、同研究では第1回及び第2回の調査結果を用いていたところ、本研究ではその後2回分のデータを加えた。そして、日本の高齢者世帯が資産をほとんど取り崩していない理由は、予備的貯蓄及び遺産動機の存在であることが確認された。 続いて本研究では、遺産動機の存在が資産の維持に正の影響を与えるのであれば、生命保険料等の支払累積額も同じ影響を与えると考え、これを検証した。具体的には、説明変数に生命保険料等の支払累計額と個人年金保険料の支払累計額を加えた。しかし、現時点では新たに加えた2つの変数の影響は有意でないという結果になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、2022年4月から8月を第1期として、家計の消費行動を明らかにするとした。具体的には、2019年「全国家計構造調査」結果の整理・分析である。多くの結果は、研究実施計画策定時の予想通り2021年末までに公開されたが、一部については2022年の半ば以降となった。これにより、研究の進捗に多少影響があった。研究実績の概要で記したとおり、生命保険及び有価証券など、家計のリスク選好と関連する変数に作用する要因を探る作業を行った。 2022年9月から2023年3月の第Ⅱ期については、有償データを使用して関連する資料を分析する計画だった。しかし、所属する学会を通じて、ゆうちょ財団が保有する「家計と貯蓄に関する調査」の個票データの活用を打診されたため、同財団より借用した。同調査はこれまでに5回行われているが、今回借用したものは第1回から第4回までのデータである。 先行研究に従い、日本の高齢者が金融資産の取り崩しに消極的である理由を探った。土地や住宅といった実物資産とは異なり、金融資産には直接的な使用目的はなく、金融資産を残したまま死亡した場合には、生涯の効用が、それを使い切った場合と比べて低くなることがポイントである。それでも金融資産の取り崩しを行わないとすれば、生起が不確実な事故に備える動機があると推測できる。そこで、そのような事故に備える手段の一つとして用いられる保険を契約している高齢者ほど、資産の取り崩しはしやすいという仮説が導かれる。また、先行研究では金融資産の取り崩しをしない理由の一つに遺産動機の存在があるとされた。これに基づけば、生命保険等の契約をしていれば、遺族に遺産と同等な金銭を遺すことができるため、生命保険料等の支払累積額は、金融資産の取り崩しに対して正の影響を与えると推測される。現在は、この仮説を検証しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画の第Ⅲ期(2023年4月~2023年9月)では、第Ⅱ期(2022年9月~2023年3月)に構築されたデータの単純集計から、各変数間の相関関係等を概観し、リスク選好の形成及びそれに影響を与える要因について仮説を立てるとしている。現在は第Ⅲ期に入っているが、予定通りデータベースの整備と取り扱う変数の単純集計作業を行っている。今後は、事前分析から導かれた仮説に基づき、それを検証するアンケート調査を行う。これと並行し、ここまでの研究結果の一部は国際学会で発表する。具体的には、2023年7月30日から8月2日までの間に開催されるアジア太平洋リスク保険学会年次大会のプレナリーセッションⅡで、テーマは少子高齢化対策である。日本の公的年金保険制度は少子高齢化によって負の影響を受け得るが、研究代表者は、日本の家計がそのリスクを認識してどのように行動しているのかを明らかにする。 第Ⅲ期のアンケート調査から得られる情報は、当然現在の世代のものに限られるため、第Ⅳ期(2023年10月~2024年3月)では、調査結果に記述的資料からの情報を加えて定量的データを整備し、統計的推定モデルの構築を行う。ここでは、これまでの研究成果を活用し、長期間における広告や小説といった幅広い資料を用いる。すなわち、地域の固定効果を表す変数を、記述的資料から導出するのである。この手法自体が新規性を持つため、学会での発表を予定しているが、資料の英訳作業に時間を要するため、国内学会に限る。一方、統計的推定モデルの結果は論文としてまとめ、国際学会の研究大会に応募する。続く第Ⅴ期(2024年4月~2024年9月)では、各種学会の研究大会における議論を踏まえて研究成果は論文に仕上げて海外を含めた専門誌へ投稿する。最後に第Ⅵ期(2024年10月~2025年3月)では、研究成果を書籍として公表する準備を行う。
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