研究課題/領域番号 |
22K01682
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
|
研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
鈴木 勝博 桜美林大学, 大学院 国際学術研究科, 教授 (40293013)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | 地域イノベーション / ナレッジフロー / 地域未来牽引企業 / 特許 / オープンイノベーション / イノベーション / 中小企業 / 地域活性化 |
研究開始時の研究の概要 |
不確実性の高まった現在、企業経営におけるイノベーションの重要性は増している。本研究では、地域経済をけん引する優良な中堅・中小企業群を対象に、イノベーション創出の実態とその成功要因を、アンケートと各種データ(企業属性・特許データ等)を活用した定量分析によって明らかにする。伝統的な産業集積論では、暗黙知の獲得のため、「地理的近接性の重要性」が重視されているが、情報化の進展した現代では、「遠隔地からのナレッジ獲得」をおこなう事例も出てきている。「経営学の視点」に「経済地理学の観点」を融合し、様々なハンデを乗り越えながらイノベーションを志す事業者との支援者のため、有益なエビデンスを得ることを目指す。
|
研究実績の概要 |
2023年度は、地域未来牽引企業の特許データに着目し、(1) イノベーションの前提となる知財出願活動の活発さや産業分野別の特徴、ならびに、(2) 本研究開始のきっかけとなった「(知識伝搬における)企業間の地理的近接性の変化」について、予備分析を実施した。 (1)については、ターゲット企業4,751社について、2000年から2019年までの20年間に出願された全特許(10万2千件)を収集し、集計と分析を行った。出願特許は、R&D活動の代替変数としてしばしば利用され、イノベーションのイネイブラーとしても知られている。分析の結果、(i) ターゲット企業の半数強(56%)が特許を出願しており、通常の中小企業よりもかなり活発な知財活動が行われている事、(ii) 産業別では「製造業」、「鉱業・採石業・砂利採取業」、「情報通信業」などで活発な出願が行われている事が分かった。 また、(2)については、地域間のナレッジフローを可視化するため、(1)で収集した特許データのサブセットである「共同出願特許」(約18,000件)を分析した。共同出願では、一つの特許に二つ以上の出願人(法人)が含まれる。そのため、出願人の所在地間で知識フローが生じているとみなす事ができる。都道府県別では、東京や大阪といった大都市圏の企業を含む共同出願特許が多く、全体の30%程度を占めている事が分かった。一方、同じ県内の企業群による共同出願は、全体の13%のみであった。また、共同出願における出願人同士の「地理的な距離」を近似的に計算したところ、2000年代よりも2010年代のほうが有意に長くなっている事が確認できた。以上より、現代日本においては、他の組織とともにオープンな知識創造を試みる際、ペアとなる企業間の地理的近接性の重要性が薄れ、都道府県境を越えたダイナミックなナレッジフローが生じている様相が示唆される結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初予定していた「個々の企業におけるイノベーション創出」についてのアンケートに先だち、イノベーションのイネイブラーのひとつである出願特許データを整備し、その実態の把握、ならびに、地域間のナレッジフローに関する分析を実施した。なお、今年度の分析は特許データのみに立脚しており、イノベーション研究の観点ではやや間接的な側面を有する。しかしながら、イノベーション創出の源となる「知識創造」や「地域間ナレッジフロー」を研究する観点では、特許はその目的に適したデータとみなせるため、一定の合理性・説得性を有する研究手法だと考えている。 さて、今年度の分析結果には一定の新しい知見が含まれ、予備的ながらも意義があったものと考えている。本研究のターゲットである「地域未来牽引企業」の実態については、経済産業省からの報告書が二~三公開されてはいるものの、特許や知識フローに関する分析は含まれていない。一方、上述のとおり、本研究においては、ターゲット企業群において、(i) 都道府県境を超えた「遠方からのナレッジフローの活用」がすでに一般化していること、ならびに、(ii) 共同して発明をおこなう企業間の地理的距離(概算距離)が有意に延びている傾向、の二点を実証的に確認でき、当初計画とは異なる進行ではあるものの、おおむね順調だと考えている。 来年度は、今年度の研究に対する補足的な追加研究を行うとともに、ターゲット企業のイノベーション創出状況をアンケートによって調べ、「地域イノベーション」創出の実態とそのメカニズムに迫っていきたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、(1) 今年度のデータに対する追加データの結合と分析を行い、ジャーナルペーパーにまとめる作業、ならびに、(2)イノベーションに関するよりアンケート調査を用い、これにもとづく分析を実施していく予定である。 このうち、(1)に関しては、企業の所在地に関するGPSデータを結合して「法人間距離」の精緻な測定を行い、「地理的近接性の変化」について、最終的な検証を行う予定である。今年度の予備研究では、各企業が属する県の「県庁所在地」に着目し、県庁所在地間の距離によって企業間距離を代替した。このような簡易計測であっても、ターゲット企業群がそれぞれの県庁所在地の周辺に相応に散らばっていれば、相応の精度が出ているものと考えられる。今後はGPSデータによってこれを正確に再計測し、決定的なエビデンスを得たいと考えている。また、あわせて、上記データに対し、今年度購入した「企業業績データ」をさらに結合し、業績と各種出願活動や知識フローとの関係性について、より深い分析を進めていく予定である。なお、これらの分析結果については、2024年度末を目標に、海外ジャーナルへの投稿をめざしたい。 また、(2)については、OECDのオスロマニュアルに準拠したアンケート調査票をベースに、「知識交換の実態」、「各種リソースの調達方法」、「地理的制約」等に関する設問を追加し、アンケート調査を実施していく予定である。この調査については、年末の繁忙期を避け、2023年11月が2024年2月に実施したいと考えている。
|