研究課題/領域番号 |
22K02542
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
坂口 謙一 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (30284425)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 職業科農業 / 新制中学校 / 学習指導要領 / 中学農業 / CI&E教育課 / 島田喜知治 / L.Q.Moss / 複合的・多角的農業 / 経験単元 / 作業単元 / プロジェクト・メソッド / 総力戦 / 戦後教育改革 / 技術科 |
研究開始時の研究の概要 |
日本の中学校の技術科は、普通教育としての技術・職業教育を担う唯一の教科制度である。この技術科は、特殊日本的な、二つの希有で強固な特質を有している。第1に、技術科は、異なる目的・役割を有する家庭科と「・」で結び付けられ、「技術・家庭」という単一教科の一側面として複合化されていることである。第2に、中学校のみの教科であることである。日本の技術科は、なにゆえ特殊日本的な特質・性格を色濃く帯び続けているのであろう。本研究は、占領下日本の戦後教育改革の時代における、普通教育の教育課程における技術・職業教育制度の現代化のプロセスの特質と意味の解明を試みることを通して、この「学術的問い」に接近する。
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研究実績の概要 |
本研究は、1947年、新制中学校に誕生した職業科のうちの農業科(以下、職業科農業とする)に焦点を当て、『学習指導要領 職業科農業編(試案)昭和二十二年度』(1947年11月4日発行。以下、1947年版職業科農業編。)と戦後最初の文部省著作教科書『中学農業』(初版1947年5月25日~1948年1月19日発行)の内容を中心に、職業科農業におけるプロジェクト活動の位置づけと形成過程、及びその特質と技術・職業教育的意味を明らかにすることを目的としている。 令和5年度の主要課題は、1947年版職業科農業編と『中学農業』の編纂過程を、占領軍CI&E教育課文書を通して調査・分析することである。この課題は、令和5年度と令和6年度の2年間を通して行う。令和5年度は、CI&E教育課の会議報告書、週間報告書等について、1946年8月頃~1949年1月頃の時期を対象に概括的に調査・分析を行った。その結果、たとえば次のことが明らかとなった。 新制中学校「職業教育」の1947年度向け学習指導要領・教科書の編纂作業が本格化したのは1946年10月18日前後であり、この頃、当該編纂作業のため「職業教育カリキュラム改正委員会」が組織された。1947年1月10日の時点では、「ジュニア・ハイスクール用」の「職業コース・オブ・スタディ」の「草稿完成」は1947年1月31日が見込まれていたが実際には遅れた。「ジュニア・ハイスクール」段階の「農業科」の「コース・オブ・スタディ」は、1947年3月3日の時点で「総論」は完成し、「各論」も完成に近づいていると文部省側がCI&E教育課側に報告している。職業科の学習指導要領が科目毎に分冊で発行することが決定したのは1947年5月26日頃であった。現状、CI&E教育課文書を概観する限り、職業科農業の学習指導要領・教科書編纂に関し、大きな問題が生じた様相は確認されない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査・分析作業はやや遅れている。このことに関する主な理由は以下の2点である。 第1は、研究資料上の問題である。前述のように、本研究は、令和5年度と令和6年度の2年間、1947年版職業科農業編と『中学農業』の編纂過程を、CI&E教育課文書を通して調査・分析する。具体的には、先行研究や本研究の予備研究の結果を踏まえて、対象とする主要な分析資料は、CI&E教育課において、職業教育等の担当者モス(Moss,L.Q.)や中等教育等の担当者オズボーン(Osborn,M.L.)等が署名者となった会議報告書とCI&E教育課の週間報告書とした。また、対象とする時期については、始点としては先行研究や本研究の予備研究の結果に基づき1946年8月頃からとし、終点は『中学農業』の「修正発行」版の発行が完了した1949年1月末頃とした。これらに相当するCI&E教育課文書は膨大な量が存在し、かつ占領文書のため印字状態が不鮮明で解読が困難なものが多い。 第2は、新たな研究課題の浮上という問題である。上記のCI&E教育課文書の調査・分析を通して、本研究に着手した当初あまり意識しなかったが、見過ごせない研究課題が存在していることが次第に明らかとなってきた。それは、いわゆる1947年版学習指導要領の次の1951年版学習指導要領の編纂の問題である。新制中学校職業科に焦点を合わせて言えば、1947年版職業科農業編が、工業科・商業科・水産科・家庭科・職業指導の各編と共に改訂され、『中学校学習指導要領職業・家庭科編(試案) 昭和26年(1951)改訂版』(1951年12月。以下、1951年版職業・家庭科編。)が発行される動きである。CI&E教育課文書の調査・分析を通して、この1951年版職業・家庭科編の編纂は、遅くとも1948年9月23日頃には具体的に開始されていたことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、次の令和6年度は、令和5年度と同様、1947年版職業科農業編と『中学農業』の編纂過程を、CI&E教育課文書(会議報告書、週間報告書など)の調査・分析を通して明らかにする作業を引き続き行う。 ただし、上記のように、1947年版職業科農業編の次の1951年版職業・家庭科編が編纂・発行される動向を、1947年版職業科農業編及び『中学農業』の特質の解明といかに切り結ぶのかという論点の検討を併せて行わなければならない。 本研究においては、研究初年度の令和4年度に1947年版職業科農業編及び『中学農業』それ自体の内容分析を行い、このうち前者は、当時の中学生に対し「具体的な仕事を通じて」学ぶことの意義と重要性を強調していることを解明した。また、1947年版職業科農業編並びに工業科・商業科・水産科・家庭科・職業指導の各編を改訂する作業は、1948年9月23日頃、職業科の中で「啓発的諸活動」を強調する方向性で開始され始めていた。そして、この改訂作業は、最終的には1951年12月25日、1951年版職業・家庭科編の発行として結実されることになり、この1951年版職業・家庭科編等により、①「実生活に役立つ仕事」を中心概念として、単一の「職業・家庭」という教科が創設され、②この「実生活に役立つ仕事」は「啓発的経験の意義をもつ」ことが強調されるに至る。すなわち、1947年版職業科農業編が重視・強調していた「具体的な仕事を通じて」学ぶという職業科農業観は、「啓発的諸活動」「啓発的経験」と関連づけられながら、後の1951年版職業・家庭科編による「実生活に役立つ仕事」へと直接的に継承されていくことになると思われる。 令和6年度以降、こうした「具体的な仕事を通じて」学ぶという職業科農業観と「実生活に役立つ仕事」の「啓発的経験」という職業・家庭科観との接続関係の解明にも取り組む。
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