研究課題/領域番号 |
22K01984
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
松本 真由美 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (20738984)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 権利擁護 / 精神科病院 / 非自発的入院 / オーストラリア / トライビューナル / 精神医療審査会 |
研究開始時の研究の概要 |
わが国の精神科病院における非自発的入院は、入退院の基準が曖昧で、入院が長期化しやすく、また、入院者のための権利擁護機関である精神医療審査会が十分に機能を果たせていない。そこで、本研究の一点目として、わが国の既存の権利擁護機関の改善に向け、トライビューナルを参考としながら、特に運用面の特徴をもとに、審査時の入院患者へのヒアリングの重要性や、患者の権利擁護者としての弁護士や専門職の介入の意義を示す。また、二点目として、わが国の民間団体による権利擁護の実践事例から、非自発的入院の減少や短期化に向けた効果について明らかにする。 本研究結果から精神科病院がより適正な治療の環境となることが期待できる。
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研究実績の概要 |
本研究は日本の精神科病院における非自発的入院者に対する権利擁護が十分ではない点について明らかにし、また、諸外国の権利擁護機関の一つであるトライビューナルを参考としながら、日本の民間団体による権利擁護の実践事例を加味しながら、非自発的入院の減少や短期化に向けた提言を行なうことを目的とするものである。 令和4年に実施したオーストラリアニューサウスウェールズ州での聞き取り調査をもとに、令和5年度は学会でトライビューナルのヒアリングに関する発表を行った。NSW州のトライビューナルでは、入院者本人はもちろん入院者の代理人弁護士、主治医、家族らのヒアリングをほぼ100%実施し、入院継続の可否の判断を行っていた。入院者と代理人弁護士等の意向を確認することで、入院者側、精神科病院側、双方にとって納得できる結論を導き出していると考えられる。一方、日本の場合、精神医療審査会の定期の審査に限定すれば、ヒアリングはほとんど実施されていない。審査件数の多さや、入院者の意見聴取が義務ではないことが主な理由であるが、入院者の権利擁護のしくみが十分ではないためと思われる また、Legal Aid NSWが注目しているCTO(Community Treatment Order:地域治療命令)についても学会発表を行った。CTOとは精神科病院を退院する非自発的入院者が、地域生活を行う場合に、精神保健施設が組む治療計画に沿い、投薬、治療、カウンセリング、リハビリテーション等を受けなければならない強制力のある命令をいう。退院を許可する代わりに治療の継続を約束させる意味合いを持つが、NSW州は諸外国と比較し、CTOを命じる割合が高くかつ増加傾向にある。しかし、地域生活者によってはCTOの適不適があり、CTOの効果について検証が必要であり、日本への導入は慎重に吟味する必要がある。 これらが令和5年度の主な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れている理由としては、精神科病院入院者のための権利擁護を行う実践活動を展開したことにより、時間切れで前年度に入手した聞き取り調査結果の分析を十分に行えなかったためである。 前年度の現地調査によりトライビューナルの最高責任者とLegal Aid NSWの所長と実務担当者から詳細な解説を得、また、資料を入手済みである。それらの一部については2つの学会でまとめることができたが、引き続き分析が必要なものがあるにもかかわらず、着手できていない。 できるだけ令和6年度中に分析を終え、すでに課題となる点が浮上していることから、課題解決に向けた方略について検討を試みたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は以下2点の目標を掲げている。その1つは「非自発的入院患者の権利擁護を実施する各地の精神医療人権センターの実践事例を明らかにし、他都道府県への拡大に向けた示唆を得ること」であるが、令和5年に各地の権利擁護団体が参集し、シリーズで学会発表を実施することができた。本研究代表者は「精神科病院入院者への権利擁護活動―精神医療関係者みんなで作る権利擁護―」と題し、権利擁護団体の立ち上げから現在までの概略と多職種協働の重要性について発表した。すでに各地で運営されている権利擁護団体としては大阪、東京、兵庫、埼玉、神奈川、長野、岡山、広島があり、各団体のうち多くとは相互に情報交換する関係性がある。各団体は精神科病院入院者の声を聴かせていただき、本人が自らの権利を擁護できるよう支援を行う。これらの実践活動は権利擁護の研究を進める上で非常に重要なものであり、研究を進展させることにつながった。 もう1つの研究の目標である「都道府県の中で10万人あたりの精神科病院数の多い地域(以下、対象地域)に注目し、精神科病院の現況の把握と非自発的入院患者の減少、入院の短期化、第三者による権利擁護者の介入の可能性に向けた方策の検討」については具体的に着手できていない。次年度以降の課題である。 令和4年度の精神保健福祉法改正により新たに「入院者訪問支援事業」が創設された。主に市町村長同意による医療保護入院者を対象に、精神科病院にとって第三者である権利擁護者が精神科病院を訪問する制度である。都道府県等の任意事業であるが、入院者の権利擁護を進める上で重要なものであり、すでにいくつかの都道府県等では実施している。その動向については、今後、把握する必要があると考えている。
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