研究課題/領域番号 |
22K02337
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
香川 七海 日本大学, 法学部, 准教授 (20816368)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 戦後史 / 戦後教育史 / オルタナティブ教育史 / 教育運動史 / 近代教育批判 / 能力主義(メリトクラシー) / 戦後民主主義 / 板倉聖宣 / 教科教育史 / 科学教育史 / 理科教育史 / 算数・数学教育史 / 言説研究 / 社会運動 / 現代史 / 戦後教育の社会史 |
研究開始時の研究の概要 |
【研究の概要】本研究は戦後日本社会において、どのような様態で教育関係者が教育内容(=市民として会得すべき知)を創出したのかを明らかにするものである。そのさいに着目するのは、法律や条例、議会政治、公官庁の動向ではなく、個々人の教育実践や教育運動の実相である。社会的事象や社会現実は、法制史や制度史、政治史といったマクロな現実のみによって説明できるものではない。マクロな現実とともに、多様な個々人の「生活」との相互作用によって、「実態」が形成されていくのである。本研究は、その意味で、戦後日本社会における教育運動の社会史を明らかにすることを志向している。
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研究実績の概要 |
当該年度の研究成果は、科学史学者の板倉聖宣に関するものが中心となっている。2022年度から板倉の所論と彼の提唱した科学教育の理論である仮説実験授業について検討をしてきた。板倉の著作物と、関連する論考が厖大であり(私家版の史資料を含めて)、すべてを収集するだけでも予想外に時間がかかってしまった。国立国会図書館や「cinii」関連のデータベースなどでも検索にひっかからない「埋もれた史資料」も数多くあり、すべてを入手するだけでも1年以上がかかってしまった。朝から晩まで、あらゆるデータベース、古書店の電子目録(時には紙媒体)を利用し、「板倉聖宣」、「仮説実験授業」と検索と調査を続ける日々であった。また、研究会の当事者(関係者)に手紙やメールを出したりして、私蔵されている史資料を譲っていただくということもあった。この作業は、2022年から2023年夏ごろまで継続した。 2022年度は、史資料の収集と内容の精査、先行研究や評伝の分析に時間を取られることになった。しかし、2023年度に進み、板倉に関する論考を、①戦後日本の能力主義批判(メリトクラシーと科学教育)、②科学教育論(「楽しい授業」論)、③戦後民間教育研究運動(社会運動・教育運動)、④経験主義・系統主義の「その後」史の視座から検討した。①~④を、それぞれ活字化したが、①③は、リジェクトされたので、今後、大幅に改稿する予定である。②④は、幸いにして全国学会、全国研究会の研究紀要に掲載されることとなった。なお、この活字化にともなって、日本子ども社会学会でのポスターセッション(個人報告)、一橋大学〈教育と社会〉研究会(個人報告)、オルタナティブ教育共同研究会(個人報告)において、関連する内容を途中経過として研究者に公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、2022年は史資料の収集と整理で時間を取られてしまった。ただ、2023年に進み、史資料の内容の分析に進み、研究成果の活字化が進んだ。もちろん、リジェクトされた論考もあるが、学会や研究会での個人報告、ならびに、査読コメントによって、有益な知見を得ることもできた。先行研究の乏しい(ほぼない)分野に、どのように切り込むのかという困難さもあったが、道筋が見えてきたことで、「おおむね順調に進展している」という評価に達した。なお、一橋大学〈教育と社会〉研究会では、それ以前の半年の模索の成果として、3万字程度のレジュメを作成したが、コメンテーターから厳しい指摘を受けた(その指摘は正当なものであった)。そのため、レジュメの活字化(論文化)に際して、全文を破棄して、イチから起筆することになったが、これは結果的には、史実を慎重に分析することにつながった。このように、「三歩進んで二歩下がる」というような、困難さに直面しながらも、一定の研究成果を公刊することができたという経緯も含めて、前述の自己評価を導出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果は、科学教育史の内容に特化するものであったが、その核心は、板倉聖宣の主張した教科教育論、戦後民主主義教育論(能力主義批判を含む)であった。板倉は、既存の学校教育を具体的な教科教育の方途から問い直すいとなみを生み出したが、その視座は、同時代のオルタナティブ教育の視座とも親和的であった。そのひとつの査証として、同時代のオルタナティブ教育の中心的人物らが関与した教育雑誌『ひと』の関係者らと、仮説実験授業の親和性が挙げられる。今後は、教育雑誌『ひと』に関与した人々の所論と、板倉の所論との関係について明らかにする。また、学校教育を問い直す板倉の視座と、同時代のオルタナティブ教育論を検討し、その親和性と「ずれ」について明らかにする。加えて、教育雑誌『ひと』に関与し、不登校(登校拒否)を容認する母親による所論、脱学校を主張する母親による所論についても検討をしたい。これによって、板倉の所論と同時代の母親らの「近さ」を具体的に明らかにすることができるだろう。
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