研究課題/領域番号 |
22K01713
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07080:経営学関連
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
橋場 俊展 名城大学, 経営学部, 教授 (10364275)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ダイバーシティ・マネジメント / 従業員エンゲージメント / 従業員による発言機会 / 労働組合 / 非組合型従業員代表制度 / 向社会的発言 / 苦情処理 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、古くは産業民主主義、近年では従業員エンゲージメント向上や人材定着の観点から関心を持たれている従業員による発言機会について、近年の研究動向をレビューするとともに実態調査を行い、その現状把握に努める。併せて、調査を通じ特定された先進的企業の取り組みについて定性的な調査を行い、見出された知見を踏まえ、企業側と従業員側双方に資するような発言機会をコンセプト化、モデル化することを試みるものである。
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研究実績の概要 |
2022年度における研究成果として、労務理論学会第32回全国大会において「ダイバーシティとエンゲージメント―日本企業が苦悩する2つの指標―」との演題で統一論題報告を行った。本報告は、ビジネス界と学界の双方から、2000年代初頭に注目されるようになったダイバーシティ・マネジメント(DM)、そしてやや遅れて同じく関心を集めるようになった従業員エンゲージメント(EE)を研究対象として取り上げた。多様性を尊重し、それを企業競争力に活かすことを目指すDM、そして組織に貢献しようという従業員の自発的な態度・意欲・姿勢と行動を意味するEE 。この双方について、日本は諸外国に比して後れを取っているとされる。日本企業が両者に苦悩する現状の背景を探り、共通部分を析出することが本報告の第1の課題であった。他方、DMやEEの向上は概ね首肯されるべき取り組みではあるが、そこに危惧すべき落とし穴はないのか。DMやEEを批判的に捉える論者の指摘を吟味し、それら懸念を解消したうえで健全なDM並びにEEマネジメント進展のための手がかりを明らかにすることが第2の課題であった。第1の課題については、透明性や公正さに欠ける人事評価や報酬、不十分な教育訓練機会、適正とはいえない登用や配置等、HRMの後進性や機能不全、長時間労働、そして低い心理的安全性(PS)を両者低迷の背景として指摘した。以上を踏まえ、第2の課題については、従業員満足を指向する洗練されたHRMの実施、WLB推進、PSの構築が日本におけるDM並びにEEマネジメントの要諦になるとの結論に至った。その際、職場にDMやEEマネジメントに対する相応のチェック機能と拮抗力が存在しなければ、DMが差別やいじめ、EE促進がワーカホリックという意図せざる結果をもたらしかねないリスクを指摘し、従業員発言機会の重要性を指摘した点に本報告の独創性を見出しうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の学会報告において、本科研研究のメインテーマである従業員による発言機会が、健全なダイバーシティ・マネジメントや従業員エンゲージメントの実現に向けて、不可欠な要因であること、そうした見解がイギリスの学界においては支配的な見解となっていることを検証することができた。すなわち、HRM領域におけるこれらホットイシューと従業員の発言機会が密接不可分であることから、そうした発言機会の維持・確保が今日においても重要なマネジメント上の課題であることが裏づけられたといえる。なお、この学会報告は、労務理論学会誌への寄稿論文という形で、2023年度に刊行されることとなった。 これとは別に、長らく従業員による発言機会の中核的存在と位置づけられてきた労働組合と、これを基盤とした労使関係について考察した原稿の初稿を執筆することができた。同稿は、日本における労働組合と労使関係の特徴を明らかにすること、世界的な労働組合組織率の低迷に伴い、優勢になりつつある個別的労使関係を重視する見解、あるいはまた労働組合に代わる非組合型従業員代表制度導入の必要性を叫ぶ見解の意義と限界、そして労働組合の存在感を示した近年の事例を取り上げ、労働組合復権の可能性を論じること、以上の3点を課題としている。同稿については、その後校正を重ね、2023年度末に共著書として刊行予定である。 以上のような成果をあげることができたことから、研究の成果はおおむね順調に進展しているものと自認している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、従業員による発言(employee voice:以下EV)機会に関する先行研究のサーベイに重点を置いてきたが、その対象はもっぱら労使関係/雇用関係領域ないしはHRM研究領域に属する文献に偏っていたと言わざるを得ない。EVに関する統合的アプローチの構築が、本研究の柱のひとつであることから、今後は組織行動論領域における先行研究についても渉猟し、個人的かつインフォーマルな発言行動にも焦点を当てていく必要がある。今ひとつ重点的に取り組む必要があるのは、日本企業におけるEVの実態把握である。この課題に向け、関連領域の研究者はもとより、各種経営者団体、経営コンサルタント、社会保険労務士、組合活動家との情報交換を密に行い、日本企業ではどのようなEV機会がどの程度用意され、それら機会を通じて、どのような発言が、どの程度なされ、発言内容がどれ程実現しているのか等について概要を把握していきたい。また、以上のような情報源を通じ、EV機会の付与に熱心な企業を複数社抽出し、どのような制度がどのような経緯で設けられ、活用されているのか、それが人材定着やエンゲージメント度数向上にどう影響しているのか、はたまた、労使双方がそれら制度をどう評価しているのか等を探っていきたいと考えている。その際、団体交渉や労使協議制といった伝統的発言機会に恵まれないケースが大半を占める中小零細企業がどのような工夫を施しているのか、大変興味深いところであり、注力していきたい。
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