研究課題/領域番号 |
22K01965
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
飯村 史恵 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (10516454)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 国連障害者権利条約総括所見 / 社会的支援モデル / 判断能力が不十分な人々 / 本人の意向 / 社会的包摂 / 人権モデル / アドボカシー / 意思決定支援 / 人権の主体 / 主体性 / 判断能力 / 支援モデル |
研究開始時の研究の概要 |
判断能力が不十分な人々の法的代理制度である成年後見制度は、国連障害者権利条約第12条による指摘により、各国で制度の転換が模索されているが、日本では成年後見制度の利用促進が図られている。今後、判断能力が不十分な人々の増大が見込まれる中、現行の制度に依存し続けることには限界があり、しかも本人の意思・人格の尊重を損なう懸念がある。従って、誰もが社会構成員として存在を認め合い、社会の中で多様な関係性を結び、相互に支え合う成熟した社会システムが求められている。 本研究では、そのために必要な理論を学際的見地から検討し、先駆的活動事例を分析し、新たな社会の実現に向けた支援モデルを提示することをめざす。
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研究実績の概要 |
今年度研究実績を研究会での討議内容を中心に紹介する。8月開催の第1回目の研究会で、研究代表者から私有財産と能力主義を前提とした現行の成年後見制度を「権利擁護」として推奨するのではなく、判断能力が不十分な人々を社会の構成員として相互に認め合う「支援モデル」を社会福祉の視座から提示する研究の着地点を説明した。さらに事例から、成年後見制度が本来の目的を超え「便利な方策」として期待され、後見人等に本来的でない権能を求めている現状と構造的要因について協議を行った。研究協力者から、国際的に課題の多い日本の状況を変更しうる理論構成が可能か、法律行為と日常生活の支援の間に存在する差異、「支援」の困難さ等が指摘された。 第2回目の研究会は11月に実施し、初回の事例に対する行政職員コメントの他、身体障害当事者インタビュー調査を報告し「本人意思」を尊重する難しさ、ライフサイクルに沿った支援を組み立てる中核に「本人の意向」が据えられていない現実が検討され、意見交換を行った。年度の後半は「支援モデル」構築の資とすべく、社協職員のライフストーリーインタビューを重点実施することを報告した。研究協力者から障害者権利条約の国内法効力と憲法論からみた成年後見制度の課題、事例を通じた本人意思の法的支援等について報告があり、質疑応答等を通じて、相互に認識を深めた。 2月開催の第3回の研究会では、成年後見制度の過度な依存事例として身元保証問題を取り上げ、社協職員調査の途中経過報告を行った。「自己決定」が求められる場面と本人の認識力の狭間で苦悩する職員の姿や運用レベルで解決し難い問題が明示された。支援モデルの枠組みとして、従来制度の機能と家族負担以外の社会支援具体化が必要であることを示唆した。同時に、研究成果として、社会福祉学及び法学の観点から、複数の出版物を創作する案が提示され、今後内容を深めることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は研究期間の2年目であり、本格的なヒアリング調査等を実施する予定であった。実際に、昨年度に引き続き、社協職員、生活保護担当ケースワーカー、知的障害者家族等に対するヒアリング調査を実施し、中でも社協職員については、成年後見制度の部署と判断能力が不十分な本人の生活支援を直に行う部署の双方に配属された経験を有する人々のライフストーリーインタビューを試み、今期の最終目標である「支援モデル」の枠組みを考察する上で、数々の貴重な示唆を得ることができた。これらの成果については、今年度の概要に記した通り、適宜研究会で報告を行い、必要な検討や理論的裏付等を考慮して修正を加えてきた。 一方で、各回のインタビュー時間や回答者と質問者との対話は必ずしも十分ではなく、更なる補遺調査が必要であることが判明し、継続的に実施しつつある。従って、現段階では調査の完成度は必ずしも高いとは言い難いが、全体的にみれば、研究は順調に進展していると言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
国連障害者権利委員会より日本に厳しい総括所見が提示されたが、政府は殆ど具体的改善に取り組んでいない。それ故、判断能力が不十分な人々の支援に実際に携わる人々が、現存する制度の具体的な不備を解消すべく主体的に制度改革に取り組む必要性は高い。 こうした胸脇を踏まえ、当初2024年度に海外調査を計画していたが、国内調査をきめ細かく実施し、研究成果の公表についても精緻化を図る予定である。 1.国内におけるヒアリング調査の充実:これまでも調査を実施してきたが、今年度は下記3点に重点を絞り、精力的にヒアリング調査を進めることとする。首都圏中心で行ってきた調査を、今年度は北海道、関西、九州等でも予定している。①社会福祉のサービス利用において、本人の意向はどの程度尊重されてきたか。本人にとって不利益をもたらさないセーフガードと意思の尊重のバランスをいかに取るべきか。②地域における他者との関わりが急速に低下している中で、住民の自発的関与と判断能力が不十分な人々の主体性をどのように育むことができるか。③国連障害者権利条約における総括所見を受け止め、「判断能力が不十分な人々」を他の人々と同様、権利主体と認めるため、どのような社会的支援が必要となるか。 2.研究成果の公表に関わる諸課題の検討:本研究は、法学及び社会福祉学に渡る複雑な制度である成年後見制度を取り上げており、より良き方向性を探ることが極めて難しい状況にある。それ故に研究の価値もあると言え、専門領域にこもりがちな研究成果を、いかにオープンにし、多角的観点から検討できるかという難題も内包している。今回の研究期間の前半2年間は、主として定例の研究会における協議が中心であったが、後半に入る2024年度以降は、研究成果を広く社会に公表し、協議の場を広げていく方向として、学会発表、論文執筆及び最終的な出版計画等を現実にすべく準備を進めることとしたい。
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