研究課題/領域番号 |
22K02353
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09020:教育社会学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
油布 佐和子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80183987)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 教員の過重労働 / 献身的教師像 / 労働過程の3極構造 / 強権的善意 / 関係的ケアでの精神疲労 / 教育労働 / パターン化した教育行為 / 意味付けの低下 / 教師の働き方 / intensification / professionalism / 労働過程 |
研究開始時の研究の概要 |
教師は身近な存在であるために、多くの人が教師の仕事を「知っている気」になっている。そしてまた、「子どもに授業をすることが、なぜ忙しさにつながるのか不明」といった単純な感想を抱かれかねない現状がある。 一方で、「働き方改革」の中で、教師の長時間労働について改善策が示されたにもかかわらず、実際に改善されたという話も聞こえてこない。 これらは、教師が制度的に求められ、期待される役割を超えて、どのような業務をどのようにこなしているか、その労働の現実が理解されていないために生じている。 度重なる教育改革の中で、教師にとっての「気の重い仕事」に携わる現実について迫り、教職の労働の実態を明らかにする。
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研究実績の概要 |
教員の長時間労働や過重労働は、客観的・構造的な側面を取り扱うことが多いが、その中で看過されているのが、働き手の感情やモチベーションなど、意識の問題である。 長時間労働や過重労働で疲弊している実態があり、「働き方改革」では様々な施策が示されているにもかかわらず、教員自身が労働時間に無頓着で、「児童・生徒のため」にという理由から労働・労働時間という概念を意に介していないことが明らかになっている。こうした教員の意識は、教育社会学においては、教員文化の一端を示す「献身的教師像」として知られているが、この問題に切り込むことなくしては、労働条件を改善するどのような施策も、「過重労働」から教員を開放することはないであろう。そこで、本研究年度では、理論的整理を中心に「献身性」について検討した。 「献身性」とは本来「利他主義的配慮」であり、対象となる相手の要求に「専心没頭する」ことだと確認された。「献身性」は、人を対象とする職業に従事する人々に共通してみられる心理的傾向であるが、問題は、これが「労働過程」に取り込まれている点である。3極構造の労働過程論では、相手に対する対応が、監督者・管理者の目に晒され評価されるという構造となっており、そのために、教員個人の意識である「献身性」は、管理・監督の目のもとに変質を余儀なくされる。本来は「利他主義的な配慮」である「献身性」が、自らの行為を的確なものと認めてもらうために、「強権的善意」や「対立葛藤予防的」な思いやりに変化を遂げるのである。この理論的な整理を踏まえて、次年度はフィールドワーク・インタビュー調査を実施する。 同時に、人を対象とする職業の典型であるケアワーク・介護職研究からは、分業に伴う労働者の意識の変化や問題が指摘されており、「関係的ケア」領域での精神的疲労が明らかになっている。これとの関係についても検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
勤務校での日常的な仕事の他に、退職の年度でもあることから、学会や諸機関との連携におけるまとめの仕事が予想以上に多く、時間が取れなかった。 しかしながら、「献身性」に係る文献の検討は一定程度の成果を上げ、論文にまとめることもできた。、
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、理論的に明らかになった3極構造における労働過程について、フィールドワーク・インタビュー調査を実施し知見の集積に務める。 接客サービス労働研究から得られた「労働過程」の研究は、顧客の性格や顧客との関係から考えるに、教員の労働研究に多くの示唆を与えるものの十分ではない。一方、介護職・ケアワークの研究の成果には参考になる点が多いが、「労働過程研究」の中でそれが行われているわけではないため、多少の読み替えや解釈が必要となる。こうした先行研究の問題を検討しながら、なるべく多くの「教員の声」を収集し、教員が自分の労働をどのように理解しているのか、特に「生徒のために」という言葉で簡単に長時間労働・過重労働につながっていく現場の実態をどのように把握しているのかについて、教員の「声」を集め分析する。
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