研究課題/領域番号 |
22K01829
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 関西学院大学 (2023) 甲南大学 (2022) |
研究代表者 |
若林 公美 関西学院大学, 商学部, 教授 (20326995)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | Non-GAAP利益 / GAAP利益 / 財務諸表の比較可能性 / 比較可能性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、国際会計基準の任意適用企業のなかでNon-GAAP利益を開示している企業を対象に、GAAP利益に比べて、Non-GAAP利益の持続性や予測可能性が高く、投資家の意思決定に有用な情報を提供しているのかどうかについて検討する。さらに、GAAP利益とNon-GAAP利益の比較可能性をそれぞれの分析に組み込み、その影響についても検討する。わが国では、GAAP利益とNon-GAAP利益を比較し、その有用性について実証的に調査した研究はみられないという点で、本研究は大きな意義を有すると思われる。
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研究実績の概要 |
本年度は、まず、GAAP利益の比較可能性がもたらす経済的効果のうち、アナリスト利益予想に焦点を当て、わが国において財務諸表の比較可能性が高い場合に、アナリストによる利益予想にプラスの効果がもたらされるかどうかについて検証した。 同業他社との財務諸表の比較可能性が高ければ、投資対象企業のみならず、そのライバル企業の情報も参照できる。そのため、同業他社の財務情報が比較可能であれば、アナリストの情報入手コストおよび情報処理コストが低下すると期待される。このようなロジックに基づき、財務諸表の比較可能性が高い場合に、企業利益の実績値とアナリストの利益予想の差が小さく、その正確性が高いかどうか、また、アナリスト間の利益予想のバラツキが小さいかどうかを調査した。その結果、財務諸表の比較可能性が高い場合に、アナリスト予想の正確性が高く、予想のバラツキが小さいことが確認された。このように、GAAP利益に基づき測定した財務諸表の比較可能性が高い場合に、市場にプラスの効果がもたらされることを明らかにした。 次に、GAAP利益と同じく、Non-GAAP利益が投資家の意思決定有用性に資する業績とみなされるかどうかを検討すべく、パイロット分析を行った。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)適用企業を対象に、GAAP利益とNon-GAAP利益による将来キャッシュ・フローの予測可能性について分析を行った。その結果、GAAP利益とNon-GAAP利益のいずれについても将来キャッシュ・フローに関する予測能力があることを確認した。 さらに、投資家がNon-GAAP利益の予測可能性を織り込んで意思決定を行っているか否かを調査するため、イベントスタディを行った。分析結果から、GAAP利益と異なり、Non-GAAP利益と決算発表日周辺の累積異常リターンとの間には統計的に有意な関係が観察されないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画に従って、まず、GAAP利益である当期純利益に基づき算定した財務諸表の比較可能性がもたらす経済的帰結について検討した。具体的には、De Franco et al. (2011)に基づき、財務諸表の比較可能性がアナリストによる利益予想の正確性を改善し、アナリスト間の利益予想のバラツキを緩和する効果があるかどうかについて、日本のデータに基づき、分析を行った。分析を通じて、財務諸表の比較可能性が高い場合に、アナリスト利益予想の正確性が高く、アナリスト間の利益予想のバラツキは小さいことが示された。この分析結果については、「財務諸表の比較可能性とアナリスト予想」として、『會計』(第204巻第4号)において報告している。 次に、2022年度に実施した実態調査のデータ、すなわち、2020年12月から2021年11月までの間に決算を迎え、2022年1月末時点で決算短信において連結財務諸表を開示しているわが国のIFRS適用企業のうち、Non-GAAP利益を開示している企業をサンプルとして、パイロット分析を行い、GAAP利益とNon-GAAP利益の投資意思決定有用性を検討した。この分析結果の詳細については、「Non-GAAP利益の開示と市場の評価」として、『商学論究』(第71巻第3号)に掲載済みである。 このように、本年度は、当初予定していた計画通りに、GAAP利益とNon-GAAP利益の両方について実証分析を行った。この点から、研究を予定通りに進めることができたといえる。ただし、次年度の分析に向けた分析データの収集が進まなかったことが、今年度の課題である。これらの点を踏まえて、本研究は完全に予定通りとはいかなかったが、おおむね順調に進展してきていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、2024年度にはNon-GAAP利益の文献が増えてきたことから、これまでカバーできていなかった論文のレビューを追加することを予定している。新たな文献のレビューから得られる知見に基づき、Non-GAAP利益情報の有用性をどのように調査するのか、2024年度はその方法についてさらに検討する。これによって、現段階で構想段階であるNon-GAAP利益の分析に関する仮説やモデルに修正を加えて、さらに精緻化することを予定している。 ただし、現在入手しているデータは、2020年12月から2021年11月までの間に決算を迎え、2022年1月末時点で決算短信において連結財務諸表を開示しているIFRS適用企業に限定されている。そのため、2023年度の分析結果を踏まえて、2024年度はGAAP利益とNon-GAAP利益の比較を行うため、Non-GAAP利益情報の収集によるデータ整備を進めていく予定である。複数年度のデータ整備が進むことにより、2023年度のパイロットテストではできなかったその他の分析を追加する予定である。例えば、持続性や予測可能性の分析を、GAAP利益とNon-GAAP利益でより比較可能なセッティングで分析することを検討している。 なお、Non-GAAP利益は企業の自発的開示に依拠しており、IFRS適用企業による開示が進んでいることから、引き続きIFRS適用企業を対象とした分析を念頭に置いている。GAAP利益としては、当期純利益や包括利益などを念頭に置いている。営業利益の開示は義務づけられていないが、大半のIFRS適用企業が営業利益を自発的に開示していることから、営業利益も併せて分析を行う予定である。
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