研究課題/領域番号 |
22K02168
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08030:家政学および生活科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山田 義文 日本大学, 工学部, 准教授 (80584375)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 特別養護老人ホーム / 高齢者 / 建築特性 / 高齢者施設 / 居住環境 / 見守りシステム / 建築環境特性 / 重度化 / 災害時対策 / 福祉住環境計画 |
研究開始時の研究の概要 |
特養の入居基準に関しては、2015 年4 月以降より、原則として要介護3以上に変更された。入居者の重度化が進む中、制度変更前から運営されている既存の特養では、現状の入居者のニーズと建築環境との間に差異が生じ、ケアに携わる支援者にも不便さをもたらしている。 本研究では、既存の特養における「重度化」に対応するための「運用の変容」や「災害時及び感染症対策に関する現状と課題」を「建築環境特性別」に分析する。調査は、全国の都道府県に設置されている特養を対象に、建築環境(平面特性、周辺立地環境)に関したハード面と災害時対応や重度化による運営の変容に関したソフト面の両面から実施する。
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研究実績の概要 |
2023年度は、「高齢者施設における建築特性と災害発生時の避難計画に関する研究-山形県内の特別養護老人ホームを対象として-」を日本建築学会地域施設計画研究における審査付論文として投稿した。また、本研究に関連して日本建築学会全国大会において「特別支援学級におけるオープンスペースの活用実態に関する研究」及び日本福祉のまちづくり学会において「公共施設内の車椅子使用者用便房内空間における有効性と課題に関する研究」を口頭発表した。 高齢者施設における避難研究をテーマとした既往研究では、火災時における水平避難区画や一時避難区画の安全性を確保することの必要性や水害発生後の搬送避難時のプロセスや課題が明らかにされてきた。しかし、災害発生を想定した高齢者施設内における避難計画のプロセスや職員が抱く不安については検討の必要を示す段階に留まっている。また、避難計画を扱った既往研究では、建築特性別に比較分析した研究はほとんど見られない。そこで、2023年度は特別養護老人ホームで災害が発生した場合の避難計画と施設職員が抱く不安要因について、建物の階層や居室配置、周辺環境を含めた建築特性を基に分析した。分析の対象は、山形県内の特別養護老人ホームのうち、アンケート調査調査票及び避難経路図を返送された事例である。避難経路を図面上で比較分析したところ、特別養護老人ホームの居室配置型における「ユニット型個室」の場合は、主要玄関を通らずにユニットから直接外に避難が可能となる特性を備えていることが明らかとなった。しかし、入居者の重度化が進んでいる中で、福祉機器を利用した場合に建物内から屋外に避難する際の通路幅や段差の状況によっては入居者が当初の計画通りに安全に避難できない場合が課題である。この実績は、今後各地の特養を対象とした災害時の避難計画に関する調査研究を推進する上で、基本的な課題を整理する位置付けにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの2年間の研究実績から特別養護老人ホームにおける職員から見た災害発生時における課題の要因を分析した結果、「施設内」、「施設周辺地域」、「人員」の3つのカテゴリーに分類した。 「施設内」に関しては、災害による施設自体の損傷や煙挙動の予測の難しさを危惧する内容が主に挙げられている。その他、停電によりエレベーターが使えなくなった場合に避難経路が限られることに対する不安が2階建以上の事例で挙げられた。「施設周辺地域」に関しては、避難先として想定している施設等の倒壊や施設外に避難する際に通る道路の寸断について、特に避難先の施設が至近でない事例から挙げられた。「人員」に関しては、職員数の不足と災害発生時の施設へのアクセスに関する不安が挙げられた。職員数の不足については、特に夜間における職員数の少ないことが複数の事例で挙げられている。夜間に災害が発生した場合は、勤務時間外の職員が支援に駆けつける必要が生じる。その際の不安として施設へのアクセス確保について挙げられた。車等を利用して施設に向かう場合は、道路状況にも左右される。このため、「人員」に関しては「施設周辺地域」の不安とも関わりがあることが考えられる。さらに、地域住民と連携した避難計画を立てていたが、感染症対策の影響で訓練が実現せず、避難計画が立てられない不安を挙げる事例も見られた。さらに、訓練時は地域と連携していても、広域での被害が及ぶ災害の場合に外部からの協力を得られない状況になることが想定され、複数の事例における不安要因となっていることも把握した。 2024年度は、これまでに明らかになった課題の解消につながる地域と特別養護老人ホームとの連携について研究を行う。調査項目及び調査対象先の選定も決定しており、すぐに調査を実施できる体制にあることから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における補助事業期間中の2024年1月に能登半島地震が発生した。この災害におおける避難生活に関して「自閉症を持つ子供を多くの人が集まる一般避難所に連れていくことは想像できない」、「連れていくことで周囲の人に迷惑がかかると感じ、車中泊や自主避難の選択をせざるを得ない」といった声が被災者から挙げられるなど、依然として要配慮者に寄り添う避難所の環境整備には課題が見られている。 こうした背景を受け、2024年度は福祉避難所に指定されている施設(高齢者施設のほか、障がい者施設、児童福祉施設、その他の社会福祉施設、特別支援学校、小中学校、高等学校、公民館、宿泊施設なども含む)を対象として実施するアンケート調査の結果を基に、通常の施設運営時の避難計画の現状と課題に加え、災害発生時における要配慮者の受入対応方針と今後の運営・整備計画に関する課題を明らかにすることを目的に研究を推進する。調査内容は、ハード・ソフトの両面から後述する3項目で構成する。①要配慮者を受け入れるスペースについて(各配慮者の受け入れ対象の把握、受け入れられない理由、各属性に応じた専用居室の有無、施設での各要配慮者に対する対応、受け入れのための使用するスペースの名称、そのスペースを選択した理由、使用用途、災害発生時の各属性の受入想定人数)。②プライバシーの確保について(定員超過したスペースでの間仕切りの設置の有無、仕切る方法、間仕切りに使用する物の種類、高さ)。③運営訓練について(訓練を行う頻度、対象となる者、訓練を行う時間帯、従業員、施設利用者の参加頻度)。 本調査結果の分析を踏まえ、引き続き特別養護老人ホームにおける重度化した入居者への生活支援と災害時の対策について施設内及び施設が立地する地域を通した視点に基づき今後の施設運営や整備計画に関する課題について考察を進める。
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