研究課題/領域番号 |
22K02233
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤田 雄飛 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (90580738)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2026年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 人間と環境 / 身体 / 制度 / 発達 |
研究開始時の研究の概要 |
人間を理性的・意識的に思考し生きる存在とする限り、身体として生きる側面は軽んじられてしまう。しかし、人間は周辺に開かれた環境のなかで身体的な存在として様々に影響を蒙りながら生きているのであり、そこには身体による微細な調整に伴う微細な学習と発達が生じている。そうした意識されざる相において生じる人間と環境の相互作用の視点から発達や変容について理論的に検討する。
|
研究実績の概要 |
本研究では人間の発達・変容を考える際に、個体に閉じた図式を取ることなく、人間と環境の相互性の変容という視点を導入することで、学習の個人主義を排するとともに、発達概念そのものを問い直すことを目的としている。 本年度は理論研究として、教育現象が生じる空間としての学校を都市や空間の構成から捉えるために、ミシェル・フーコーのヘテロトピア概念に関する研究に取り組んだ(研究成果「教育哲学を考える」)。同概念はフランスの教育学者にも言及されており、規律訓練権力の枠組みとは異なるかたちで学校空間について考えるための文脈を獲得している。また、教育における記号論的な状況の読解の可能性を検討するために、教育記号論の研究者であり、制度主義教育学に関する研究実践にも関わるセバスチャン・ペスと研究に関する交流を行っている。ペスはパースの記号論をもとに、教育現象について記号論的な読解の可能性を探求しており、記号論的な環境理解を教育のなかで位置づける点で本研究にとっても親和性が高い。 また、教育環境に関する実践的な研究として、制度を改変可能な環境と捉える実践を長年にわたって積み重ねてきている制度主義教育学の実践校ヌーヴィル校の校長とディレクターに話を聴くとともに、パリ郊外にある同校を2度訪問して教育実践の観察と参与を行っている。ヌーヴィル校では学校内部の「制度」を教師・職員・生徒がレユニオンと呼ばれる全体集会において議論し、当事者として「学習環境、生活方針を考え、工夫し、合意を形成していく」(岡田敬司2003)という実践に取り組んでおり、教育の環境を当事者が改編可能なものとしているため、人間と環境の相互性を検討する本研究にとって意義深い。また、制度主義教育学において、郊外の若者による暴力問題に関する研究で著名なジャック・パン氏の追悼コロックに参加し、規律訓練的な学校における暴力の問題について示唆を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は理論研究および実践研究ともに進めることができている。特に、教育実践の場として、制度主義教育学の実践校に参与観察の場を得られた意義は大きい。同校のレユニオンに参加するなかで、日本とフランスの文化的な差異についてディスカッションを行っており、学校における子どもたちの開かれた振る舞いが大きな特徴であることが明らかになった。制度を改変可能な環境として捉える視点は、人間と環境との相互作用を考える本研究にとって非常に重要であり、今回の訪問調査の意義は大きい。 また、フランスの公立校における多国籍児童クラスの見学(パリ16区ボワロー校)も10回程度行っており、公教育のなかで文化的な多様性を踏まえてどのような教育実践が行われているのかを観察する機会を得ている。このクラスの実践は国際的な教育環境のなかで行われる教育実践を研究する場として貴重であり、日本の取り組みと比較することも可能である。理論研究ではフランスにおける研究交流を通して、教育記号論という新しい理論研究の意義が意識された。パースの記号論を教育環境の読解に適用することの意義は、知覚論として世界の意味構造を検討することを目指している本研究とも親和的である。また同じくパースのアブダクション概念は環境内における行動の創出を検討するためにも重要である。 さらに、学校空間を都市や周辺環境との関係性の中で捉えるために、フーコーの「ヘテロトピア」概念を検討しており、これまでの規律訓練権力とはことなるフーコーの学校論の可能性を明らかにすることが可能となる。
|
今後の研究の推進方策 |
理論研究としては、昨年度取り組んできたヘテロトピアに関する研究を継続し、成果論文とすることが課題である。特に学校の空間論の文脈は人間と環境の相互性という点で本研究にとっても重要であり、子どもの空間経験を扱うための基礎研究となる。 また、人間と環境を一つの全体的な体系として捉えるために、メルロ=ポンティの身体論およびギブソンの生態学に関する理論研究を行うことが必要になる。同様の視点に立つリード・Eの研究と合わせて、理論研究に取り組む予定である。 また、研究分担者として茂見剛氏が参加することになっており、デューイ哲学に関する研究に共同で取り組むことが可能になった。茂見氏はデューイおよびショーンの省察概念の研究者であり、人間と環境の相互性をどのように対象として捉えることが出来るのかを検討する上で、重要な研究となることが予想される。 さらに、人間と環境に関する実践的な研究としては、今後は教育人類学および特別支援教育に関する研究を検討する予定である。特に後者は現代ではVRによる教育実践に取り組む研究があり、先端技術との関わりを含む環境のあり方を考えることが可能になると思われる。
|