研究課題/領域番号 |
22K02002
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松原 仁美 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (70736347)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 若者 / フランス / ニート / 若者保証 / GJ / 伴走支援 / 若者政策 / 就労 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はフランス版ニート対策である「若者保証プログラム」(Garantie Jeunes:GJ)について、若者と制度の相互作用の観点から若者政策の社会的波及効果を検証する。本研究では社会全体で若者を支援する政策の導入によって、若者の生活・雇用保証と社会発展が両立可能であるとの仮説に基づき、GJのサブ・システムに着目し、制度の不具合や機能不全の発見とその要因分析、問題解決のプロセスを調査する。
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研究実績の概要 |
フランスの若者政策は、1980年代初頭から生活上・就労上の困難を抱える若年貧困層に対して包括支援を実施してきた。近年は、16歳から25歳までの未就学、未就業、孤立無援状態の者を対象に、フランス版のニート対策「若者保証」プログラム (Garantie Jeunes: GJ) を導入している。GJの特徴は、若者に初めて公的扶助と同程度の手当を支給するとともに、個別型の伴走支援に加え集団型の伴走支援を採り入れ、生活再建と就労支援を同時並行的に実施する点にある。本研究は、就労可能性ではなく、若者を取り巻く支援システムの観点から若者政策の社会的波及効果について検討する。そのため、ニートの若者と支援組織の相互作用からGJの支援実態について明らかにし、地域格差の実情、支援を受ける若者の言説分析をとおして認識の変化や社会的インパクトについて考察していく。 本年度は、GJに参加した若者に対して実施されたヒアリング調査の分析を行った。調査結果から、GJは自律、就職活動、研修を同時に実施するため、将来展望を描ける若者が増えた一方、就職活動を試みるも研修に移行できないケースや、状況を改善できず支援内容に不満を抱くケースも確認された。このようなミスマッチを解消するため、フランスの若者政策はさらにGJからPACEAに広がり、現在、単に成果のみを追求するのではなく、自律に向けた様々な活動を重視するようになっている。フランスの若者政策は、当事者が抱える不満や寄せられた問題点など、現場の声を反映させることで制度の発展につなげている。研究から得られた知見は論文にまとめ、来年度に刊行される共著本に所収される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、フランスでまとめられたヒアリング調査の分析を行った。また、GJからPACEAへの制度の発展について明らかにすることができた。GJはニート対策であり締結者の3分の2は職業資格を取得する前に学校を中退していた。学校教育に失敗すると職業経験の不足につながり、支援を継続できず自信喪失の原因にもなっていた。そこで、GJでは就職活動の前段階として職業計画の策定や職業教育、社会人としての行動規範の習得に重点をおいた。調査から得られた結果は以下の通りである。第1に、GJの支援期間を満了した場合は、積極的に自律でき、支援が有効だったと感じた。一方、支援期間の満了より前にGJを離れた場合や支援期間を延長した場合には、状況を好転できず満足度は低下した。第2に、グループワーク等で友人を得た若者や相談員と信頼関係を構築できた若者は、研修で自信をつけ、将来を前向きに捉えられるようになった。一方、健康や住まい等の問題の解消にいたらない若者は、就職活動にも支障が出て支援への不満をつのらせた。 以上のように、GJ締結者は5年で20万人を超えたものの、個別事情に対応できない場合には支援がうまく機能しなかった。そこで、「雇用および自律に向けた伴走契約」(PACEA) が設立された。PACEAは複数の若者政策をパッケージ化し、若者の多様な状況やニーズに対応できるようになった。また、評価基準から就労実績を外し、プロセスを重視し、継続的に自立に向けた活動をつづけていれば支援は有効とした。PACEAの導入を通し、GJの問題点は支援領域の改善をもたらして、制度の発展につながっていることを示せた。次年度以降の研究につなげていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、近年の若者政策であるGJは集団型伴走や複数の研修を経験することを通して、当事者と支援者だけでなく研修先の企業や各種相談機関など多様な支援アクターを介在させ、社会全体で若者を支えている点を明らかにすることができた。これまでの若者政策は、社会生活の再建か就労重視のどちらかを重視してきた。GJでは両者を同時並行的に実施し、就労重視の行き過ぎが生じると中間組織で現場や当事者からの意見や問題点を汲み取り支援内容を改善させ、新たな若者政策の発展につなげた。この点については、現地での聞き取り調査などを進め、さらに明確にしていく必要がある。 本研究は今後、現場の支援機関による違いについて実態解明を進めていく。たとえば、貧困地区では転居や問題を抱える家庭からの自立、商業地区ではサービス業や製造業での就職支援など、エリアにより支援戦略は異なることが予想される。支援システムは問題や不具合が生じた場合にどのように対応し、支援戦略にはどのような影響をおよぼすのか検証していきたい。また、GJの実施によって、若年ニート層は認識をどう変化させたのか言説分析を進めていく。リーマンショック後ニートはEU全体で広がった。フランスの場合、GJを通して政府、企業、社会が一丸となって「雇用経路の権利化」を推進したことでどのような社会的インパクトがあったのか、政府刊行物、調査報告、新聞記事から分析を進めていきたい。
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