研究課題/領域番号 |
22K02952
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中尾 有利子 日本大学, 文理学部, 准教授 (00373001)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 河川システム / 教材 / 生物多様性 / メイオ生物 / 貝形虫類 / 地学 / 生物学 / 科学教育教材 / メイオファウナ / 環境 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,陸域から海域への環境の変化とそこに生息する微小生物相(メイオファウナ)に着目し,地学的視点,生物学的視点から,科学教育教材を作成する.具体的には,河川環境にスポットをあて,河川システム(地学的視点:河川の成り立ち,地形,堆積物や水質の変化,周囲の地質,人間活動の影響)と,そこに生息するメイオファイウナ(生物学的視点:環境と生物との関わり,生物同士の関わり,種多様性,生態的多様性)を総合的に捉えることで,生物多様性とその保全を理解するための科学教育教材を作成する.また,実際に実習が行えるように実習地のデータベースを作成し提供する.
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研究実績の概要 |
本研究は,科学教育教材,特に生物多様性と環境保全の重要性の理解を目的とした教材において,その小ささ故に用いられることが少なかったメイオ生物相に着目し,地学と生物学を横断する教育教材を作成することを目的としている.生物多様性に関連する教材は,各々の研究者の得意とするフィールドや対象とする分類群の生態・性質に合わせ,本来は一つのシステムとして連続する環境を,高地,山里,山渓,湿地,湖沼,河口域,沿岸域,干潟,海洋などというように細分化して扱われているのが現状である.しかし,生物多様性・環境保全の重要性を理解するためには,自然界を絡み合う一連の流れやシステムとして三次元的に捉えることができる学習の機会(教材)が不可欠である.そこで,河川システムに着目し,システムの中での環境変化(地形・水質・底質の変化)とそこに生息するメイオ生物との対応を明らかにし,学生が,自らの眼でみて体験・理解するための教材開発を行う. 令和5年度は,令和4年度に続き,河川システムの始まりの一つである湧水域のメイオ生物相と水質を調査し,室内実習用の教材を開発するためのデータをそろえるとともに,野外実習地としての可能性を吟味した.特に,本年度は,“詳細な観察には顕微鏡を必要とするが,存在の確認は現地でも可能な大きさ”で,“動きが早いため比較的堆積物中から容易に探し出すことができる”淡水に生息する貝形虫類に着目して調査を行い,湧水地の貝形虫相を明らかにした.また,河川システムの上流域にある渓谷,河口域にある干潟において貝形虫相調査を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
淡水域では,多摩川水系の鳩ノ巣渓谷,荒川水系の落合川南沢湧水群で調査を行った.鳩ノ巣渓谷では,岩場の水たまりといった閉じた空間のメイオ生物を調査した.春,夏,秋に貝形虫類の生息を確認した.岩場(河岸段丘の上)は,遊歩道から崖を下らなくても良く,すべって水に流される危険がないといったことから,河川本流と比べて実習中の安全が確保しやすい利点がある.ここでは,生息場所の情報については,高所撮影用ロッドを用いて撮影した画像により地図を作成し,さらに,LiDERを使用して簡易的な3Dモデルを作成し,教材用の素材がそろいつつある. 落合川南沢湧水群は,令和4年度の調査では貝形虫類を確認することができなかったが,令和5年度も継続して調査を行い,貝形虫類の生息を確認できた.実習を行う場合,目的の生物相が確認できないといったアクシデントに出くわすことが多々ある.そのため,いつ,どこで,どのように観察すれば良いかがわかるように,生息環境を詳細に示すことが教材作成において重要である.南沢湧水群では,複数地点から試料を採集し,おおよその貝形虫類の分布を把握できた.また,季節によらず安定して貝形虫類が生息していることを確認した.調査図の作成のため,高所撮影用の三脚を使用して現地の様子を撮影し,地図を試作している.今回の水質分析の結果(水温,溶存酸素,電気伝導度,イオンクロマトグラフィーによる無機溶存イオン)からは,貝形虫類の分布を制限する要因を明らかにできなかった.今後調査項目にクロロフィル,有機物量,土中の水分量などを追加する予定である. 汽水から海域では,多摩川河口干潟,小櫃川河口干潟で調査を行った.多摩川河口は遊歩道の整備が進み,実習地としては使用しにくい状況になっている.しかし,ターゲットとしていた場所より少し上流側は,川岸までおりやすくなり,新しい調査地点を追加した.
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今後の研究の推進方策 |
多摩川水系,荒川水系の水質と生物相の調査を継続する.荒川水系下流域では実習に適した地点がなかったため,上・中流域の調査にしぼることにし,河口域の調査は多摩川河口で行うこととする.多摩川河口では,これまでに調査した河口干潟より上流に遡り,生物相の変化を把握する予定である.特に,貝形虫類は塩分と堆積物の粒径の違いによって,そこに生息する分類群が異なるため,環境の変化と生物相の変化をリンクさせて捉えることが可能である.また,小櫃川河口干潟を加え,河口域のデータの充足を図る.多摩川水系では,湧水地のデータがそろっていない.令和5年度に,下流域にあるせせらぎ公園で調査を行ったが,その時には貝形虫類の生息を確認できなかった.しかし,南沢湧水群の例のように,試料採取の方法と地点を変更し,顕微鏡を持参して現地で丹念に確認すれば,その生息を確認できる可能性が大きい.公共交通機関へのアクセスが良く,公共の手洗いがあり,実習中の安全の確保がしやすいことから実習地として利便性が高い場所であるため,調査を継続してメイオ生物相を明らかにする予定である.さらに,多摩川周辺には,親水公園とされている湧水域が多くある.それらの調査を行うことで中流域のデータを充足する.また,これまでに集めた画像データ(3Dモデルと動画を含む)を使い,野外実習・室内実習に使用できる画像集(教材)を作成する.令和5年度に続き,実際に野外でどんなメイオ生物が生息しているのかを体感できるよう,携帯可能な低倍率の顕微鏡による観察でも分類群の特定が可能な図版の試作,メイオ生物と河川地形の理解を促す教材作成を行う.
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