研究課題/領域番号 |
22K03020
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
橋本 剛 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60329878)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 社会心理学 / 援助要請 / 援助行動 / ソーシャルサポート / 文化 / 社会生態学的心理学 / 社会経済的地位 / 人口統計学的変数 / 援助要請スタイル / 心理的適応 |
研究開始時の研究の概要 |
援助要請スタイル(困っているときにどのように他者に援助を求めるかの個人差)に関する研究では、自立型(自力解決困難な場合に援助を求める)が好ましく、依存型(安易に援助を求める)や回避型(援助を求めない)は好ましくないと考えられてきた。しかし実際には、自立型は心の健康とあまり関連せず、むしろ依存型が好ましい可能性も指摘されている。そこで本研究では、援助要請スタイルを社会環境的要因によって変動しうる対人資源利用可能性の指標と想定して、社会環境的要因、援助要請スタイル、心の健康の因果関係を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
これまでの援助要請スタイル研究では、心理的適応の維持・促進のためには自立的スタイルが好ましく、依存的スタイルや回避的スタイルは不適応的であると考えられてきた。しかし最近、自立的スタイルが心理的適応を促進するとは限らないこと、依存的スタイルが心理的適応と正の関連を示しうることも指摘されている。このような通説と実状のギャップの理由としては、理論的に想定されている目標が現実場面と不整合的である可能性に加えて、援助要請における社会環境的要因の重要性が十分に考慮されてこなかったことの影響可能性も否めない。そこで本研究では、これまで個人特性として見なされることが多かった援助要請スタイルを、むしろ社会環境的要因によって変動しうる対人資源利用可能性の指標と見なす観点に立脚して、どのような社会環境的要因が援助要請スタイルの規定因となり得るのか、そして社会環境的要因、援助要請スタイル、心理的適応の多方向的な因果関係の可能性を検証することを目的とする。 なかでも本研究の中心的論点となるのが、「なぜ依存的スタイルが心理的適応を促進しうるのか」という問いである。依存的スタイルは素朴には不適応的とも解釈されうるが、依存可能な対人資源の反映指標と考えると、むしろ依存的スタイルを許容する社会環境的要因が心理的適応を促進するのかも知れない。この論点を中心とした検討のために、研究初年度は、先行研究レビューおよび学会大会や研究会などでの情報収集や意見交換などを通じて、援助要請スタイルの規定因となり得る社会環境的要因の探索的検討に従事した。それとともに、そこでリストアップされた諸要因が、実際に援助要請スタイルと関連するのかを検証するために、パイロット研究として全国の一般成人を対象とした横断型オンライン調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の活動内容としては、研究初年度ということで先行研究レビューを中心とした知見の整理、および横断調査の実施のみに留まったので、本研究の直接的成果として報告できるものはまだないのが実状である。しかし、本研究の理論的展開に関連する知見に関して、いくつかの学会発表を実施した。具体的には、日本心理学会の年次大会において、自立的援助要請が必ずしも適応的とは限らず、規範意識との適合性にズレが生じた場合は、かえって不適応的となりうることについて学会発表した。また、日本社会心理学会と日本パーソナリティ心理学会において、援助要請スタイルと公正感受性および道徳基盤の関連についての研究発表を行い、それらの関連がともに社会経済的地位によって調整されうることを指摘した。これらの知見は、援助要請スタイルが単に個人属性に留まらず、個人を取り巻く社会文化的要因にも少なからず影響されうることを実証的に示すものであり、実質的に本研究課題にリンクする重要な知見として、間接的ながらも本研究の研究成果の一端としても見なされうるであろう。 さらに、本年度後半には、日本全国から満遍なく一定数の回答者(各都道府県から100名ずつを目安とした、約4500名のサンプル)を得ることで、社会環境的要因および社会生態学的要因と援助要請スタイルの関連を検討するためのオンライン調査を実施した。その結果については分析中であるが、そこで見いだされたいくつかの興味深い知見は、令和5年度以降に学会発表や論文として発表していく予定である。これらの研究の進展は概ね当初の研究計画の予定範囲からさほど逸脱するものではなく、全般的に研究は概ね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和4年度に実施したオンライン調査の結果に関する学会発表や論文執筆、さらには縦断調査の開始を主たる研究計画として予定している。 学会発表等に関して、令和4年度まではコロナ禍により、国内外学会の年次大会などに制約が生じることも多かったが、令和5年度は状況もかなり好転しそうなので、それらの機会を積極的に生かして議論の機会を増やし、その成果を研究内容に反映させることが期待されよう。 縦断調査は、社会環境的要因によって援助要請スタイルが規定されるという因果関係の明確化を目的として実施するものである。翌年の就職が想定される大学4年生をはじめ、転居等による社会環境的変化が想定される人々を調査パネルとして、令和5年度から令和6年度までの2年間にわたる縦断調査を想定している。全国を調査対象とすることで、都市化率などの社会生態学的要因も含めての考慮が可能となる。さらに大学4年生の多くは翌年卒業して就職するというライフイベントによって、居住地、生活パターン、ライフスタイル、対人ネットワークなど種々の社会環境的要因の変化が生じることが予想される。それらの人々を対象とすることで、卒業前と卒業後で生じる社会環境的要因の変動による援助要請スタイルの変容を検証することが可能となると考えられる。
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