研究課題/領域番号 |
22K03378
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
辻川 亨 明治大学, 研究・知財戦略機構(生田), 研究推進員(客員研究員) (10258288)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
|
キーワード | 反応拡散方程式 / 分岐理論 / 完全楕円積分 / 楕円積分 / 分岐現象 / 分岐構造 / 定常問題 |
研究開始時の研究の概要 |
反応拡散方程式の定常問題である積分制約条件つきの楕円型方程式の解の大域的な構造と対応する解の安定性を扱う.解析方法として、分岐理論、特異極限法および楕円積分を用いる.分岐理論のみでは定常解の大域的構造を解明することは困難であることから、楕円積分を用いて解を具体的に表示することにより2次分岐の存在を含めた解構造、および定常解のまわりでの線形化固有値問題における固有値の分布を調べる。
|
研究実績の概要 |
2変数反応拡散方程式であるPhase-Field方程式が金属の融解現象を記述するモデルとして、Fix(1983)やCaginalp(1986)により提唱された. Neuman境界条件の下では、この方程式の定常問題は積分制約条件付きのスカラー方程式となり、解の存在とその安定性を研究している. 1次元領域において、Kuto and Tsujikawa (2013)の結果を適応することにより、エンタルピーが零の場合を除いて定常解の分岐構造が示される。特に定数解から分岐した枝が定数解、または特異解に接続する。また、定数解からの分岐の方向をすべて決定した. しかし、エンタルピーが零の場合、定数解からの1次分岐(対称解の出現)、および対称解からの2次分岐(非対称解の出現)現象が起こることを示すことはできていない.原因はMoreの陰関数定理に関する条件を調べるにはTime Mapなどを用いて対称定常解のより詳しい性質を調べるしか方法がないことによる.この結果は学術雑誌DCDS(2023)に掲載されている. そこでAllen-Cahn型の方程式のすべての解は完全楕円積分によりパラメータ表示されることを用いて、積分条件をパラメータ空間内の曲面の等高線ととらえることで2次分岐点の存在を示した. Nagylaki(1975)により提唱された遺伝子の伝搬を記述した空間依存性(環境関数で表示される)のある退化型Logistic増殖項をもつ単独反応拡散方程式について、近年研究が進んでいる.特に環境関数の積分の符号によって定常解の個数やその安定性が議論されている.本研究では1次元Neuman境界条件の下、環境関数が一度だけ符号を変える場合の定常解の大域的構造を解明する.分岐理論により自明解からの分岐の枝を追跡することで大域的な構造を示した.この結果は学術雑誌JDE(2024)に掲載されている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Phase-Fieldモデルの定常解の構造解明について、エンタルピーが零の場合、定数解から1次分岐した枝(対称解)は拡散係数を小さくしていくと2次分岐が起こりその枝(非対称解)は拡散係数が零まで延長され、最終的に境界層をもつ特異解に収束することを示した.方法として、Allen-Cahn型の方程式の解が拡散係数をパラメーターとして完全楕円積分で表示されることを用いて、積分制約条件を3次元空間内の曲面の等高線と特徴づけることで2次分岐点の存在と分岐の枝の振る舞いを求めることができた.特異解の安定性については、特異摂動法による解の構成とSLEP法による線形化固有値問題の固有値の振る舞いを解析することで不安定であることが証明できる.また、対称解の安定性については、Wakasa, Yotsutani(2016)の結果であるAllen-Cahn型の方程式の固有値と固有関数の表示を用いることで第一固有値の拡散係数に関する挙動を正確に記述できることことから2次分岐点で安定性が変化することを示した. Nagylaki(1975)により提唱されたモデル方程式について、環境条件を表す関数の積分の値によって、空間非一様な複数定常解の存在や安定性が部分的に知られている.本研究では空間1次元問題について、環境関数が零点を1つもつ場合拡散係数をパラメータとして非定数定常解の存在を自明解(u=1)からの分岐として構造を決定した.特に非定数定常解がu=1を横断する回数を指標として分類することで、拡散係数をパラメータとしたとき、各分岐点から分岐した枝は拡散係数が零まで延長できること、各枝は交差しないことなどを示した.しかし、分岐した解の安定性は証明できていない.また、定常解が値u=1をとる可能性のある位置を含めた解の形状を優解と劣解を構成することで決定した.
|
今後の研究の推進方策 |
Phase-Fieldモデルの定常解について、対称解からの2次分岐の方向については、分岐方程式の解析と完全楕円積分による解表示を用いた2通りの方法で計算を進めている.分岐の方向が決定した場合、Crandall-Rabinowiz(1973)の結果から、分岐点近傍での非対称解の安定性が計算可能である.また、分岐した枝が単調であることを証明し、さらに指数定理を用いて非対称解の安定性が変化しないことを示す.そのためには分岐の枝の単調性とサドルノード分岐との関連を示す必要がある.また、1次分岐(対称)解の安定性については、線形固有値問題の第一固有値の振舞いについてすでに分岐点近傍では符号が正であるが2次分岐点を通過した直後負になることを示した.安定性についてはこの結果で十分であるが、その他の固有値について重複度の単純性を含めた分布も調べる. エンタルピーが零の場合、対称解からの2次分岐が起こるが、エンタルピーが零でない場合2次分岐現象が起こらないことから、エンタルピー条件に関する分岐構造不安定性が起こっている可能性があり、Kan and Miyamoto (2013)の結果を適応して示す. Nagylaki(1975)により提唱された退化型Logistic増殖項をもつ反応拡散方程式について、環境関数が2つ以上の零点を持つ場合の分岐構造についてはIzuhara(2023)との共同研究で、数値計算より自明解(u=1)から分岐した枝は2次分岐を起こすことを示した.一方、環境関数が区分的定数(2か所で不連続点を持つ)の場合、Feltrin(2018)などが多重解の存在および分岐構造を示している.2つの分岐構造が類似していることから、反応項の違いと分岐構造の関係性を調べる.また、環境関数の零点が2つ以上ある場合、拡散係数と環境関数の積分量をパラメーターとした分岐構造を解明する.
|