研究課題/領域番号 |
22K03262
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分11010:代数学関連
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
森田 英章 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (90435412)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | グラフゼータ函数 / 有限有向グラフ / 逆辺 / 正則被覆 / 伊原表示の分解公式 / ゼータ函数 / 離散構造 / 組合せ論的ゼータ函数 / 行列式表示 / アルチン L-函数 / 跡公式 / 有限群の作用 / 擬有限力学系 |
研究開始時の研究の概要 |
有限数学で扱われる離散的な数理構造に対して定義される「ゼータ函数」が研究の対象であり、特に「伊原表示」とよばれる行列式表示が主題である。伊原表示は、豊かな数学的背景をもつことが期待され、その本質の究明と応用の追求が目的である。特に、「離散跡公式」や「有限調和解析」との関連の中でその本質を理解し、その応用面の追求を行う。 上記のようなゼータ関数を「組合せ論的ゼータ函数」という。近年、その一種である「グラフゼータ」が、量子計算との繋がりが指摘される「量子ウォーク」とも、密接な関連を持つことが指摘された。この観点から、この研究はそのような応用面への展開も期待することができる。
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研究実績の概要 |
「グラフゼータ函数」の「伊原表示」が研究対象である。伊原表示は、グラフゼータ函数の行列式表示の一種であり、その他の表示式「指数表示」・「オイラー積表示」・「橋本表示」とともに、その導出はグラフゼータ函数の研究が創始された当初から主要な研究課題であり続けている。 本研究課題は、これまでのグラフゼータ函数の研究における主要な動向を踏襲しながらも、現在の視点から俯瞰した際に「不自然」と思われる各種の制約を排除しつつ、より普遍的な研究基盤を提案し、グラフゼータ研究の将来にむけた確固たる枠組みの構成を目的としている。具体的には、これまで底空間は有限グラフとし、その上で現在の観点からみると、個々の「実例」を対象として進められてきたグラフゼータ函数の研究を、底空間は一般の有限有向グラフとし、かつその上でグラフゼータ函数を「一般的に」定義して研究が進められている。その中で、これまでに「一般荷重ゼータ函数」とよぶところの、伝統的なグラフゼータ函数を統一的に記述する概念を創出し、その伊原表示の構成をこれまでの研究で完成させたところである。 今年度からは、その到達点からさらに歩を進め、有限有向グラフの正則被覆に対する一般荷重ゼータ函数の各種表示式を主題に定め、特に伊原表示の分解公式を導出することを目的としている。この研究を進めるために、その基盤として有限有向グラフの正則被覆の構成が必須となる。そこでは、伊原表示を扱う上で根本的に重要となる「逆辺」を、正則被覆の構成と整合的に定義することが求められる。 ここで求められる正則被覆における逆辺の定義を与えることに成功し、有限有向グラフの正則被覆に対する一般荷重ゼータ函数の伊原表示を考察する基盤を整えたことが、昨年度の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般荷重ゼータに対する伊原表示の構成に用いている現在の手法は、橋本表示とよばれるもう一つの行列式表示を変形することである。その際に大きな問題となるのが、「逆辺」の定義である。底空間として一般の有限有向グラフを考えている都合上、重複有向辺や重複有向ループの存在も許されるため、有限グラフの「対称有向グラフ」のように 与えられた有向辺の逆辺が自然に決まるわけではない。すなわち、本研究における本質的な課題の一つとして、一般の有限有向グラフにおいて「逆辺」をいかに定義するかという問題がある。そして、これまでに得られた大きな結果の一つとして、一般荷重ゼータに対する伊原表示の構成問題の観点から、この問題に対して解答を与えることに成功している。そこでは、有向辺全体のなす集合から、そのベキ集合への写像 S で「自然な性質」を満たすものを考え、与えられた有向辺 a に対して、S(a) に属する全ての有向辺を a の逆辺と定義されることになる。この逆辺の定義のもとに、橋本表示を伊原表示に変換することが可能であることが示され、その明示的な式も与えられている。 現在、本研究課題ではさらに話題をすすめ、有限有向グラフの正則被覆に対して一般荷重ゼータを考え、その伊原表示が満たすべき「分解公式」を与えるべく、研究を進めている。有限有向グラフ D に有限群 G が作用するとき、「正則商グラフ」Q が自然に定義されるが、逆に Q からみた D を、Q の「正則被覆」とよぶ。問題は、D の一般荷重ゼータの伊原表示を、Q の一般荷重ゼータの伊原表示を用いて、G の正則表現の既約分解に則した「分解公式」を与えることにある。その際に必要となることは、G の作用を用いて、Q の逆辺構造を自然な形で持ち上げることにより、D の逆辺構造を定義することにあるが、現在その構成に成功しており、この問題を考える基盤が与えられた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、有限有向グラフに対する一般荷重ゼータ函数の「表示の問題」が、完全に解決されたところである。そこでは、指数表示、オイラー表示、橋本表示が同値な表示であることが示され、かつ橋本表示を変形することにより、伊原表示が与えられている。伊原表示の構成で重要となるのが、有限有向グラフにおける逆辺の定義である。これは、有向辺集合からその冪集合への写像 S で「自然な性質」を満たすものを用いて、各有向辺 a の逆辺集合 S(A) を与えることにより定義される。 今後の研究を推進する方向は数多く存在するが、現在の問題は、有限有向グラフ Q の正則被覆 D に対し、D の一般荷重ゼータ函数の伊原表示を Q のそれを用いた「分解公式」を与えることである。この問題も、グラフゼータ函数の研究において歴史的に重視されている問題であり、本研究で目標としている結果は、これらの既存の結果をすべて統一することが可能になる。現在、逆辺 S(a) の定義が正則被覆の構成と可環となるように定義され、伊原表示を考察するための基盤が整っている。従って、具体的な問題としては、存在が保証されている橋本表示を、逆辺の定義 S(a) に基づき伊原表示まで変形し、その分解公式を構成することである。同時に、グラフゼータ函数の一般化である「L-函数」に対しても、同様の分解公式を与えることも、今後の推進計画に加えている。 その後は、一般荷重ゼータ函数の枠を越えて、一般の「グラフゼータ函数」に対し、同様の問題を考えることが自然な方向である。さらにその先には、より広く「組合せ論的ゼータ函数」に対して発展させることも考えうる。また、伊原ゼータ函数の伊原表示は、セルバーグの跡公式が「退化」したものであることが知られているが、一般荷重ゼータ函数の伊原表示に対応する跡公式の存在を問う問題にも興味が持たれる。
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