研究課題/領域番号 |
22K02305
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09010:教育学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
平井 貴美代 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (50325396)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 教職員の働き方改革 / ポジティブデビエンス / 女性校長比率 / 教職員の働き方 / 日本型学校教育 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、教職員の「働き方」改革という難題に、「ポジティブデビエンス」アプローチを用いて取り組むことにある。同アプローチは、困難な課題を抱える地域の「一見外れ値とされてしまうような例外的な成功者に光を当て、彼らがすでに実践している解決策を見つけ出す」研究手法であり、公衆衛生分野などで近年注目されている。教職員の「働き方」問題も行動変容が鍵を握るという点で健康教育と近く、有益な手法と見込まれる。例外的な成功者として、高い女性校長比率を比較的長期にわたって維持してきた自治体を対象に質的調査を行い、多様な働き方を可能とする学校運営方法等の特定と、得られた知見の「横展開」の可能性を検討する。
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研究実績の概要 |
教職員の働き方改革については、法改正や指針の整備などによる政策誘導が進められる一方で、学校が学習面だけでなく生徒指導面にも積極的にかかわる「日本型学校教育」の継承も同時に求められており、両者のトレードオフによる形骸化の懸念がぬぐえない。「日本型学校教育」は、その多くが現場の発想にもとづく「下から」の教育活動の積み重ねであり、よりよい教育を求める善意と行動を優先するあまりに、ワークライフバランスの発想が抑制されてきた経緯がある。 本研究では、この「働き方」と教育との両立という難題の解明に向けて「ポジティブデビエンス」アプローチを採用し、「校長=男性」という通念の存在にもかかわらず、高い女性校長比率を比較的長期にわたって維持してきた自治体の関係機関や当事者へのインタビュー、学校観察等の質的調査を通じて、多様な働き方を可能とする学校運営方法等の特定と、得られた知見の「横展開」の可能性について検討することを目指している。 研究の進め方としては、ポジティブな事例=小学校女性校長比率が長期にわたって維持されてきた都道府県の調査を行って、女性が働きやすい業務形態や環境における「違い」を特定したうえで、その活用を考えるのが望ましい手順であろう。しかし、2022年度はCOVID-19の影響により飛び入りのフィールド調査は受け入れられにくいと考え、研究計画書の記載にも先行研究などの文献調査に限定することとしていた。ただ、計画時にはポジティブな事例の「横展開」の対象となる後進県と想定していた、研究代表者の勤務地である山梨県において、行政主導で女性校長比率を向上させようとする動きが、21~22年度になって顕著になってきた。そのため、その実態や課題についてリアルタイムで把握する試みを先行して行うことが研究上有益であると考え、山梨県教職員組合女性部長へのインタビュー調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フィールド調査を初年度から行わなかったのはCOVID-19の影響によるものであり、そのことは研究計画調書を策定する際にも想定していた。研究スケジュールの記載には、2022年度の予定として、先行研究の検討を行なうこととしていた。しかし、フィールド調査を行わずにWeb等で収集できる情報は限られており、関連文献も限られていることから、情報収集を思うように進捗させることができなかった。 一方、当初は初年度に行うことを想定していなかった山梨県教職員組合女性部長へのインタビュー調査からは、ポジデビに与える教職員組合のプラス/マイナスの影響の両側面について貴重な示唆を得ることができた。女性部という教職員組合内組織の特徴として、男性が主導してきた支部組織のような下積み的な仕組みをもたず、そのため支部の役職等を積み上げながら県の中心的な役割を担う人材に育っていくキャリアパス(山梨県の場合は、組合内キャリアが公的なキャリアにも連動している)から女性が排除されやすい。女性の側が特別な意欲や動機を持たない限りは、女性が組織内の従属的な立場に留まることになり、両者の棲み分けによって組織内の葛藤も生じず、既存の男性中心の学校運営の在り方は「平和」に維持されることになる。 以上が女性部という組合内組織のマイナス面だとすると、プラス面は既存の組織との癒着が少ないということである。男女共同参画という正義には男性組合員も面と向かっての反対は述べにくい。そこでこの正義を手掛かりに、支部の役職の女性比率の「見える化」や、女性を対象とした管理職試験の学習会等を通じて意欲や動機を掘り起こし、ネットワークをつくる戦略を持続させている。「違い」の原因が分かりにくい現象の解明こそがポジデビ研究の意義であることを考慮したとときに、ポジデビを特定するうえでフィールド調査が不可欠であることに改めて気づけたことも有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書には、研究2年目の2023年度からフィールド調査を行なう計画となっている。フィールド調査の内容としては、小学校女性校長比率が長期にわたって高水準で維持されてきた都道府県の関係機関や学校に対する質的調査を行うこととし、得られた質的データの比較分析等を通じて、女性が働きやすい業務形態や環境における「違い」を特定することとを想定していた。さらに調査対象としては、男女共同参画基本法が制定された1999年、10年後の2009年、20年後の2019年の20年間にわたり全国上位を維持してきた3県(広島、富山、栃木)と、当初は低比率であったのが10ポイント以上向上させて、上位に入った3県(石川、滋賀、三重)を例示していた。しかし、行政や学校現場と言った公的機関を調査対象とするだけでは類似の研究の後追いにすぎない面があり、労使関係が大きく影響する「働き方」の一面しかとらえることができないと考えるようになった。 2023年度からポジティブデビエンスを対象とするフィールド調査に着手するという大筋は動かないものとして、ポジデビの事例選定にあたっては、当初想定していた行政等の主導による女性校長比率の高低に加え、教職員組合、とりわけ女性部の取組という側面も考慮したときのポジデビも、新たにフィールド調査の対象に加えることを検討したい。そのためにも、2022年度にインタビュー調査を実施した山梨県教職員組合婦人部長への調査を継続するとともに、日教組婦人部常任委員でもある同氏を通じて全国的な情報を入手して調査の対象を選定し、ポジデビのフィールド調査を企画・実施していきたい。また分析を深めるために、労使の交渉や取り組みが職場の「働き方」に与える影響に関する先行研究について、教育分野に限らず労働分野などの先行研究に広くあたって、調査分析の幅を広げたり深めたりしていきたい。
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