研究課題/領域番号 |
22K02547
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
日野 陽子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (90269928)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 視覚障がい者 / 鑑賞 / 触図 / 言葉による鑑賞 / 視覚障害者 / 美術鑑賞 / 対話 / サーモフォーム / 現代絵画 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、高度な材料技法を導入した「触図」を作成することで、従来日本の盲学校では「触ってつくる」表現活動が中心であった美術教育に、新たな視点として「触って見る」鑑賞活動を展開し普及することを目的とする。まず、触れることで絵画作品の緻密な読み取りを可能とするサーモフォームを用いた触図の研究、開発を行う。次に、これまで触図の範疇に無かった色彩情報を導入し、ロービジョンの人が少しでも豊かに美術鑑賞を楽しめる契機をつくりたい。これらの触図には、作品に関する視覚的、学術的な基本情報と共に、見えている人による自由な鑑賞文を点訳したシートを添え、セットツールとして盲学校で使用されることを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、近年、現代美術の紹介、提案が急増している中学校、高等学校美術科の教科書を鑑み、視覚支援学校の児童・生徒や一般の視覚障がい者に向けても現代美術の鑑賞の機会を開くためのツールを開発しようとするものである。このツールは、「触る」ことと「語り合う」ことの二つの角度から追求するものである。申請当初は、申請者が長年、所蔵品収集調査委員を務め、現代美術のコレクションで著名な高松市美術館の所蔵作品の触図を3年かけて作成する予定であった。このため、数点の触図作成の許可をいただき、サーモフォームによる作成に着手している。 一方で、研究開始後まもなく、インクルーシブ・プロジェクトを熱心に遂行している長野県立美術館より「みるを考えるーみえない人とみえる人が一緒にみるために」という鑑賞会の実施協力を依頼され、2022年の実施に続き、2023年も「第2回みるを考える」を開催した。2022年11月の第1回では視覚障がい者と見える参加者が50人近く集まり、初めての鑑賞会が熱気に溢れて開催された。申請者は、視覚障がい者の美術鑑賞について、我が国の戦後以来の歴史と方法を講演した後、参加者と共にコレクション展を鑑賞した。翌2023年11月の第2回は、30人弱の参加者で、当館の教育普及学芸員が企画した「まる・さんかく・しかく」という展覧会で実施した。ここでは、みえる参加者にも作品を見ながら考える機会を提供し、課題解決の意味において視覚障がい者と等しい立ち位置になることが試みられた。また、弱視の参加者と協力して見えないところをみていく試みにも挑戦した。さらに、同県東御市の丸山晩霞記念館の協力を得て、地元作家の故郷を描いた作品群の鑑賞を行い、鑑賞者の居住環境と繋がりの豊かな作品内容が、視覚障がい者の鑑賞にどのような助力となるかも考えるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究は、申請当初、主に触図の翻案と材料開発の研究を予定していたが、開始直後から主に長野県の美術館や視覚障がい者団体、香川県の視覚支援学校等から、「みえない・みえにくい人とみえる人との美術鑑賞」の場をつくることへの協力依頼が続き、2年続けて現地で講演と鑑賞ワークショップを行うこととなった。これは今後も継続する予定である。このため、視覚障がいがある人々との鑑賞では何が求められ、何が可能であるのかを改めて実施検討することとなり、触図の研究開発への具体的な反映が遅れ気味となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ここまでの2年間で、視覚障がい者と共に行う美術鑑賞の場を国内数カ所でつくり実施する機会を得てきたことから、言葉による鑑賞のあり方をさらに吟味していきたいと考える。特に昨年、長野県の実施では、弱視者の見え方に注目し、見える参加者が支援しリードするだけではない鑑賞のあり方の一つが実現した。これは、個々の視覚障がい者の見え方を具体的に知ることと、現代美術の柔軟な表現意識が重なった瞬間と思われる。 さらに、こうした鑑賞会に、今後は触れる作品も導入すること、また、既に屋外彫刻を始めとした多くの彫刻作品を触れるように解放した美術館への視察等を重ね、視覚障がい者にとって触って鑑賞するとはどのようなことか、どのように言葉と融合することでより豊かな鑑賞を展開することができるのか、を研究し、触図の作成に反映したいと考えている。
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