研究課題/領域番号 |
22K03217
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
|
研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
坂本 敏郎 京都橘大学, 総合心理学部, 教授 (40321765)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 前頭前皮質 / マウス / 他個体認知 / 豊富な環境 / 社会的動機づけ / 社会的認知 / オキシトシン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、集団で生活する哺乳動物の社会性の発現と習得、その障害からの回復過程を明らかにするために、マウスを対象に食餌報酬を用いた新規の他個体認知課題を確立する。そして、これらの課題の習得に関与する前頭前皮質、扁桃体、線条体のオキシトシン受容体の役割を検討する。さらに、前頭前皮質の脳梗塞モデルマウスに新規課題を実施し、障害を受けた社会性の回復過程を検討する。本研究は、高次の社会的認知機能の脳内機構の解明を目指し、将来的には社会性の障害・疾患からの回復過程の解明を見据えている。
|
研究実績の概要 |
これまでに前頭前皮質が長期の他個体馴化に関与すること、前辺縁皮質が短期の他個体弁別に関与することを学会や学術雑誌において報告した。これらの研究を踏まえて、当年度では、前頭前皮質のオキシトシン受容体が他個体弁別に果たす役割を検討した。マウスの前頭前皮質にオキシトシン受容体の阻害剤(OTA:高濃度群と低濃度群を設定)を投与し、1日3試行の馴化テストを3日間連続して実施した。その結果、統制群では3日間とも馴化を示し、刺激マウスを同じ個体であると認知していた。一方、OTA高濃度群では2日目と3日目で、OTA低濃度群では3日目で馴化が認められず、刺激マウスに対する認知が障害された。この結果より、前頭前皮質へのOTAの投与が濃度依存的に他個体認知を障害したことが示された。この成果は学会にて発表し、英文学術雑誌に掲載された。 また、前頭前皮質にエンドセリン1(ET-1)を投与し、脳梗塞モデルマウスを作成し、社会性と情動性の障害を検討する研究を実施した。これまで前頭前皮質の脳梗塞マウスは不安の亢進など情動性の障害を示すことが報告されてきたが、その社会性の障害については検討されていなかった。そこで本研究では、ET-1を左側の前頭前皮質に投与したマウスと統制マウスに、社会的探索テスト、社会的選好テスト、オープンフィールドテスト、明暗箱往来テスト、強制水泳テストを実施した。社会的探索テストや社会的選好テストおいて、ET-1マウスは統制マウスと同様の結果を示し、脳梗塞の効果は認められなかった。一方で、オープンフィールテストにおいてET-1マウスの中央滞在時間は統制マウスよりも短く、強制水泳テストにおいてET-1マウスの無動時間は統制マウスより短かった。ET-1投与による前頭前皮質の脳梗塞の効果は情動性のテストで認められた。これらの研究成果は2024年度の学会にて発表する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの前頭前皮質が他個体認知に果たす役割を明らかにする一連の研究を継続して実施している。前頭前皮質のオキシトシン受容体が短期の他個体認知に関与することを明らかにした研究は、学会で発表され、英文学術雑誌に掲載された。この研究では、当研究室で考案した他個体認知の長期記憶と短期記憶を測定できる新規の行動テストが用いられ、その有効性が確認された。 前頭前皮質の脳梗塞モデルマウスの社会性・情動性を測定する研究では、結果の解析が終了し、脳梗塞の効果は社会性ではなく情動性に認められた。社会性の測定が刺激個体への探索行動だけであったために社会性に影響が出なかった可能性が考えられた。したがって、今後は脳梗塞モデルマウスの他個体の認知や記憶といった高次の社会的認知機能を測定する必要ある。社会性の回復に焦点を当てるために、母親マウスの妊娠期にバルプロ酸を投与する等の方法を用いて、自閉症のモデルマウスを作成し、その行動を解析することも視野に入れている。脳梗塞、胎児期での薬物投与、隔離飼育によって社会性に障害が認められたモデルマウスにおいて、その社会性の回復過程を検討するためには、豊かな飼育環境を確立することが必要となる。現在、Running wheel(輪回し測定機)の自動解析システムを導入しており、2024年度より実験を開始する予定である。 また、同じ飼育ケージ内にいるテストマウスの社会的順位に着目し、飼育環境での社会的順位が他個体認知テストに及ぼす影響について検討し、その解析を進めている。成熟した雄マウス同士を6週齢で初めて飼育ケージに入れて、2週間飼育した後、チューブテストによって社会的順位を測定し、社会的認知テストを実施した。テスト終了後に再びチューブテストを行い社会的順位の推移を検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度以降も、これまでの研究を継続し、マウスの他個体認知や他個体記憶などの高次の社会的認知機能に果たす脳部位および各種受容体の役割を検討する。報酬を用いた他個体認知課題の確立は、マウスに他個体と報酬との関係を連合させることが難しく、難航している。その代替として、従来の馴化・脱馴化法の手続きにおいて、試行間間隔を長くすることで数日間にわたる長期の他個体弁別能力を検討する新規の行動テストを考案している。この行動テストによって、他個体への馴化と脱馴化の過程を分離して測定することや、受容体阻害剤の投与のタイミングによって、他個体に対する長期記憶の獲得・固定・想起の各過程での受容体の役割を検討することができる。そして、長期の社会的認知に関わる脳部位(前頭前皮皮質・海馬・扁桃体・線条体など)の役割およびそれらの脳部位での受容体(オキシトシン受容体、NMDA受容体など)の役割について検討する。 脳梗塞や自閉症のモデルマウスやネグレクトモデルマウス(社会的に隔離されて飼育されたマウス)において、社会性の回復を検討する研究も継続して進めていく。妊娠期にある母親マウスにバルプロ酸を投与し自閉症モデルマウスを作成し、その社会的認知機能(他個体への動機づけ、他個体への記憶)を測定し、その障害を検討する予定である。そして、Running wheel(自発運動自動解析)システムによる運動促進環境、大規模空間での多数飼育による社会的に豊かな環境を確立し、これらのモデルマウスの社会性の障害とその回復を検討する予定である。
|