研究課題/領域番号 |
22K02283
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
遠藤 貴広 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (70511541)
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研究分担者 |
本所 恵 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (80632835)
増田 美奈 富山大学, 学術研究部教育学系, 講師 (80736885)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 省察的モデレーション / 学習評価の倫理学方法論 / 反照的均衡としてのモデレーション / 総合的な探究の時間 / パフォーマンス評価 / 信頼性・妥当性 / 市民性教育・主権者教育 / 熟議的コミュニケーションとしての評価 |
研究開始時の研究の概要 |
パフォーマンス評価の信頼性を確保するために、評価者間で評価結果の違いを調整するモデレーションが必要である。本研究では、学校をまたいだメンバーでグループ・モデレーションを行うための地域プラットフォーム作りを実際に進めながら、その成立要件と構築方法を明らかにする。 グループ・モデレーションは、互いの価値判断の基準を問い直す学習にもなる。それは民主主義の基盤形成にもつながるもので、本研究ではこのプロセスを「省察的モデレーション」として意味づけ直し、市民性教育・主権者教育の視点から学習評価の概念を再定義することで、学習評価の実践から公教育の理念を問う回路も明らかにする。
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研究実績の概要 |
福井県を中心に北陸地方の高校を多数訪問し、本研究の構想を共有するとともに、関連する実践事例の報告を受けられるようになった。特にグループ・モデレーションについては、学校現場でも切実な実践課題になっており、学校の実践に即して課題遂行できる状況が生まれている。 当初は教師によるグループ・モデレーションを想定した研究を計画していたが、生徒によるグループ・モデレーションの事例も多数寄せられるようになった。その中には、学校をまたいで生徒が評価規準・基準を吟味するものもあり、教師が生徒による学校間グループ・モデレーションを支えることを通して、教師も学校内もしくは学校間でグループ・モデレーションを行うようになるという実践の展開も生まれている。 このような実践の展開を跡づける中で、特に総合的な探究の時間における学習評価の構造に注目しながら、学習評価の方法論をめぐる論点も明らかにした。例えばモデレーションをめぐっては、たとえ効率的にモデレーションを実施できるようになったとしても、過度の調整による教育の標準化・画一化のリスクが残る中で、複数の異なる価値が共存でき、そして価値観の違いが生きるモデレーション・システムとはどのようなもので、それはどのようにして構築できるかといったことが論点になる。本研究では、モデレーションのプロセスを、ジョン・ロールズ(John B. Rawls: 1921- 2002)の倫理学方法論である「反照的均衡(reflective equilibrium)」として位置づけるに至り、規範的政治理論の視点から学習評価の実践をめぐる新たな論点を探ることができるようになった。この位置づけにより、他の評価概念についても公共哲学の視点から再定義する見通しが立った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高校の新学習指導要領全面実施のタイミングと重なり、特に学習評価に関して各学校で頻繁に教員研修が持たれ、当初の想定以上に実践事例が集まるようになった。 例えばルーブリックを用いたパフォーマンス評価について以前から実践を積み重ねている学校では、生徒のパフォーマンスをどのような方法で評価するかではなく、評価の妥当性と信頼性をどう確保するか、そのためにモデレーションをどう位置づけるかという点に関わる実践研究も進んでおり、本研究にとって重要な事例となっている。この中には、教師ではなく生徒が授業中に生徒同士で評価規準・基準を吟味するものや、生徒交流会等で他校の生徒ともに評価規準・基準を検討するものもあり、それに触発されて教師も学校内・学校間でグループ・モデレーションを始めるという展開も生まれている。このように教師・生徒双方が連動した学校間グループ・モデレーションの展開は、明らかに当初の想定以上のものである。 この取り組みについては、福井新聞等のメディアでも何度も取り上げられ、地域に広く発信されるようになっている。また、福井県教育委員会がこの取り組みの発展にもつながる教員研修の場を準備するようになっており、大学・教育委員会・地域が一体となってこの取り組みを支える状況も生まれつつある。それは確実に、学校間グループ・モデレーションのための地域プラットフォームの基盤になるものである。 理論的には、特にモデレーションのプロセスを反照的均衡という倫理学方法論として位置づけた構想を日本カリキュラム学会等で発表できたことが大きく、以後、公共哲学の論点を手がかりに評価概念を再定義する見通しも立つようになった。これも当初の計画を超える研究の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、福井県での取り組みを継続させながら、石川県と富山県での取り組みも本格化させるとともに、海外の事例検討も始める。 これまでは総合的な探究の時間における学習評価が中心事例になっていたが、日本の学校現場では各教科の観点別評価の妥当性・信頼性の確保に向けた課題が大きくなりつつあるため、教科でのグループ・モデレーションの事例蓄積にも努める。 これまでの事例検討を通して、その学校の校内研修の構造や学校文化が取り組みの成否を左右することが分かってきた。そこで今後は、校内研修の構造や学校文化にも注目した事例検討を重ねる。 理論的には、反照的均衡としてのモデレーションという位置づけを発展させる形で、評価規準を公共的理由(public reason)として位置づけ直し、この視点からモデレーション・プロセスの意味づけ方を変え、さらに別の評価概念の再定義も図る。こうして公共哲学の視点から学習評価の言説を組み換える構想を、より確実なものにしていく。
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