研究課題/領域番号 |
22K02641
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
広石 英記 東京電機大学, 工学部, 教授 (80246652)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | PBL / プロジェクト学習 / 地域探究 / 実体験 / 地域連携 / 現実と関わる / 社会実装 / 失敗学 / レジリエンス |
研究開始時の研究の概要 |
PBLでは、探究自体は失敗しても、大きく成長する生徒の姿がしばしば、確認される。人間性を含めた生徒の資質・能力を育成するには、(課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現)といった調べ学習を超えて「現実に挑戦し、真性な評価を受け、失敗を活かすPBL型探究学習」が必要がある。 本研究において、国内外のPBL先進校やチャータースクール支援組織を訪問調査し、米国のプロジェクト学習における「真正な評価」の実態調査及び資料収集を進め、日本の探究学習の新たなモデル(厳しい評価システムを実装し、現実との葛藤や失敗の経験の中で、知とスキルと人間性を鍛える学びのモデル)を構想したい。
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研究実績の概要 |
世界の教育改革の方向性を示しているEducation2030では、新しく「変革を起こす能力」が提唱され、その要素として「新しい価値を創造する力」「緊張を和らげ、ジレンマを解消する力」「責任ある行動を取る力」が提唱されている。 このような資質・能力の獲得には、従来の体系的な知識・技能の習得に加えて、自ら現実的課題を設定し、その探究活動に主体的に取り組み、多様な他者からの厳しい評価を受け入れ、挫折や失敗を重ねても前向きに自律調整学習を進める、そのような「失敗を活かすPBL型探究学習」が必要であると考えている。 しかしながらわが国では、情報活用能力の育成を主眼とする「日本独自の探究という学びの型」が普及している。日本の探究を「情報活用型探究」(ある種の調べ学習)と呼ぶとすると、文献調査や文献研究、あるいはネット検索レベルでの探究に終始し、現実に関与する実践や経験のない「机上の知的な探究」が優勢であり、「現実に関わる経験」を欠いたPBLが頻発しているのではないかという危惧を持つ。 2023年度は、地域魅力化プロジェクトで離島の過疎化を止めた奇跡として有名な隠岐島前高校へ訪問調査をして、少子高齢化、過疎化といった過酷な現実と直接的に向き合い、果敢にその課題に挑戦しているPBLを丹念に調査するとともに、現地のコーディネータと話し合いを重ね、地域連携PBLが抱える根本的な課題の考察を深めてきた。 また、英国とスウェーデンのPBL実施校を訪問調査し、海外の本格的なPBLにおいて、生徒と現実的な関わり方をどのようにデザイン(構想)しているかの調査も同時に進めた。その成果は、紀要論文や学会発表、招待講演などの機会に社会に発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際に生徒が「現実に関与する(参画・実装する)」PBL型の探究では、プロトタイプを社会実装したり、課題解決のために実際に学習者が社会参画するプロジェクト活動・経験が必須である。隠岐島前高校のプロジェクトにおいても、生徒が実際に課題を抱えた地域社会に出向いて、体を動かし、汗をかいて課題解決に当事者として活動・経験することによって、人間性の伸長や行動変容が見られたようである。 ただし、「現実に関与する」プロジェクトで、教師や学習者が常に忘れてならないのは、課題を抱える人々は、際限のない、終わりの見えない現実的課題と向き合っているという厳しい事実である。一方、そこにプロジェクトで関わる学習者は、「学期、学年、卒業」といった学校の設定した期限の中で、有期的・一時的に教育活動として参画している。 この参加者の活動の「限界の自覚」は重要である。この関与(参加)の限界を肝に銘じた上で現実に参加しなければ、それは「現実社会を単に利用した」ある種、傲慢な自己中心的活動であり、社会改良につながらないばかりか、関係者の不信感を招いてしまう。その意味で、「現実に関わる」ことを要件としてPBL型探究特有の難しさも明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
「現実と関わるPBL」「失敗経験を活かすPBL」というPBL型探究を構想する際に、「現実」や「失敗」の範囲や意味の確定が大きな課題であることも少しづつ明らかになってきた。 例えば英米圏では、過疎化に対する大きな政策的転換として地域課題を集約的に解決するためのコンパクトシティーの構想や、地域の公的施設(小・中・高校、市町村庁舎、高齢者福祉施設、病院など)の集約施設の推進など政治的主導での「地域の形を変える」過疎化対策が見られる。一方、わが国では、個々の自治体単位での取り組みが主であり、どうしてもコストは度外視して「地域社会をそのままの形でできる限り存続させる」が重視されてしまい、抜本的な施策を回避した場当たり的な施策が多いという事実がある。 この現実的課題に対する政治的合意形成のベクトルの際は、地域探究や地域連携PBLを考える場合に、今後、大きなテーマになると考える。また、この「国や地域の形」という政治的な問いを、学校教育の中の探究のテーマとして「取り扱い得るか」といった課題も今後は、避けずに追求したい。
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