研究課題/領域番号 |
22K02958
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
岡田 努 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (50431648)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 震災 / 伝承 / 政策 / 震災伝承 / 原子力災害 / 伝承施設 |
研究開始時の研究の概要 |
東日本大震災から10年が過ぎ、震災を後世に伝える「伝承施設」や「伝承事業」などが東北を中心に急増した。特に未曾有の原子力災害に遭遇した福島県では伝承内容や方法、展示資料の収集と展示方法、震災遺構の保存と活用をめぐって、地元住民特に「被災者」との乖離が指摘されるなど解決困難な課題を抱えている。本研究では現在、緒についた多様な震災伝承施設等の調査活動を発展させ、科学コミュニケーションや科学教育の分析視角により震災伝承の課題を抽出し、新しい震災伝承の方法と教育資源としての活用方法を提案する。
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研究実績の概要 |
福島県では震災後13年が経過し設立母体の異なる原子力災害に関する大小様々な伝承施設が登場してきた。昨年度に引き続き福島県内の伝承施設の特徴や活動について資料等の収集と分析を継続している。特に被災3県の東日本大震災時と直後の状況を多様な映像・音声資料で編集したNHK「証言記録東日本大震災」全36巻を入手し,震災の伝承についての情報を整理している。 併せて震災後から実施されている国の復興施策についてもその関連や特徴について資料等の収集・分析作業を行った。被災三県(岩手・宮城・福島)のうち,岩手県と宮城県では,津波被害による伝承施設・公園が復興祈念公園構想・計画として進められてきたが,原子力災害に見舞われた福島県では,その構想と計画は進行が遅れた一方で原子力災害に関する放射線の性質や防護にまつわる教育・普及の為の施設である福島県環境創造センター交流棟「コミュタン福島」と国家プロジェクトである福島イノベーション・コースト構想の事業のひとつである「東日本大震災・原子力災害伝承館」の設置も平行して行われてきた。このように被災3県といっても,特に福島県の原子力災害後の諸問題もあって復興事業が一斉に進行できなかったこと,復興施策が縦割りで,福島の復興と国の科学技術政策との関連が複雑に関連し合う複雑な側面をもっていたこともあり関連する膨大な資料の収集と整理に時間を費やさざるを得なかった。今年度はこれらの分析結果を,ひとまず「震災伝承に関する調査研究②」としてまとめた。 関連して,昨年度実施したアメリカのスミソニアン協会の原爆展(1996)に関する研究から,スミソニアン初代会長のJ. Henryの初期の業績や科学研究についても調査し,学会発表を行った。さらに社会への発信としては福島県内のサイエンスコミュニケーションプロジェクト関係者が集う会議等で調査結果等について発信してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度も,申請時には想定していなかった大学での兼務業務の急増により,計画した調査・研究時間の確保に苦労した。①教職課程を有する全国の大学に設置が義務づけられた教職課程センターの副センター長,②副学長補佐(教育・学生担当・附属学校園担当)として,全国の大学附属学校園の調査および出張等,県教委・市教委関連業務などを担当した。 昨年度の反省を踏まえ,文献・画像等の資料収集と分析に集中し,さらには上記業務と並行して各地の震災関連教育の実践についても情報収集を行うことが可能となった。 これにより,震災3県に関わる国と各省庁の復興施策の課題(同時進行が不可能,縦割りによる調整の難しさ,国家プロジェクトと福島復興の関連についての矛盾など)に関する膨大な資料を収集し,それらをもとに時系列で活動を整理し,課題を抽出して報告書にまとめることができた。 膨大な活字資料と映像資料の整理と分析は継続中だが,計画時には想定していなかった研究内容に進展が見られたことは大きな成果と言える。したがって,昨年度の進捗状況は「概ね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度着手し始めた,いわゆる被災3県の復興施策の整理,縦割りとなっている関連省庁の復興政策の現状と課題の整理,福島復興のための国家的プロジェクトの展開の問題点などについて昨年度の成果を活かし,分析を継続する。 原子力災害の原因や事故の概要そして復興施策に関して各分野で批判的な見解も少なくない。また地震・津波等の自然災害による直接的被害を教訓とした震災の教訓と,原子力災害のような技術的災害における口述伝承,それ以外の多様なメディアを活用した伝承においても「教訓」の伝達方法・内容は大きく異なる。そこで原子力災害に関する伝承について,学術的にその本質に迫るために今年度は,まず次の①~③について調査研究を展開する。 ①「伝承」の哲学的,民俗学的な意味を整理し,現代的な課題比較検討する。②公的機関が設置した原子力災害伝承施設はメディア等でも大きく取りあげられ学校団体の見学コースとなり震災の伝承ツールとして存在感を示しつつあるが,民間や各種団体等の伝承施設(南相馬市といわき市で昨年度から調査開始)において上記施設では展示されていない視点や方法論などを整理する。③特に福島復興施策に注目し,その目的と内容を整理しつつ,それに批判的な見解を検索・収集し整理する。 これらの資料の分析と,人類がかつて経験した災害や戦争等の伝承方法との歴史学的な分析,比較検討を行いながら,本研究テーマでもある「原子力災害の伝承」について提言したい。また代表者が過去に取り組んで来た学校教育における放射線教育の課題などとも併せて,学校教育や社会教育における防災教育等のあり方についても検討を行う。そして今年度は本学の附属学校関係者や公立学校等および科学館や科学博物館関係者にも研究成果を公表し,活用してもらい,原子力災害の「伝承」についての成果の活用を行いたい。
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