研究課題/領域番号 |
22K03379
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
久藤 衡介 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40386602)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 交差拡散 / モース指数 / 不安定多様体 / 安定性 / 分岐 / 固有値 / 反応拡散系 / 楕円型偏微分方程式 / 放物型偏微分方程式 |
研究開始時の研究の概要 |
有界な領域で縄張り争いをする2種類の生物種の個体群密度の時空間的な変化を記述する偏微分方程式モデルとして,交差拡散とよばれる非線形項を伴うロトカ・ボルテラ系が1979年に重定・川崎・寺本によって提唱されている.この系の非定常問題と定常問題の対する研究は,異なる研究グループによって独立に進められてきた.本研究では,これらの2つの研究の流れを統合し,定常解を取り巻く非定常解の時空的な振る舞いを解析することによって,交差拡散の近平衡系に対する新たな数学的処方を構築する.とりわけ,交差拡散係数が大きいケースの近平衡力学系を,非定常解のアプリオリ評価や定常解の安定性解析を組み合わせることで明らかにする.
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研究実績の概要 |
二種類の生物種が縄張り争いをしながら有界領域を棲息するとき,それぞれの種の個体群密度の時空的変化は反発型の交差拡散項を伴うロトカ・ボルテラ競争系によって記述される,このモデルは1979年に重定,川崎,寺本によって提唱されて以降,SKTモデルと呼ばれ,拡散の相互作用のプロトタイプとして反応拡散系の見地から盛んに研究が続けられている.しかしながら,とりわけ交差拡散の数学的処方の開発の困難から,とりわけ非自明な定常解を取り巻く解の時空的ダイナミクスを力学的に捉えた成果の報告例は少ない. 当該年度においてはディレクレ境界条件の下でSKTモデルの共存定常解の分岐枝の安定性を力学系の見地から考察した.すでに前年度までに研究成果で,両種の交差拡散係数が非常に大きいケースにおいては,両種のランダム拡散の係数が小さい範囲で豊富な分岐枝の存在が確認されている.具体的にはある閾値 d_1 において自明解から両種が少数で共存する定常解の枝が分岐し,その枝はランダム拡散係数がより小さい方向に延びていく.さらにその少数共存の定常解の分岐枝から, 棲み分けを特徴づける定常解の枝が次々と分岐する様子が証明されている.このとき,いずれの分岐枝も線形化不安定でありモース指数が求められていた.当該年度の研究においては,上述の様々な分岐枝上の定常解はモース指数と等しい次元をもつ不安定多様体をもつことを証明した.とりわけ,最初の分岐点 d_1 より少し小さい範囲では,異種同士の反発の程度を表す交差拡散係数が非常に大きいにも関わらず,少数で両種がほぼ同じ形状で棲息する状態が不安定次元が1しかない意味で比較的安定な状態を保つことが示された.また,棲み分けの定常解については,棲み分けする領域が少ないほど不安定次元は低く,その意味で安定度が増すことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においてはSKTモデルを初めとする拡散の相互作用を伴う数理生物学モデルにおいて,定常解の周辺の解の時空的ダイナミクスを解析する処方を開発することが目的であった.その意味で,当該年度までに交差拡散の大きいケースのSKTモデルの定常解の大域分岐構造を空間1次元においては解明してきた.とりわけ,ディレクレ境界条件下では自明解から少数共存の枝が分岐し,さらにその少数共存枝から棲み分けを特徴付ける枝が次々と分岐する様相を初めて提示している.また,それぞれの枝に対する不安定多様体を次元ととも構成しており,ディレクレ境界条件の設定の下では,当初の研究目標に近づきつつある. 一方で,ノイマン境界条件下の定常問題については,空間1次元での大域分岐構造は初年度までに得られたものの,それらの安定性の判定には至っていない.それは,棲み分けを特徴づける大域分岐枝が半ば位相的な手法で得られているため,線形化固有値の分布解析が難航している点が挙げられる.ただ,ロトカ・ボルテラ反応項が弱競争型に分類されるケースにおいては,分岐点付近において棲み分けの定常解が線形安定であると予想し,線形化固有値の分布の計算において足掛かりをえるに至っている.このようにノイマン境界条件のSKTモデルの解析の進展状況については若干ながら当初計画より遅れている. まとめると,SKTモデルの定常解周辺の解構造の解明に関して,ディレクレ境界条件下においては当初計画より順調に研究が進展しており,一方で,ノイマン境界条件下においては当初計画よりやや研究が遅れているので,総合的に見ると,おおむね順調に研究が進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題においては,これまでSKTモデルの定常問題に関する交差拡散極限すなわち両方の交差拡散係数を無限大にした際の解の漸近挙動を調べ,極限系の大域分岐構造の摂動や線形化安定性を考察してきた.上述の当該年度の研究成果のように,時間発展問題の解の時空的な挙動が定常解の不安定多様体として特徴付けられてはいるが,それらは定常解に対する解析を通じて得られた成果である. この成果を踏まえ,今後の研究においては,時間発展問題に対する交差拡散極限を直接考察する.実際,そういった解析は観音(2020)によって形式的には提唱されているものの,SKTモデルの時間発展版の交差拡散極限において非定常解の収束を厳密に証明した研究例はない.定常問題の交差拡散極限のアプローチを参考にしつつ,時間発展問題においても解のアプリオリ評価を丹念に調べ,なるべく強い位相での解の収束を証明することを第一目標にしている.SKTモデルの時間発展問題については交差拡散項に対する数学的処方が確立されておらず,交差拡散極限の厳密化にはそれなりの困難が予想される.半線形の放物型方程式系の従来的な力学系的な解析では,多くの場合,エネルギー汎関数やリアプノフ汎関数を拠り所とする手法が有効であるが,準線形の交差拡散系では現状そういった汎関数が見いだされていない点が解析を困難にする要因となっている.この困難を克服するためには,エネルギー汎関数に頼らない解決処方を考案し,必要に応じ準線形放物型方程式の研究に長く従事されている研究者の助言を受けることも視野に入れている. なお本研究課題の最終年度にあたっては,研究成果を誌上発表するとともに国内外の研究集会で積極的に講演することにより,交差拡散系に対する研究のネットワークの構築に貢献する.
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