研究課題/領域番号 |
22K03433
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12040:応用数学および統計数学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲葉 寿 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (80282531)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 基本再生産数 / 感染症数理モデル / ケルマックーマッケンドリックモデル / 異質性 / 閾値定理 / 個体群ダイナミクス / 年齢構造 / 集団免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
構造化個体群ダイナミクスは,細胞レベルから個体群レベルに至る生物個体群動態を微分方程式あるいは積分方程式,関数方程式によりモデル化したうえで,関数解析的,力学系的手法を用いてその性質を調べる数学的理論であり,とくに個体レベルの異質性,履歴と環境変動の相互作用を反映したマルチスケールな議論を発展させることができることが特徴である.本研究では,個体の異質性を明示的に取り入れた感染症数理モデルの力学系的理論構成を,構造化個体群ダイナミクスの考えにもとづいて行う.そのような理論はCOVID-19 が提起した大規模ホスト人口における感染症流行問題,とくに集団免疫理論を数学的に検討するために不可欠である.
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研究実績の概要 |
COVID-19の初期においては、獲得免疫による集団免疫化に関して,観測された基本再生産数から得られる古典的な集団免疫閾値よりもずっと低いところに実際の集団免疫閾値があるのではないかという期待が持たれた.このようなホスト個体群における感受性の分布(異質性)によって、高い感受性集団から選択的に流行が発生して,より低い感受性集団へひろがっていく選択的流行によって,一様な集団よりも低い閾値が期待されることが、数理モデルによって示されている。これは初期流行が古典的集団免疫のはるかに手前で自律的に収束する理由であるかも知れない.しかし,これは局所的な過渡的集団免疫化であり,大局的にはこれで流行は終わりはしないことはその後の経過が示すとおりである. 本年度の研究においては、ケルマックーマッケンドリックの感染症数理モデルに個体の異質性変数を導入して無限次元モデルへ拡張した上で、初期値問題の解の存在定理、基本再生産数による流行閾値定理、集団免疫閾値の存在等を示した。 よく知られたように、感受性分布がガンマ関数で与えられる場合は、無限次元のSIRモデルは、有限次元の常微分方程式系に還元され、相互作用校はべき乗型となる。本研究ではOdo Diekmann(ユトレヒト大)と共同で、感受性分布が与えられたとき、無限次元の再生方程式によって定式化されたケルマック・マッケンドリックモデルを有限次元常微分方程式系に還元する新たな組織的計算方法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては,構造化個体群ダイナミクスの数学的理論を基礎として,COVID-19 のような大規模で,複雑な背景を持つ人口集団における感染症の再帰的流行とその制御方法を理解するために,個体の異質性に着目した構造化感染症数理モデルの開発と数理解析をおこなうことを目的としている.特に学術的な問いとして,新型コロナ制御政策の一つの焦点であり,かつ長期的な流行対策にも影響する集団免疫理論の革新のための理論的基礎を考察することが掲げられていた。本年度の研究においては、もっとも基本的な感染症数理モデルであるケルマックーマッケンドリックモデルを、個体の異質性変数を導入して無限次元モデルへ拡張した上で、初期値問題の会の存在定理、基本再生産数による流行閾値定理、集団免疫閾値の存在等を示し、感受性分布が与えられたとき、無限次元の基本システムを有限次元常微分方程式系に還元する新たな組織的計算方法を提案することができた。これは個体異質性にもとづく感染症モデルの出発点として基本的な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19 においては,重症化を防ぐために有効なワクチンが開発されてきているが,感染性,感受性を十分に低下させるかどうかは疑問視されている.またその効果も時間的に減衰すると考えられている.そもそも古典的な集団免疫論は,個体が感染から回復することで,免疫性を得て,再感染はしないということを前提にしているが,SARS-CoV-2 に関していえば,再感染がないという意味で免疫性が確立されるかどうかはわかっていない.ワクチン接種者に関してはブレイクスルー感染があると報告されている.一度獲得された免疫が減衰して,再感染がおきるとすれば,再帰的流行がおきて,エンデミックな定常状態が安定化する可能性がある.このような状況は再感染閾値の理論によって定式化されてきたが,免疫系の時間変動を考慮にいれて,より精密な議論を展開する必要がある.今後は,個体の異質性を考慮した上で,再感染モデルの理論解析をおこなっていくことが考えられる.またこれまでは静態的な異質性を考えていたが,異質性の時間変動を考慮したモデルが,データの示す流行動態の理解に必要であることが認識されてきている.したがって,動的な異質性を考慮したモデルへの拡張を考察する.
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