研究課題/領域番号 |
22K01831
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
伊藤 智樹 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (80312924)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 物語 / 自己物語 / リカバリー / ナラティヴ / ナラティブ / 高次脳機能障害 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、参与観察およびインタヴューを行う質的調査研究である。参与観察は、富山県の高次脳機能障害ピア・サポート事業の集会、および精神障害領域等との共同で行われるピア・サポート研修において行う。また、家族会等もフィールド・ワークの対象に含める。
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研究実績の概要 |
高次脳機能障害をもつ本人の会(セルフヘルプ・グループ)、および家族を含むピア・カウンセリングをフィールドとする調査活動を行いながら、21世紀に入って推進の機運が高まった高次脳機能障害支援の制度化を視野に入れ、高次脳障害のピア・サポートをどのように考えるべきか、基盤となる理論的考察を学会発表および論文によって進めることができた。近年、ピア・サポートの積極的な活用という趣旨のもとで、障害者福祉サービスでの加算新設や研修整備といった仕方で制度化が進められつつある。これには、支援<する>側にも位置づけるという望ましい一面もあるが、今後の展開と次第によっては、雇用されて働くピア・サポーターと、ピア・サポートに適さないとみなされるような人々、という二極分化した構図が趨勢になってしまう危険もある。とりわけ、「リカバリー・ストーリー」が専門性の枢要、さらにはピア・サポートの条件とまでとらえられるようになってしまうと、それを語りにくい人は、雇用されるピア・サポーターへの道から外れてしまうだけでなく、本来幅のあるピア・サポートの機会が省みられなくなり、そこに関わる機会から遠ざけられる傾向が出てしまうかもしれない危険が考えられる。それに対して、社会学の視点は、「リカバリー」を物語の形態的概念から、多様な希望を求める生の営みの過程を示す概念へと差し戻す役割を果たせる可能性をもつ。それによって、現在進められているピア・サポート推進の流れを否定せず、しかし無自覚に専門家中心主義的な前提をおかずに伴走する知としての社会学を標榜する立場を明確にしたともいえるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初掲げたリサーチ・クエスチョンは、(1)そのような場でローカルに流通する(あるいは、させられようとしている)物語はどのようなものか、(2)そのような場に参加する高次脳機能障害者はどのような物語を語る(あるいは、語らないか)、であった。高次脳機能障害のピア・サポートをめぐる近年の流れをふまえることで、研修等で流通する、あるいは流通を促されつつある物語としての「リカバリー・ストーリー」を、仮説的な見方の通り、また明確に位置付けとらえることができている。「リカバリー」概念それ自体は、傾聴すべきところのある重要な概念と思われるが、これが標準的な物語として前面に押し出される際には、意味の曖昧さゆえに都合よく用いられるところがある。本研究に関しては、「長期入院を脱して地域で暮らす」筋をもった物語が「リカバリー・ストーリー」として歓迎され流通する傾向があるのではないかという見方を申請者は仮説的に持っていたが、やはりそのような見方が妥当と考えられる。「リカバリー」概念と「リカバリー・ストーリー」を、セットでありながら異なる位相の概念としてとらえなおせた点が本研究の進展であり、当初の予定通りに進んでいることを示す点と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
リカバリー・ストーリーは高次脳機能障害者に必ずしも適合的ではなく(多くの人はそもそも病院外で暮らしている)、したがってそのギャップ、そして高次脳機能障害においてはどのような「リカバリー」がありうるのかといったことを考える必要がある。これについて、手がかりとして、高次脳機能障害者自身がリカバリーに関して明示的ないし感覚的に示すギャップを重視しつつ、その人の生のプロセスをエスノグラフィックに描き出し、リカバリー・ストーリーともとらえられるし、そこからはみ出す部分もある物語として解釈していくことが考えられる。また、一見すると自己物語形成とは無縁な相互のやりとりが、自己物語形成や変容、あるいは曖昧さの許容という点で、その人をコミュニカティヴな存在としてつなぎとめている可能性についても考えてみる必要があるかもしれない。 これらについては、あくまでも仮設的な視点であるから、フィールドワークを継続しつつ検討する必要がある。現在、高次脳機能障害者本人によるセルフヘルプ・グループは堅調に活動を継続している。また、家族会に参加する機会もあることから、多様な自己物語、もしくはそれを持つ困難に接するチャンスに恵まれていると考えられる。また、これらの検討を続けるうえで、就労の局面は重要と考えられるので、筆者がこれまで行ってきている難病をもつ人のケースとの比較検討を行える利点も活かしたい。いずれも、自分の「声」をもつためには(公的支援機関やピアなど)他者の存在が大きい点で共通しているように思われるからである。
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