研究課題/領域番号 |
22K03427
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12040:応用数学および統計数学関連
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研究機関 | 阿南工業高等専門学校 |
研究代表者 |
西森 康人 (西森康人) 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 講師 (00712796)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 分枝ブラウン運動 / 分枝対称安定過程 / 加藤クラス測度 / シュレーディンガー作用素 / maximum displacement / Feynman-Kac functionals / 分枝マルコフ過程 / 分枝過程 / マルコフ過程 |
研究開始時の研究の概要 |
細菌は空間を移動しながら分裂して増殖したり, 途中で消滅したりする. あるウィルスの感染者は街に出歩いたときにウィルスを他人にうつして感染者を増やしたり, そのうち病気が治って非感染者に戻ったりする. このように, 各個体がランダムに空間中を移動しながら, ランダムに増殖や消滅を繰り返し, 時間の経過とともに変化・発展していく集団を考える. このような確率モデルは分枝ブラウン運動や分枝マルコフ過程とよばれる確率過程によって, 数学的に表現される. 本研究では, 特に, 集団全体を含む最小円を考えたとき, 円の境界付近に存在する個体達がどのように変遷してくかを明らかにする.
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研究実績の概要 |
ユークリド空間内のコンパクトな領域でのみ分裂する分枝ブラウン運動および分枝対称安定過程において、時刻tで原点から最も遠くに位置する粒子までの距離をL(t)とする。本研究では、L(t)のtを無限大にしたときの漸近的性質を調べる。 本研究で取り扱う分枝過程の分枝メカニズムは台がコンパクトな加藤クラス測度によって与えられる。つまり、初期粒子が分裂するランダム時刻をTとしたとき、Tの分布関数がexp{A(t)}で与えられる。ここでA(t)は加藤クラス測度にルビューズ対応する正値連続加法的汎関数である。これらの分枝過程には加藤クラス測度を持つシュレーディンガー作用素が対応し、本研究ではこの最小スペクトルλが負になる分枝過程を対象としている。そして、最小スペクトルは負のとき、これは固有値であり、対応する固有関数が存在する。本研究では、L(t)の漸近挙動を、対応するシュレディンガー作用素の固有値や固有関数によって定量的に表現したり、L(t)を半径とする球面付近(ただし内側)に存在する粒子の極限分布を明らかにすることが目的である。 本年度は、分枝対称α-安定過程に対して、{log L(t)}/tの極限がλ/αに概収束することを示した。このことは分枝対称安定過程におけるL(t)が指数的に増大することを示唆している。分枝ブラウン運動に対しては、L(t)が線形増大することが知られているが、このこととは対照的であることがわかる。本研究結果は査読付き論文集に投稿中であり、またarXiv:2306.09664において公開している。 さらに上記の研究結果を基に、L(t)を半径とする球面の内側近傍に存在する粒子の極限分布についても考察し、これがポアソン分布に従うことを示した。この研究についても査読付き論文集に投稿中である。 また、これらの研究結果については日本数学会で研究報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ユークリド空間内のコンパクトな領域でのみ分裂する分枝ブラウン運動において、時刻tで原点から最も遠くに位置する粒子までの距離をL(t)とする。本研究では、L(t)のtを無限大にしたときの漸近的性質を調べることが目的である。この目的に対する1つの手段は確率過程L(t)に漸近する決定論的関数R(t)を具体的与え、そしてR(t)の精密化を行うことである。もう1つの手段は分枝ブラウン運動の一般化である分枝対称安定過程に対するL(t)についても同様の考察を行い、分枝ブラウン運動の場合のL(t)の漸近的性質と比較することである。 本年度は、分枝対称安定過程のL(t)について考察を行い、分枝ブラウン運動の場合との違いを2つ明確にできた。分枝ブラウン運動の場合の場合、L(t)/tは-λ/2の正の平方根に概収束することが知られている。これに対して、分枝対称安定過程の場合は{log L(t)}/tが-λ/αに概収束することを証明した。前者は1粒子の運動法則がブラウン運動に従うため、各粒子が遠くへ移動する確率が距離に対して指数的に小さくなるのに対して、後者は1粒子の運動法則が安定過程に従うため、各粒子が遠くへ移動する確率が距離の-(d+α)乗程度と前者に比べて大きい。その違いがL(t)/tと{log L(t)}/tの概収束極限として表れている。またこのことは、L(t)を実現する粒子が半径exp{(-λ/α)t+o(1)}の球面付近に位置することを示唆している。これを基に、半径exp{(-λ/α)t+o(1)}の球面付近の粒子の分布がポアソン分布に収束することを証明した。 このように、分枝ブラウン運動の場合のL(t)の漸近的性質と比較できる結果を得ることができたため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ユークリド空間内のコンパクトな領域でのみ分裂する分枝ブラウン運動において、時刻tで原点から最も遠くに位置する粒子までの距離をL(t)とする。本研究では、L(t)のtを無限大にしたときの漸近的性質を調べる。そのためには、時刻tにおいて、半径R(t)の球の外側に位置する粒子数N(R(t))の漸近挙動を調べることが重要になる。N(R(t))とその自乗の期待値の漸近挙動は概ね具体的かつ精密にわかっている。これらにより、L(t)/tの概収束極限や、ある適切な関数R(t)に対して、L(t)-R(t)の極限分布が存在することがわかっている。 今後は、それらの次のステップとして、L(t)のより精密な表現を与えたり、L(t)-R(t)の収束を確率収束やLp収束に格上げしたりすることを目標とする。そのためには次の粒子数の相関関数f(s,t)の漸近挙動を調べる必要がある。相関関数f(s,t)とは、時刻s,t(ただし、s<tかつs,tは十分大きく離れている)に対して、積N(R(s))N(R(t))の期待値を意味する。これを明らかにすることで、例えば、(L(t)-At)/log(t)の概収束極限について論じることができるようになる。ここで、AはL(t)/tの概収束極限である。つまり、L(t)の主要部をAtとしたとき、その次の発展スピードを表す関数(Atを補正する関数)がlog(t)かどうかということを論じる。このように対数関数を候補とする理由はR(t)-Atが対数関数であることによる。 また、相関関数f(s,t)の漸近挙動が明らかになれば、L(s)をsに関して0からtまで積分して、tで割ったときの極限についても論じることができるようである(いわゆるエルゴード理論)このことについても考察する。
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