研究開始時の研究の概要 |
複雑な空間をグラフなどの単純な構造をもつ空間で近似することは, 元の複雑な構造を理解するために非常に有効な方法である. 距離の情報を保つように離散空間で近似することは比較的容易にできる. しかし, それだけでは元の対象の情報をそれほど読み取ることはできない. そこで本研究では測度(=面積や体積)や Dirichlet 形式と呼ばれる, エネルギーの情報も含んだ形で近似することを目標にしている.
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研究実績の概要 |
本年度はハイパーグラフ上の Ricci 曲率をより深く理解するためにグラフ上の相対エントロピーの凸性を用いて曲率を定義する Erbar-Maas, Mielke の仕事を学んだ. この手法では, 有限点集合上の Markov chain を用いて曲率を定義するが, 点同士の距離構造も反映することでグラフの性質をより捉えられるのではないかと試行錯誤している. ただその場合確率測度の間の距離は通常の Wasserstein 距離とは異なる. ある種のポテンシャル関数に対しては, 点の数を増やしていくことで例えばコンパクトな多様体を適切に近似できることが知られているが, 一般にはよくわかっていない. 有限次元性を反映させるためにはポテンシャル関数の取り方を上記の論文とは異なる方法で定める必要があるのではないかと考えている. したがってその距離が近似している空間の距離に近づいていくかどうかも今後考えなければいけない. またその上で無限小ヒルベルト的条件及び有限次元性からくるエントロピーの勾配流の性質を研究した. その副産物として, RCD 空間上の Shannon 不等式について研究をまとめ, 後日 arXiv に投稿予定である. 具体的には非崩壊 RCD(0,N) 空間上の「良い」確率測度に対して Shannon 不等式が成り立ち, その定数項はユークリッド空間と等しいことを示した. 手法としては, 先に述べたようにエントロピーの勾配流の特徴づけと熱核のGromov-Hausdorff 収束に沿った振る舞いを利用した. その応用として, 不等式の剛性定理, 概剛性定理及び, Heisenberg-Pauli-Weyl の不確定性原理の成立も示した.
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