研究課題/領域番号 |
22K02968
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
藤野 秀樹 兵庫医科大学, 薬学部, 教授 (90510975)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 放射性塵埃 / ゲーミフィケーション / ラドン222 / 放射線教材 / 放射線教育 / 天然核種 / 市販試薬 |
研究開始時の研究の概要 |
福島第一原子力発電所事故から11年経過しているが放射線や放射能に対する関心は高い。放射線に関する不確かな情報は不安を助長させる為、正しい理解へ導ける教育が必要であり、知識と情報を有機的に結び付ける放射線源の計測を交えた体験型学習は効果的である。本研究では、放射線管理が不要な天然核種を含有する種々の市販試薬や空気中の放射性物質を放射線源とし、それらを放射線教育用測定器にて計測するプログラムを開発し、チーム基盤学習形式を取り入れた地域住民を対象とした新規放射線教育を展開する。本研究により、放射線に関する正しい知識と能動的学修が促されると期待される。
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研究実績の概要 |
2022年度の天然核種を用い放射線教育に関する進捗状況として、ラドン222(222Rn)及びその子孫核種を用いた新規放射線教材及びカードゲーム形式によるゲーミフィケーション教材の開発に向けた研究について記す。 前者の状況として空気清浄機により捕集された放射性塵埃は1次反応速度に従うことに着目し、微分方程式を取り入れた線量率の時間推移及び物理学的半減期の予測を取り入れた放射線教育を確立した。またHEPAフィルタに不織布マスクを取り付け、これをペルチェ式電離箱の放射線源として用いることで数多くのβ線飛跡の観察が可能であることを見出し、電離箱の実習で制限要因となる放射線源の確保が改善されると考えられた。更にHEPAフィルタから放出される放射線は遮蔽材により1次反応速度に従う減衰特性を示し、半価層の計算も可能であった。この他、教育用放射線計測器に波高弁別装置を組み合わせ、HEPAフィルタに捕集された放射性塵埃のγ線スペクトルを計測した。γ線スペクトルとして214Bi及び214Pb等の核種推定が可能であることも確認した。 後者の状況として放射線・放射能の物理的特性や産業利用をカテゴリー分類した計25種類のカードを2組作成し、2-4名でカルタやポーカーゲームを模したルールにて実施可能な複数のカードゲームを作成した。カードはカテゴリー毎で配色を変え、イラストや説明を施した。また教材の説明動画も作成して幅広い年代の参加者に取り組んで貰えるように工夫した。 これらの放射線教材を日本科学技術振興財団が主催する2022年度放射線教材コンテストへ応募した。いずれの放射線教材も幅広く放射線の特性が理解される点が評価され、前者の放射性塵埃の教材は優秀賞と日本理化学協会特別賞を、後者のゲーミフィケーション教材は優秀賞を受賞した。この他、複数の学術集会でも研究演題を口頭及びポスター発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の進捗状況は前述の様に放射性塵埃等の天然核種及びカードゲームを用いた放射線教材の開発を主に行った。それらを学術集会や放射線教育の精通者が集うコンテストへ出展して受賞した。これらの研究成果は、到達目標の一部である”誰もが教育を行え、誰もが教育を受ける”を達成しつつあると考えられる。 研究の進捗状況の補足事項として、222Rnの子孫核種である214Bi及び214Pbは、捕集時間の経過と共に0次反応速度に従って線量率が増加し、消失過程は1次反応速度に従う。具体的には、120分間の捕集でほぼ定常状態に到達し、捕集後は約35分の半減期にて消失する。また放射性塵埃は遮蔽材や距離による減衰を示し、外部被ばく防止の三原則(時間、距離、遮蔽)を取り入れた放射線実習が確立された。なお、HEPAフィルタに捕集された放射性塵埃はバックグラウンドの20倍高い以上の線量率を示し、無償で貸し出されている放射線教育用のCsI検出器(A2700、クリアパルス)にて放射線計測が容易に実施できる利点を有する。この他、222Rnの子孫核種はγ転移する為、前述のCsI計測器に波高弁別解析装置を組み合わせることでスペクトル解析も可能であった。 次にゲーミフィケーション教材の進捗状況を補足する。放射線の物理的特性や放射壊変、身体的影響や医療領域での利用方法は薬学教育・モデルコアカリキュラムの到達目標として設定されている。そこで放射線・放射能の物理的特性等を示すカードを作成し、複数名にて実施可能なカードゲーム教材を作成した。また作成したゲーム教材をバートルテスト分類と照合して個人とチーム、探求と調和の各カテゴリーに応じたゲーミフィケーション教材を開発した。更に説明用動画を作成して親しみやすく取り組めるように工夫した。 これらの現状を踏まえると研究の進捗状況は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究予定として、先ず昨年度に得られた研究成果を査読付き学術論文へ掲載する為に執筆活動を精力的に行う予定である。次に研究面での直近の課題として、今年度末に放射性塵埃の遮蔽に伴う減衰曲線が2相性を示し、β線及びγ線に由来する複数の消失相が見出されている。これらの点について薬物動態パラメータ解析ソフト(Win-Nonlin)を用いて連立微分方程式やコンパートメントモデルにて速度定数等を解析予定である。この他に新規研究テーマとして、低いβ線エネルギーを有する87Rbを用いたラット骨密度解析法の確立及び強いβ線エネルギーを有する40Kに着目した点滴輸液に含まれる新規カリウム濃度定量法に着手する予定である。いずれの研究テーマも試薬に含まれる天然核種を使用しており、放射線管理区域外にて実施可能である。またゲーミフィケーション教材についても新規カードゲーム教材を開発する。特に幅広い年代の参加者が同時に取り組めるカルタ形式のカード教材を視野にコミュニケーションが促され且つ双方向型学習が可能な教材開発に努めたい。更に次年度も放射線教材コンテストへエントリーすることも目標としたい。 この他、コロナ禍で活動が制限されていた学内外での公開講座やオープンキャンパス等へ積極的に参加して本教材を地域住民へ披露したいと考えている。特に前述の薬学教育・モデルコアカリキュラムでは薬学生は放射線の講義を必修科目として履修しており、放射線・放射能に関する理解度は高いと考えている。本研究でも薬学生の果たす役割は非常に大きく、薬学生によるファシリテーターとしての放射線教育は、受講生の能動的学修効果の向上に貢献できると期待している。これらの研究計画を今後の研究推進の方策としたい。
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