研究課題/領域番号 |
22K02288
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
森田 佐知子 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (30743091)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
|
キーワード | 北欧 / フォルケホイスコーレ / グルントヴィ / 相互作用 / イギリス / ケンブリッジ大学 / ウィリアム・ヒューウェル / Fircroft College / 実践共同体 / キャリア支援 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、①グルントヴィの理念の一つである「生けることば」による「相互作用」が北欧の伝統的な実践共同体であるフォルケホイスコーレやエフタスコーレの教育の中でどのように実践されているのか、②「生けることば」による「相互作用」は共同体で学ぶ若者のキャリア形成にどのような影響をどのようなプロセスで与えているのか、という2点を明らかにすることを目的としている。エフタスコーレやフォルケホイスコーレは長い歴史の中で、各国の教育ニーズを満たす形でその教育内容を分化させてきた。本研究では、時代や文化、教育内容の変遷を経てもなお若者のキャリア形成に資する「相互作用」の本質を北欧の事例から解明することに挑む。
|
研究実績の概要 |
本研究は、教育内容の変遷を経てもなお若者のキャリア形成に資する「相互作用」の本質を北欧のエフタスコーレ・フォルケホイスコーレの事例から解明することを目的としている。2022年度に実施した研究内容と得られた成果は以下のとおりである。 (1)エフタスコーレで収集したデータに「社会的相互作用のモデル」を援用して分析し、エフタスコーレが若者のキャリア形成に与える3つの効果(社会的スキルの向上、役割遂行感の獲得、学びや職業に対する新たな機会の発見)とこれら3つの効果を高める相互作用のプロセスを明らかにした。 (2)フィンランドのフォルケホイスコーレが若者のキャリア形成に果たす役割を2018年から開始されたAlternative path to universityプロジェクトに着目して考察した。その結果、世界で最も高等教育の選抜性が高いフィンランドにおいて、フォルケホイスコーレは高校卒業から大学入学までの間にキャリアの余白を持たざるを得ない若者にサポーティブな学習環境と質の高いキャリアガイダンスを提供していることが明らかとなった。 (3)グルントヴィが残した手紙とその他史資料から彼の「生きた相互作用」の源泉に関する分析を進めた。その結果、産業革命下のイギリスの経済発展や自由主義との関連性に関しては一定の研究の蓄積があるが、彼がケンブリッジ滞在中に最も親しくしていたトリニティ・カレッジのフェローWilliam Whewellの教育哲学とフォルケホイスコーレ構想との関連性についてはまだ詳しく分析されていないことが明らかとなった。 (4)史資料の調査から、1900年代初頭のフォルケホイスコーレにおいて、イギリスのレジデンシャルカレッジであるFircroft Collegeとの交流が、工業国へと変容しつつあったデンマークのフォルケホイスコーレに与えた影響が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に次の2点を計画していた。 1点目は、エフタスコーレで収集したデータを基に構築した仮説モデルの検証と精緻化である。これについては一連の研究を完了してその結果をまとめ、発表することができた。 2点目は、文献調査からノルウェー・スウェーデン・フィンランドのフォルケホイスコーレにおける「相互作用」の変遷を明らかにすることであった。これについても、すでに研究論文を発表済のノルウェーに続き、フィンランドのフォルケホイスコーレにおける教師と生徒及び生徒同士の「相互作用」に着目した研究を論文にまとめて投稿し採択された。 さらに、グルントヴィの「生きた相互作用」の源泉の1つとされるグルントヴィのイギリス研究旅行とそれを契機とするドイツ哲学と教育との融合に関して一次資料の調査を進め、これまで詳しく研究されてこなかったトリニティ・カレッジのフェローWilliam Whewellの教育哲学とフォルケホイスコーレ構想との関連性への示唆を得ることができた。またイギリスのFircroft Collegeが工業国へと変容しつつあったデンマークのフォルケホイスコーレに影響を与えた可能性についても調査することができた。 上記に加え、グルントヴィが影響を受けたドイツ哲学の概念の1つであるBildungに関して、Nordic Bildungの代表であるLene Rachel Andersen氏に対するインタビュー調査を実施する機会を得た。これをきっかけにGlobal Bildung Day 2023やGlobal Bildung Networkに参加し、Bildungの概念とその普及に関する情報を収集する環境ができたことも大きな進捗であった。 上記から現在までの進捗状況に関しては「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度はスウェーデンのフォルケホイスコーレでの調査を予定していたが、グルントヴィの「生きた相互作用」の源泉の1つとされるイギリス研究旅行とそれを契機とするドイツ哲学と教育との融合、そしてその後の工業化に伴うフォルケホイスコーレの変容は「生きた相互作用」の変遷を研究する上で事前により深く解明しておくべき課題である。そこで次年度は以下のことを優先して実施することとした。 (1)1830年代前半のケンブリッジ大学における教育及びチュートリアルについて、Whewellを中心とする教養教育論争も含めて文献と史資料から整理しておく。 (2)William Whewellの教育哲学とフォルケホイスコーレ構想との関連性をWhewellの教育に関する2つの著作『Of a Liberal Education in General』及び『On the Principles of English University Education』と、トリニティ・カレッジに残るその他史資料から分析する。 (3)イギリスのFircroft Collegeとの交流が工業国へと変容するデンマークのホイスコーレに与えた影響を現地での史資料調査とインタビュー調査から分析する。 (1)と(2)についてはすでに入手済みの史資料とWhewellの著作から分析を進めている。(3)についても1900年代初頭のフォルケホイスコーレマガジンやHolger Begtrupの回顧録から調査を始めている。また5月にバーミンガム図書館に残る史資料の調査及びFircroft Collegeでの現地調査を行う予定である。 最終年度にスウェーデンのフォルケホイスコーレについて調査する予定であるが、当初よりも調査期間が短くなるため、次年度にオンライン上で入手できる文献の調査と協力校への事前ヒアリングを完了させておきたい。
|