研究課題/領域番号 |
22K03373
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲生 啓行 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00362434)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 複素力学系 / くりこみ / 分岐 / クロスリアリティ (XR) / 分岐測度 / ヴァーチャル・リアリティ / 放物型分岐 / VR可視化 |
研究開始時の研究の概要 |
複素力学系の研究においては,Mandelbrot集合やJulia集合といった複雑なフラクタル集合が自然に現れる.これら複素1次元(実2次元)の対象を一般化した複素2次元(実4次元)版を考えると,更に複雑な構造や現象が見られることが知られている. 本研究は,くりこみと分岐の理論によってこれらの4次元の複雑な集合の構造を調べ,また最新のVR技術を用いて,これらの4次元の複雑な集合をより詳しく観察できるようにし,それによって新たな数学的発見を目指すものである.
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研究実績の概要 |
双二次多項式族の分岐測度の台の「穴」の存在証明の理論的な部分に不備があり,Fatou座標のパラメータ依存性の評価が必要になった.Gaidashevによる擬等角写像の評価式が使えることがわかったが,まだ精度保証計算による具体的な数値を用いた検証までは至っていない. 以前Kiwi, Roeschと進めていた,3次多項式の1つの臨界点が周期的な1-パラメータ族についての研究を再開した.より一般化して,臨界点軌道の関係で定義される多項式の1-パラメータ族におけるくりこみ可能なパラメータ集合が,Mandelbrot集合のある種の一般化と同相になることを示すことを目標とし,まずこのような族の特異点とその分岐について解析し,以前の議論が適用できると考えられる十分条件を与えた. 中根,Roeschが研究している3次多項式の放物不動点を持つパラメータ集合に集積するstretching rayについて,与えられたパラメータにstretching rayが集積するための必要十分条件をFatou座標を用いて表せることがわかった.このため彼らの共同研究に加わることになった. 複素2次元 (実4次元) の可視化については,最近はスマートフォンやタブレットのカメラを用いて現実世界に仮想的な対象を重ねあわせる AR (拡張現実) 技術も使いやすくなっている.これを用いて双二次多項式族の分岐測度や,Henon写像のJulia集合などを表示し,Hansonらのアプリを参考に,4次元的な回転ができるようにした.VRと違い専用の機器を必要とせず,一般的な機器で実行し観察できることは大きなアドバンテージである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分岐測度の台の「穴」については残念ながら証明に不備が見つかったため修正中であるが,理論的に必要なことは揃っていると認識しており,数値計算を丁寧にやることで一定の結果は出せると考えている. Kiwi, Roeschらとの共同研究は,以前3次多項式について議論していたものを,より一般的な状況で書き直そうと議論を進めている.くりこみ可能なパラメータ集合上およびその境界上に特異点がなければ求める同相写像が得られるはずで,その十分条件としてある程度一般的なものが得られたと考えているが,まだ細部を詰める必要がある. 中根,Roeschらと新たに共同研究することになったStretching rayは,分岐測度の計算などにも用いており,パラメータ空間の分岐を理解する為の重要な道具の1つである.また可視化対象の候補の1つでもあるため,本研究の重要な興味の対象の1つとなっている. 無限回3次のくりこみが可能な多項式で組み合わせ剛性が成り立たない例の存在については,Wangを共同研究者に加え,現在論文を執筆中である. どれも本年度中には完成できなかったが,それぞれに大きな進捗があり,完成の目途が立っているという認識のものも多い.その意味で順調に進展しているものと考えている. また,VRで開発していた4次元可視化についても,4次元の回転方法については五十嵐によるVRコントローラの平行移動も用いた方法が優れているであろうということで,石井・寺尾らと心理実験で検証するための準備をしている.また最近ではスマートフォンやタブレットで手軽にAR機能が使えるので,ARに対応したことは,結果を人に説明したり議論したりするときには大きなメリットである.
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今後の研究の推進方策 |
分岐測度の「穴」の存在証明を完成させるため,Fatou集合のパラメータ依存性の評価式を用いて数値計算を行い,精度保証をつけて数学的に厳密な評価を行う. 無限回3次のくりこみが可能な多項式で組み合わせ剛性が成り立たない例の研究については今年度はほぼ進められなかったが,これはCheraghiらによる「毛深いCantor集合」の研究の完成を待っている面もあり,Cheraghiらと議論しながらできるだけ進めていきたいと考えている. Kiwi, Roeschおよび中根, Roeschとの共同研究については,大筋はできており,ほぼ目途が立っていると考えている.細部を詰めて近いうちに完成させたい. 4次元可視化については,VR・AR両方に対応しつつ,放物不動点を持つパラメータ集合に集積するstretching rayなど観察する対象を増やしていきたい.また回転だけでなく,特定の場所を拡大して見るインターフェイスや,画面 (平面) 上の点をクリックして選ぶように,4次元空間内の1点を選択するインターフェイスを開発して,選択したパラメータに関する情報を表示したり,相空間の指定した点を初期値とする軌道を描くなど,より深く観察する為の機能強化を行うことを考えている.
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