研究課題/領域番号 |
22K02330
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
村上 登司文 京都教育大学, 教育学部, 名誉教授 (50166253)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 平和教育 / 戦争デジタル情報 / 平和教育学 / 平和教育研究 / 戦争体験継承 / 次世代 / 戦争体験証言 / 戦争体験 / 継承エイジェント / 平和形成 |
研究開始時の研究の概要 |
戦争体験の継承エイジェントの転換と、戦争デジタル情報の利用形態を比較社会学的に明らかにする。2000年頃から、戦争体験を風化させないために、戦争体験の継承エイジェントの新たな転換が進んでいる。戦争デジタル情報を用いた新しいエイジェントによる戦争体験の継承が、平和意識形成に及ぼす影響を実証的に明らかにするため、国内と国外において実地調査と意識調査を行う。戦争デジタル情報の展開過程を分析すると共に、その限界と可能性を考察し、学校教育で効果的に利用する方法を検討する。戦争体験証言者による直接的継承の最終段階以降に平和教育が進む方向性を、実証的研究手法により提案する。
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研究実績の概要 |
2000年代は戦争体験者が急速に減少し、グローバル化と情報化が急進する時機であり、平和教育は過渡期を迎えたと言われる。過渡期の平和教育を停滞させることなく発展させるためには、学術的なサポートが必要である。 (1)2000年代に戦争体験の継承エイジェントとして、学校教師からテレビへと主要エイジェントが転換した。戦争に関連するテレビ番組や、戦争体験者の証言ビデオがアーカイブ化された。2024年には広島大学EVRIにより平和教育者(10名)のインタビューのアーカイブが制作されている。冊子『平和教育』には平和教育者の手記が多く掲載されている。分類枠組の項目は、①平和教育を始めたきっかけ、②自分の平和教育の紹介、③平和教育は何だったのか、④伝えたいメッセージ、などであり平和教育実践を歴史的に跡づけた。 (2)戦争体験継承に利用する「戦争デジタル情報 for Peace」のホームページを改訂した。HPでは、①学校で児童・生徒が活用できるリンク集、②戦争体験証言をオンライン視聴できるリンク集、③平和博物館のHPで戦争体験証言を掲載しているリンク集、などで構成した。「戦争記憶のアーカイブ」とは、戦争証言を収録したアーカイブであり、戦争体験について語った生の声を集めた資料庫である。国内の平和博物館(約65館)において、児童生徒向きのページ、戦争体験証言の掲載の有無についてHPを構成した。 (3)国際比較研究として、平和教育学フォーラムで、オーストリアの平和教育研究者に「戦争の時代における平和教育―ヨーロッパの経験から―」の題目で講演を依頼し、日本の平和教育との接合領域を検討した。 (4)デジタル情報の発信として、2023年度にオンライン講座を実施(7回)した。各講座について、解説動画を視聴できるようにした。平和教育学の講座が、平和教育に関する教師教育に役立つことを目ざしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究方法③国際比較調査については、国際的なフォーラムを開催できた。現地調査については、2023年10月にイスラエル・ガザ戦争が始まったため、イスラエルを訪問することができていない。本研究で国際実地研究の進捗が止まっているので、回答では、(3)「やや遅れている」を選択した。 2023年度の進捗状況として、研究方法①継承エイジェントの転換期となっており、学校では次世代に対する平和教育が行われており、児童生徒は既に戦争体験第4世代となっている。学校教員の平和教育実践をメタ化するために、平和教育者のインタビュービデオの分析、平和教育者の手記や実践振り返りなどの資料分析を行っている。平和教育者の実践の系統化と広がりを見ることで、平和教育実践史を跡づけていく作業を進める。 研究方法②戦争デジタル情報に関して、主要なエイジェントは、学校教師→テレビへの転換、そして現在はネット情報が補完している。2023年度は戦争証言アーカイブによる戦争体験継承のリンク集を作成したので、テレビなどがどういう影響を及ぼしたのかの検証を進める。テレビが戦争をどう描いてきたのか、それによりどのように集合的記憶の形成に影響を及ぼしたのかを検討する。 研究方法④意識調査については、質問構成を検討している。調査対象校の抽出については、前回調査結果と比較するために、東京、京都、広島、那覇の4地域に絞り、18校程度に依頼する。有効回答数が1200名程度(中学2年生)となるよう調査を依頼する。 研究方法⑤戦争デジタル情報の発信の1つとして、平和教育の公開オンライン講座「シリーズ平和教育学」として7回実施した。2023年度開講の講座内容は、平和教育の理論、平和教育の歴史、子どもの平和意識、受講者による問いとそれへの回答例、次世代による戦争体験の継承、平和教育のカリキュラム、ドイツの平和教育、の7回である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、①継承エイジェントの転換分析、②戦争デジタル情報の分析、③国内中学生の意識調査、④国際比較調査、⑤戦争デジタル情報の発信、の5つの方法で、2024年度から残り2年間に渡って研究する。研究方法④国際比較の現地調査の実施可能性については、2023年10月より始まったイスラエル・ガザ戦争の終息を見守る必要がある。 研究方法①継承エイジェントの転換については、新旧のエイジェント間の完全な移行ではなく、戦争体験継承において両エイジェントがどう相互補完するかを分析する。2024年度は、各継承エイジェントによる戦争体験継承の説明資料を収集し分析する。非核宣言自治体による平和啓発事業の目的・内容や、広島大学EVRI作成の平和教育者のインタビュー動画や、平和教育冊子(『平和教育』1976年~2009年)を用いて、平和教育者の形成過程と、日本の平和教育の固有性を考察する。 研究方法②戦争デジタル情報については、新たな情報技術であるAIを活用した被爆証言応答装置、VR体験で8月6日の惨状を再現、について広島のPeace Academyでその実情を把握する。また生成AIによる戦争証言の生成について情報を収集する。 研究方法③中学生における、戦争デジタル情報と平和形成への当事者性との関連を明らかにする。2024年度に、全国4地域の中学校で平和意識調査を実施する。調査では、戦争体験の継承に焦点を当て、戦争デジタル情報の利用が子どもにどのような影響をもたらすかを分析する。 研究方法⑤戦争デジタル情報の発信を継続し、2024年度も平和教育学の公開オンライン講座を実施する。2024年度7月に、地方自治体による平和啓発と学校の協同、昔と今の平和教育者、平和教育への公的な支援・支持とは、などのテーマで講座を開講する。視聴者を増やすために、オンライン講座の提示方法を検討し、解説ビデオの内容を工夫する。
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