研究課題/領域番号 |
22K01688
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
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研究機関 | 山梨学院大学 |
研究代表者 |
東 秀忠 山梨学院大学, 経営学部, 教授 (50583267)
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研究分担者 |
南 聡一郎 国土交通省国土交通政策研究所, 主任研究官(任期付) (20781917)
秋山 哲男 中央大学, 研究開発機構, 機構教授 (10094252)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 破壊的イノベーション / 公共交通 / 地方自治 / 技術ロードマップ / バリュー・ネットワーク / モビリティ・イノベーション / 地方分権 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,「破壊的イノベーション」の実現に関わる主体として公的部門が果たす役割に着目し,その影響と意義を明らかにする事を目的とする. この目的を達成するため、本研究ではキー・リサーチ・クエスチョンを「破壊的イノベーションに対して公共部門は受動的な存在でしかないのか?」と設定して、その問いへの仮説は「否」であるとする。この仮説を検証するために, 超低床LRTについての事例研究を行い、公共部門がイニシアティブを執り, 破壊的イノベーションを実現した事例を実証する。さらには、これを通じて 破壊的イノベーションの理論に新たなアクターとしての公的部門の導入を提起し, 理論的拡張を目指す.
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研究実績の概要 |
2023年度には実地調査を主体として研究を推進した。具体的にはフランス各都市(パリ、リヨン、グルノーブル、モンペリエ)においてLRTの導入状況に関する実地調査を行い、特にグルノーブル市とモンペリエ市では自治体の担当部局と公共交通オペレーターへのインタビュー調査を実施した。国内では宇都宮市、広島市での実地調査を行い、特に広島市では広島電鉄株式会社、広島市役所へのインタビュー調査を実施した。加えて、調査結果の分析検討、仮説構築、知見のとりまとめを目的とした研究メンバーによるミーティングについては、概ね毎月1回のペースで対面ないしオンラインにて実施している。これらの研究活動を通じて2023年度に得られた知見は、大別して3つあり、それを以下に記す。 第一にはフランスにおけるLRTを主体とした公共交通政策は自治体による強いイニシアティブの下で実行されており、その目的は利潤獲得ではなく交通権をはじめとする社会厚生の増大や、それを通じた地域経済の活性化、ひいては税収の拡大にあるという点である。その実現に向けて、公共交通の無償化も検討・実施が進んでおり、特にモンペリエは最も先進的な都市の一つである。 第二には、LRTの普及が進むフランス国内では公共交通の運営に関わる人材の組織、地域を超えた流動性が高いことである。ある都市でのLRT開設が完遂したら別の都市でのLRT開設に関わる、といったケースが複数確認されている。このような人材の移動がノウハウの普及を加速していると考えられる。 第三には、日本国内におけるLRTの導入について、特に既存の路面電車が設置されている都市における低床化を通じたバリアフリー化は、資金面での障壁が大きく、その動きが遅いという点である、共同購入を通じたコスト引き下げなども進んでおらず、今後に向けた示唆が大きい部分となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスのパンデミックが一応の収束を見たことにより、実地調査への障壁が解消されたことで、実地調査が大幅に進展した。これにより2022年度に実地調査がほぼ実施出来なかった分を埋め合わせ、概ね当初計画通りの研究進捗が得られたと考えている。先述した調査を通じた知見の獲得に加え、研究報告や発表、ワークショップについても国内、国際ともに実施することができた。 この成果を持って、破壊的イノベーションにおける公的部門の果たすべき役割に関する仮説構築、検証のサイクルが一巡したと考えている。すなわち公的部門による介入の度合いがどのような観点から破壊的イノベーションたるLRTの導入と普及に影響しているかという点について、ガイドラインやルールの設定を通じた間接的影響と、政策として導入を進める積極的影響の二つの流れが確認された。加えて、人材の移動による普及加速や投資主体としての役割が確認され、この点は研究成果としての拡張が期待出来る。 さらに、公的部門の意思決定の構造や、公共交通そのものの運営方針の違いによるLRT普及への影響が確認されている。研究期間最終年度に向けて、さらに調査分析を推進していく計画である。
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今後の研究の推進方策 |
資料調査、文献調査については継続して実施する。2024年度は特にフランスと日本でのLRT車輌の導入、普及プロセスを描写する為に各地の車輌導入歴に関する時系列データを作成し、破壊的イノベーションが進む速度の違いを描写する。加えて文献調査については技術経営論に加えて財政、環境経済学における関連文献に調査のスコープを拡張する予定である。 実地調査については2023年度は国内調査、海外調査ともに進捗があった一方、その調査は実例を探索するケーススタディ的な側面に留まっている部分が大きい。事例の拡張を狙った調査と並行して、2024年度はこれまでの調査で得た知見に基づく発展的な調査を推進する計画である。 具体的には、日本とフランスで行ったLRT導入に関する事例調査から導出された仮説としての「LRT導入に伴う制度、技術、財務的な公的支援」のあり方についての実情を監督官庁や自治体などに対して構造化インタビューを通じて調査することを計画している。実地調査については、国内では熊本市や富山市、宇都宮市への調査を計画しており、フランスではボルドー市、ストラスブール市、並びにパリにおいてGART(全仏地方交通局組合)や仏環境連帯移行省への調査を計画している。 また、研究成果のとりまとめに向けて学会発表や論文、報告書執筆を推進していく。具体的には2024年6月にフランス国立社会科学高等研究院で開催されるワークショップ、フランス・ボルドーで開かれるGERPISA国際コロキアムでの報告、同8月に札幌市で開かれる日本福祉のまちづくり学会全国大会での報告を予定している。並行して、これらの報告成果をとりまとめた報告書の作成、出版に向けての活動を推進する計画である。
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