研究課題/領域番号 |
22K03377
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
愛木 豊彦 日本女子大学, 理学部, 教授 (90231745)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 弾性体 / 非線形偏微分方程式 / 衝突問題 / 障害物問題 / 時間無限大での解の漸近挙動 |
研究開始時の研究の概要 |
形状記憶合金でできた針金の輪の一部を熱湯に浸けると,熱湯と空気の温度差により輪が伸縮することで重心のズレが発生し,輪が回転する。この現象において,重心のズレは歪みと応力の関係の温度依存性に起因している。また,滑車の働きはいわゆる障害物問題として表現される。本研究では,歪みと応力の関係に新たな仮定を設けた弾性体に対する運動方程式,障害物問題,その数値解析という三観点から研究を進める。
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研究実績の概要 |
今年度は,弾性体の伸縮運動を記述するモデルの数学的解析と障害物問題の導出に取り組んだ。本研究の数理モデルでは,弾性体の運動を2次元平面上の閉曲線の時間変化として捉えている。従来,このような細長い物質の運動は定義域と値域をともに3次元領域や1次元区間とする未知関数を求める微分方程式モデルとして表され,そのモデルについて考察されてきた。定義域と値域を1次元区間とした場合は物質の曲がりが表現できず,3次元領域とした場合は方程式が複雑になるため見通しが持ちにくいと予想し,本研究では定義域を1次元区間,値域を2次元平面とするモデルについて考察してきた。このモデルの特徴は応力を表す関数に特異点の存在を仮定していることである。 これまで,本研究の題材の具体例を輪ゴムとしていたが,昨年度までの研究成果から輪ゴムのような柔らかい弾性体ではなく,定常状態が円になるようなより硬い針金のような弾性体の方がふさわしいことが分かってきた。一方,円だけでなく二重円も定常解であることが分かると同時に定常解の一意性は依然として未解決である。 今年度はエネルギーの減衰を記述する粘性項を加えたbeam方程式の解が,粘性項の係数をゼロに近づけたとき,粘性項なしの方程式の解に収束することを示すことができた。同時に,粘性項がない方程式の解の存在も証明した。解の一意性はこれまでの研究成果を適用することで容易に示すことができた。 また,今年度は弾性体の障害物問題にも取り組んだ。ここでは研究の第一段階として,1次元物体の硬い床との衝突を定義域と値域をともに1次元とする未知関数によって表現した。従来,床との衝突をSignorini条件によって表現してきたが,本研究で考察してきた特異点をもつ応力関数によって記述している。このモデルに対する数値計算から,解の挙動が衝突運動と近いことから,このモデルは妥当であると判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は,1.「弾性体に対する障害物問題の解析」,2.「その数値解法」の2つである。これらに対する進捗状況を述べる。 1.「弾性体に対する障害物問題の解析」について 弾性体に対する障害物問題の解析の礎となるbeam方程式の解析に取り組んだ。ここでは,先に述べた粘性項の係数を零に近づけたときの解の挙動の詳細を示す。まず,一様評価が容易に得られる弱解について考察した結果は共同研究者が論文として発表した。そこでは,粘性項なしの方程式の弱解の存在も示されている。次に,強解について粘性項に依存しない評価を得ることができた。この評価では,弱解への一様評価とGagliardo-Nirenbergの不等式を活用している。また,極めて単純な場合ではあるが,弾性体に対する障害物問題に相当する数理モデルを提案することができた。 2.「弾性体に対する障害物問題の数値解法」について 上述した弾性体の衝突問題を記述する数理モデルを導出すると同時に,このモデルに関する数値解を得ることができた。分点数が少ないためか,数値計算も安定していた。一方,値域を2次元平面とするモデルに対するこれまでの数値計算では,本来周期性を示すべき解が短時間で周期的でなくなるという課題が生じている。現時点まで,この課題を解決する明確な手がかりが得られていないため,今年度の数値計算結果との比較が必要だと考えている。 これらをまとめると,数値計算の新手法に関する手がかりは得られていないが,弾性体に対する障害物問題を,特異点をもつ応力関数を伴う数理モデルによって記述できたため,本研究の進捗状況はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上述の2つの課題「弾性体に対する障害物問題の解析」「弾性体に対する障害物問題の数値解法」に対する今後の研究の推進方策を述べる。 1.「弾性体に対する障害物問題の解析」について これまで応力関数を具体的な有理関数として与え,解の存在と一意性を示してきたが,それらの結果では先行研究R. W. Ogden(1972), J. C. Simo, C. Miehe(1992), G. A. Holzapfel(2000)で示された応力関数を扱えない。そこで,本研究の最終年度である2024年はこれまでの研究を総括する意味でも先行研究の結果を含むような一般的な枠組みで解の存在と一意性を示す。 次に,1次元において直線状の棒を垂直に硬い面に落としたときの鉛直方向の運動について考察する。これは偏微分方程式で記述される最も簡単な障害物問題である。既にこの障害物問題に相当する数理モデルを導出し,さらに質点の跳ね返り現象と同様の動きを示す数値解も得られている。そこで,この方程式に対する解の存在や一意性について検討する。これまで本研究で扱った境界条件は全て線形であったが,障害物問題では特異点をもつ応力関数を採用しているため,境界条件は非線形となる。弾性体の方程式で非線形境界条件を扱う研究は少ないので,その手法を開発していく必要がある。 この方程式をある程度解析した後,輪状の弾性体曲線を硬い平面に落下させたときの跳ね返りを考える。ここでは,未知関数の定義域は1次元区間,値域は2次元平面である。跳ね返りによって各点に非一様な力がかかるため解析に困難が予想されるが,これまでの研究成果をもとに解決していく。 2.「弾性体に対する障害物問題の数値解法」について 2024年は本研究の最終年度であるため,解決の可能性が高い上記1に集中して取り組む。その後,時間的余裕があればこの課題について考察する。
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