研究課題/領域番号 |
22K01939
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
池田 祥英 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (90772096)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | タルド / パーク / ギディングス / ボールドウィン / 模倣 / アメリカ社会学 / 集合行動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はタルドの学説とアメリカ社会学との関係を明らかにするものである。「模倣」という個人間の相互作用を中心概念とするタルド社会学は、デュルケーム社会学との勢力争いに敗れて忘れ去られたとされてきたが、他方では直接交流のあったギディングスをはじめとするアメリカの心理学的社会学において大きな影響を残したと考えることもできる。こうした影響関係を古典的文献やタルドの個人資料などから探り、さらにこれらの学者からクーリーやミードへと至る影響関係について明らかにすることで、タルド社会学の学史的な意義を再検討する。
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研究実績の概要 |
今年度は、F.H.ギディングスの社会学理論におけるタルドの影響を中心に検討した。ギディングスはタルドと同じく、心理学的な観点から社会学を構想した人物であり、著書『社会学原理』(1896年)において、人々が互いに自分たちを同じような存在としてみなす「同類意識」が社会を成り立たせていると考えていた。本研究においては、ギディングスとタルドが共に心理学的要因を基盤に置いているという点において共通していることは確認しつつも、ギディングスがタルドの「模倣」は「闘争」や「対立」のような人々の結合を分断するような過程にも含まれていることから、社会を特徴づけるものとして適切ではないと考えていたこと、それに対してタルドは「闘争」や「対立」も含めて社会的関係を考えていたことを明らかにした。 また、前年度から引き続いて、R.E.パークの議論についての検討を行った。前年度は特にパークの集合行動論におけるタルドの影響について論文を作成したものの、最終的に掲載には至らなかった。そこで、パークが相互作用の四大類型として位置付けた「競争」、「闘争」、「応化」、「同化」のプロセスについて、E.W.バージェスとの共著である『科学としての社会学入門』(1921年)における記述から、タルドが考えていた「模倣」や「対立」の概念との関連性を検討した。現時点ではまだ完全に内容を分析できていないが、パークやその後継者のH.G.ブルーマーのようなシカゴ学派都市社会学の学説においては、タルドとともに「模倣」の概念に基づいた学説を提示したJ.M.ボールドウィンの影響が大きいことがわかったので、ボールドウィンのこれらの議論にかかわる部分を先回りして検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までにパークとの関係についての検討を終え、今年度はギディングスとタルドの関係について検討をするというのが当初の見通しであったが、パークについては前年度において執筆した論文が掲載に至らず、集合行動論を超えて、都市社会学の枠組み全体へと課題が膨らんでしまった。この新たな課題を見出せたことはよかったが、この点についてまとめるにはさらに時間がかかる見込みである。今年度は、パークとバージェス編『科学としての社会学入門』のうち、第8章「競争」、第9章「闘争」、第10章「応化」、第11章「同化」について分析を行った。この作業はまだ完了しておらず、来年度も継続して進めていくことになる。また、集合行動の議論については、パークの後継者であるブルーマーの「集合行動」(1946年)についてもその内容を分析している。パークの「応化」についての議論と、ブルーマーの「循環反応」についての議論は、ボールドウィンから取り入れたものであることがわかり、次年度に始める予定であったボールドウィンの著作の分析のうち、『子供と民族における精神発達』(1895年)について分析に着手した。 ギディングスに関する検討は、彼の主著である『社会学原理』(1896年)を中心として、その「同類意識」論を中心とした彼の主張と、タルドが『社会学原理』の書評として執筆した「ギディングス氏の社会学」(タルド『社会心理学研究』1898年所収)における記述を照らし合わせて、両者の立場の類似点と相違点について検討した。この点については、学会において発表することができたものの、現時点では論文として形にすることができていない。 このように、分析そのものはある程度想定の範囲内で進んでいるが、論文として発表することができていないことから、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず遅れているパークとタルドの関係性について、集合行動に関する論点のほか、都市社会学の枠組みを支えている「応化」といった諸概念も含めて、論文として公表することにする。また、ギディングスについても、現時点で分析ができているものについて、論文としてまとめることとする。その際に、パリ政治学院歴史センター所蔵のギディングスのタルド宛書簡を引用する許可を取り、その内容を盛り込むことを考えている。ボールドウィンについては、パークやブルーマーの所論との関係性が見えてきたので、『子供と民族における精神発達』(1895年)等における議論が、タルドの模倣論とどのように関係しているか、どの部分がパークやブルーマーの議論に取り入れられているのかを検討していく。また、パリ政治学院歴史センター所蔵のボールドウィンのタルド宛書簡の内容を分析し、必要に応じてその内容を盛り込むこととする。 これらのギディングスやボールドウィンからの書簡、そしてアメリカにおいてタルド社会学の紹介にあたったG.トスティの書簡については、パリ政治学院歴史センターの所蔵であり、来館して閲覧しなければならない。これまでコロナや円安による渡航・滞在費用高騰を懸念して渡航を延期していたが、補助事業期間の最終年に当たる次年度に渡航することになる。ただし、依然として渡航・滞在費用は高騰していることから、必要に応じて予定していた期間を短縮するなどして実施する。
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