研究実績の概要 |
家計はキャピタル・ゲインを求めるためバブル資産を購買するに当たって、閉鎖経済又は資源制約を受ける場合、投機的貯蓄動機により過剰貯蓄(又は過小消費)を行う。この投機的貯蓄は無限期間モデルで筆者の論文に示されている(Wan, Junmin, 2021, US-China Trade War: Speculative Saving Perspective, The Chinese Economy, 54(2), pp. 107-123)。2期間モデルで投機的貯蓄について更なる考察を行ない、得られた理論的結果をワーキングペーパーにまとめた(Wan, Junmin, 2023, Backward-bending Investment-Saving Curve, Center of Advanced Economy Study, Fukuoka University, Working Papers, WP-2023-001, pp. 1-22)。2期間モデルでも無限期間モデルと同じく過剰貯蓄(又は過小消費)が起こるのが確認され、特に低金利のような金融緩和策が消費を下げる(又は貯蓄を上げる)ことが再確認された。貯蓄の利子率弾力性が負である消費(貯蓄)関数をケインズ型経済におけるInvestment-Saving Curve(IS曲線)に導入する場合、利子率の低下が企業投資を引き上げる一方、家計消費を引き下げてしまうので、マクロ的な総需要である消費プラス投資は、結果的にある利子率において最大となり、伝統的な右下がりのIS曲線が得られなくなり、後方屈折型IS曲線が現れて、資産バブルと総需要不足が同時に起こるのが示されている。よって、低金利を含む異次元金融政策は資産投機売買を助長し、総需要を引き下げてしまうので、長期不況の一因にもなり、その弊害の再検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
ワーキングペーパーにまとめられた理論的結果を学会などで報告を行い、分野近い専門家の意見やコメントなどを伺い、改訂などを行う。また、Charles P. Kindleberger (2000, Manias, Panics, and Crashes: A History of Financial Crises, 4th edition, Wiley)に報告されているように、1690-1921年の英国ではバブル崩壊と金融危機が9年に1件のペースで発生した。英国における百年超の間のバブルの繰り返しの発生と崩壊、及び、貯蓄との関係性について関連データを探し、投機的貯蓄仮説を検証する。
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