研究課題/領域番号 |
22K03275
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分11010:代数学関連
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
中野 哲夫 東京電機大学, 理工学部, 教授 (00217796)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | ブーリアングレブナ基底 / 数独パズル / 井上アルゴリズム / CIIアルゴリズム / MDSL予想 / モジュライ空間 / 群作用 / グレブナ基底 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は代数群の作用を受ける代数多様体に関する2つのテーマ 【テーマI】Weierstrass空隙値列を指定した点付き代数曲線のモジュライ空間の構造 【テーマII】d次元群論的極小有理代数多様体とその拡張クラスUS(d)の研究 を行うことである.テーマIについては,標数0での有理性予想,正標数へのPinkham 理論の拡張およびモジュライ空間のコンパクト化の3つの課題について研究を行う.テーマIIについては,単純代数群が非自明に作用する3次元非特異射影代数多様体のクラスであるUS(3)の同変的双有理幾何,特に極小モデルの分類の完成と,4次元群論的極小有理代数多様体の構造研究を行う.
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研究実績の概要 |
数独パズルは世界的に有名なパズルであり,数学的にも興味深い研究対象として,主として組合せ論的な観点から研究が進んでいる.数独パズルのルールは,ブール環を用いて数学的に定式化することができるが,ブーリアングレブナ基底は,通常のグレブナ基底の変種であってブール多項式環のイデアルの標準基底であり,ブール環のイデアルの具体的な計算を実行可能にする. さて,ブーリアングレブナ基底を用いた数独の基本的な数学的解法として,井上アルゴリズムがある.井上アルゴリズムは,人間のトライアンドエラー方式を数学的に定式化したもので,数独パズルの非常に優れた解法である.井上アルゴリズムは,最近,数独の難易度判定に用いられ,成功を収めているが,井上アルゴリズムに基づく数独パズルの数学的難易度指標には大きくわけて2種類ある.1つは,佐藤・井上先生のグループによるb-rank,s-rank およびこれらから派生する指標で,もう1つは筆者達の提唱したCIIアルゴリズムに基づく CII(Computable Inoue Invariant)等である. 筆者は,数独パズルの新しい難易度指標の開発および各種の難易度指標達の相関を明らかにすることを目標に研究に取り組んでいる.その結果,現在までに (1)SMYI,MDSLという新しい難易度指標を定義することに成功した. (2)これらの難易度指標の間の相関を実験的に検証し,難易度指標の間の関連を明らかにする という2つの結果を得ている.より詳細な点は,下記の7,8で説明する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
井上アルゴリズムでは,ブール環の中で数独の初期イデアルから基本閉包をとる操作を行ってイデアルを拡大する.1度基本閉包をとって得られたイデアル(分岐点)で,任意の空きますとそのマスで取りうる値を選び,また基本閉包をとるという操作を繰り返す.この操作を繰り返すことで必ず解(極大イデアル)に到達する.井上アルゴリズムの実行結果は井上樹形図と呼ばれる樹形図で明確に表すことができる.筆者達は,分岐点で任意の空きますを選ぶのではなく,人間が解くときと同様に,できるだけ樹形図の小さくなるような空きますを選ぶように改良し,これをCIIアルゴリズムと呼んでいる. 井上アルゴリズムでは1つの数独から,実行経路(空きますの選択)によって多数の井上樹形図が生成される.1つの井上樹形図は1つの解を持つが,すべての井上樹形図の解の深さの最小値をMDSL(Minimal Depth of Solution Leaves) と呼ぶ.筆者達は,MDSLが数独パズルの難易度と強い正の相関をもつことを確認し,さらに, (1) MDSL 予想の提唱. (2) 新不変量SMYI(Shindou-Mikoshiba-Yoshihara Invariant)の定義と,SMYIが難易度と強い相関をもつことの検証 (3) 超難問についてSMYIを難易度の目安としたときに,SMYIとMDSL,SMYIとs∞ランクの相関,SMYIとLACとの相関を調べ,これらが強い相関をもつことの実験的検証. などの結果を得た.特に,s∞ランクが∞である超難問について,SMYIとLACが強い負の相関をもつことを発見し,従って,s∞ランクが∞でLACが0(すなわち,初期イデアル=戦術閉包)であるような数独パズルが数学的には最も難易度が高いことを見出した.このようなパズルは,戦術閉と呼ぶべきパズルであって,今後も数学的な研究を進めていきたい.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,さらに数独の難易度判定の各種数学的指標の関連と,よりよい難易度指標の開発の研究を進めていく.具体的には,次の2つの課題を中心に研究を進めていく. (1)MDSL予想の数学的証明を与える.MDSL予想とは,唯一解をもつ任意の数独パズルのMDSLは必ず3以下であろう,という予想で,これはどんなに難しい数独であっても,2回分岐点で適切な空きますと値を選べば必ず解けてしまう,という非常に強い予想である.現時点では初期イデアルとMDSLの数学的関係が明確でないため難しい課題ではあるが,まずは初期イデアルからMDSLを評価する何らかの方法をさぐっていく予定である. (2)数学的にもっとも難しいことが判明した戦術閉な数独(すなわち,s∞ランクが∞でかつLAC=0であるような数独)の数学的構造を明らかにする.ただし,LAC(Length of Ascending Chain)とは,s∞ランクが∞である数独について定義される数で,初期イデアルからある種のイデアルの拡大操作を繰り返し行って戦術閉包を求める際に,その拡大操作の回数として定義される.これは,今のところ手がついていないいわゆる「数独パズル構成の逆問題」,すなわち,数学的不変量を先に与えてその不変量をもつ数独パズルを構成する問題と関連するので,研究を進めていきたい.特に,戦術閉な数独パズルを構成する問題は逆問題の中でも手をつけやすいと思われるので,手がかりをみつけたい.
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