研究課題/領域番号 |
22K01807
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐藤 清和 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (40258819)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | リアルオプションアプローチ / 会計情報空間モデル / 機関投資家エンゲージメント / 人的資本投資 / 付加価値生産性 / 機関投資家のエンゲージメント / 財務分析 / リアルオプション分析 / 残余利益モデル / 確率的最適化 / リアルオプション / 機関投資家 / エンゲージメント / モチベーション |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、機関投資家によるエンゲージメント(投資先企業との対話と交渉)が機会主義的動機によることなく、投資先企業の持続的成長に資する建設的な動機付けによって実行されるための条件を示すとともに、エンゲージメントの重要な財務指標であるエクイティ・スプレッドを経営者と機関投資家の双方にとって公平・中立な視点から評価する方法を提示する。 前者の条件とはエンゲージメントのコスト・ベネフィットから導かれるプットオプション価値として定式化されること、また後者の評価とはエクイティ・スプレッドに含まれるコールオプション価値の測定問題に帰着することを明らかにする。
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研究実績の概要 |
「本研究の目的」は次の2点である。(A)機関投資家によるエンゲージメント活動をリアルオプションの視点からモデル化することにより、彼らの機械主義的動機に基づくエンゲージメントを抑制し、経済合理性を有するエンゲージメントが実行される環境構築に貢献する。 (B)エンゲージメントにおいて争点の一つを形成すると想定される残余利益(エクイティ・スプレッド)に内在する長期収益力を、リアルオプション価値として再評価することで、短期業績主義によって惹起される経営者と機関投資家間のコンフリクトを低減させる。 前年度は、(A)のリアルオプションモデルと(B)の残余利益モデルを記述する場としての「会計情報空間」を提示し、その構造と特性について検討した。その際、会計情報が企業内部の経営者と外部の機関投資家を結ぶ最も重要な情報の一つであるにもかかわらず、それは2次元平面情報という縮約された規格に従っていること指摘した。そして会計情報を資産・負債・資本という記録要素からなる3次元空間としての「会計情報空間」と設定することで、企業の財政状態を位置ベクトル、およびその変異を経営成績として可視化されることを提示した。 今年度は、この3次元会計空間における経営分析法をもとに、機関投資家といった企業外部者によるエンゲージメント活動ではなく、企業内部者である従業員への人的資本投資に注目し、人的資本投資価値の測定法としてリアルオプションモデルが適用できることを示した。これは従業員エンゲージメントの促進による人的資本会計を進捗させることが、今日の企業会計における喫緊の研究課題であるとの認識によるものであり、また同様の視座から機関投資家のエンゲージメント活動の測定・評価が可能になると考えられるからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度の研究にやや遅れが生じている主な理由は「不確実性下の人的資本投資評価モデルー付加価値生産性に関するリアルオプション分析ー」と題した試論的論説の執筆に多くのリソースを割いたことにある。この論文は、従業員エンゲージメントとその経済的価値をリアルオプション理論を用いて分析することを目的としており、特に現代の経営環境下での人的資本投資の価値評価という新たな研究領域に焦点を当てたものである。 本研究の主要な部分は、機関投資家のエンゲージメント行動をリアルオプションの観点からモデル化し、これにより経済合理性を有するエンゲージメントが実行されるための新たな理論的枠組みを提供することにある。この研究課題を補強すべく、冒頭にあげた論説により従業員エンゲージメントの理論的な基盤を統合することを試みたのであるが、これには想定以上の研究時間と労力が要求された。 今日「人的資本投資」が注目される中で、経営者と労働者の利害調整を測るリアルオプションモデルを構築ことは、経営者と機関投資家間における利害調和を図ることと同様に重要であり、両者は同時進行させるに相応しい研究課題と考えられたが、これにより研究課題の進捗に少なからぬ支障を来たした。 また本研究課題では、リアルオプションアプローチを展開するために、会計情報空間における資産・負債・資本の三次元的な視覚化を試みるという研究手法を取り入れているが、この新規性もまた予定よりも複雑な問題を提起することとなった。この三次元的アプローチは、従来の二次元的な財務諸表分析からの脱却を試みるものであり、多大なデータ収集と分析技術の革新が求められるため、研究スケジュールに少なからぬ影響を及ぼしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、以下の諸項目について取り組んでいく。 (1)多次元会計情報の実用的応用の探求: 会計情報を三次元空間で表現したモデルの具体的な応用方法を検討する。例えば、この空間モデルを利用して、機関投資家が直面する特定の投資決定やリスク評価にどのように活用できるかを具体的なケーススタディを通じて分析する。 (2)会計情報空間における動的変化のシミュレーション: 経済環境の変動が会計情報空間にどのように影響するかをモデル化し、それに基づいた動的なシミュレーションを行うことにより、不確実性の高い市場環境下での企業の財政状態の変化を予測し、機関投資家が前もって対策を講じるための情報を提供する。 (3)リアルオプションアプローチの精緻化: 機関投資家のエンゲージメント活動におけるリアルオプションの視点からのアプローチをさらに深堀りし、異なる市場条件や経済シナリオ下での戦略的選択肢を模索する。また、リアルオプション価値の定量的評価方法を改善し、より実践的な意思決定支援ツールとしての機能を強化する。 (4)ステークホルダー間のコミュニケーション強化: 会計情報空間を通じて、機関投資家と企業の間のコミュニケーションを促進するためのプラットフォームを開発する。このプラットフォームは、双方向の情報交換を可能にし、互いの立場からの意見や情報を共有することで、より公平で透明なエンゲージメントを実現が期待される。 (5)教育ツールとしての展開: 開発した会計情報空間モデルを教育ツールとしても応用し、機関投資家や企業経営者だけでなく、学生や一般投資家にも理解しやすい形で提供する。これより、会計と財務の基本的な知識だけでなく、高度な分析技術に対する理解も深めることが期待される。
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