研究課題/領域番号 |
22K03365
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩崎 克則 北海道大学, 理学研究院, 特任教授 (00176538)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 超幾何関数 / 超幾何群 / K3 曲面 / 正則自己同型 / 力学系 / 不変集合 / Siegel 円板 / 回転領域 / 超幾何格子 / K3曲面 / K3格子 / エントロピー / ジーゲル円板 / ピカール数 / リジッド系 / 漸近解析 |
研究開始時の研究の概要 |
超幾何関数は、超幾何方程式の解として定義され、数学や数理物理のさまざまな分野に現れる重要な関数である。その大域挙動はモノドロミー群によって測られる。超幾何方程式のモノドロミー群をモデルとする代数的・群論的な概念が超幾何群である。本研究では、超幾何群の代数的・幾何学的研究を展開するとともに、複素幾何学、複素力学系等への応用を与える。さて、大域モノドロミーが局所モノドロミーによって決まる微分方程式をリジッド系という。そこで、超幾何群の理論をリジッド系に一般化することも本研究の一つである。また、より解析的な方向性として、超幾何級数の漸近解析を行い、特殊値公式に応用するなど、多角的に研究を進める。
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研究実績の概要 |
本年度は、超幾何群とそれに付随する超幾何格子を用いて K3 曲面上の複素力学系の理論を展開する課題を発展させた。一般に、コンパクト複素曲面の正則自己同型写像の力学系を考える。写像の反復合成がコンパクト開位相に関して実 d 次元トーラス作用を誘導するような Fatou 集合の連結成分を、階数 d の回転領域という。複素曲面が Kaehlerで、写像の位相的エントロピーが正である場合、階数 d は 1 か 2 であることが知られている。特に、階数 1 の回転領域をもつような自己同型の存在を示すことに興味がある。 このテーマについては、複素曲面が有理曲面の場合には、そのような自己同型の存在が既に示されていたが、K3 曲面に関しては、筆者の知る限り手つかずであった。その理由は、有理曲面の場合は、空間や写像が具体的な式で記述できるのに対して、K3 曲面の場合には、空間や写像の具体的表示は期待できず、コホモロジー群への誘導写像のレベルにおいて間接的・抽象的にものごとを制御するしかないからである。 そこでわれわれは、超幾何群およびそれに付随する超幾何格子を用いて、位相的エントロピーが正で階数1の回転領域をもつ K3 曲面自己同型を構成することに成功した。特に階数1の回転領域と階数 2 の回転領域が共存するような正則自己同型の存在を示すことができた。超幾何群・超幾何格子の方法は、上記のようなコホモロジー群のレベルでの考察に非常に適しており、本研究成果を得ることができた所以となっている。 なお研究代表者は 2023 年度日本数学会秋季総合分科会の企画特別講演者に選出された。そこで「超幾何群と K3 曲面上の力学系」と題して、本研究課題に関するこれまでの研究成果を中心とする内容の特別講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、本研究課題の成果に関する査読付論文 K. Iwasaki, Y. Takada, K3 surfaces, Picard numbers and Siegel disks, Journal of Pure and Applied Algebra, Vol. 227 (2023), no.3, Article 107215, 31 pages が出版された。また口頭発表として、数学研究者全般向けの啓蒙的講演会である第 76 回 Encounter with Mathematics, K3 曲面―未だ尽きぬその魅力―(2023 年6月)や、2023 年度日本数学会秋季総合分科会(2023 年 9 月)の企画特別講演等に講演者として招待され、本研究課題のこれまでの研究成果を中心とする内容を非専門家向けに講演した。 K3 曲面上の複素力学系の不変集合の研究においては、Siegel 円板をもつ正則自己同型の構成から更に進んで階数1および階数 2 の回転領域をもつ正則自己同型を構成することができた。そこには超幾何群の方法が有効に使われている。これらの結果は次年度に論文としてまとめる予定である。 これらの状況に鑑みると研究計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(令和 6 年度)はまず、超幾何群と K3 曲面上の回転領域に関するこれまでの研究成果を論文にまとめる。さらに、回転領域に関する結果を深めるために、単純特異点論と非線形写像の同変線型化の問題に取り組む。 K3 曲面内の (-2)-曲線からなる例外集合は、K3 曲面自己同型の不変集合となる。この不変集合の連結成分を例外成分とよぶ。与えられた例外成分が、階数2の回転領域に含まれるか、階数1の回転領域に含まれるか、あるいはそのどちらでもないかを判定することは興味深い問題である。例外成分を1点に潰すと単純特異点が現れる。これは有限群による商特異点となる。そこで、上記の判定は、もともとの正則自己同型を有限群の作用に関して持ち上げた同変非線形写像の同変線型化を通して行われることが期待される。 従って、固定点における非線形写像の線形化理論の、有限群の作用に関する同変版を構築し、単純特異点論との関係を論じることが重要な課題となる。特に例外成分の Dynkin 型と回転領域の階数の関係を考察することが興味深い。本年度はそのための理論構築を試みる。また理論の検証のための豊富な実例を超幾何群の方法により構成する。 次年度(令和 6 年度)はまた、超幾何群を一般化した概念である Rigid 群についての考察を開始するために、Middle convolution 函手に関する既存の理論の見直しの作業にも着手する。
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