研究課題/領域番号 |
22K03451
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
吉村 和之 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (40396156)
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研究分担者 |
土井 祐介 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10403172)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 非線形格子 / 熱伝導 / ポテンシャル対称性 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の微細加工技術の発展に伴い、ミクロスケールにおける熱伝導現象の理解は重要性を増している。しかしながら、物質の構成原子のダイナミクスに基づく熱伝導現象の理解、特に熱抵抗が発生するメカニズムの理解は、未だ十分になされていない。ミクロスケールでの熱エネルギー輸送を担う波動現象では物質の離散性・非線形性が重要であるため、それらを備える非線形格子と呼ばれる数理モデルを用いて理論研究を行う。本研究では、Umklapp過程の有無に関連したポテンシャル対称性を有する1次元非線形格子とその摂動系を用いた理論解析・数値計算により、熱抵抗が発生するメカニズムの解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、固体の熱伝導過程に熱抵抗が生じる微視的メカニズムを、1次元非線形格子ダイナミクスに基づき理論的に解明することを目的としている。以下の研究計画を予定している。第1段階で、熱抵抗に関するPeirels仮説の正否に関する厳密な結果を得る。第2段階で、非線形フォノンを明確に定義し、その数理的性質を明らかにする。第3段階以降で、Umklapp過程が無い非線形格子(UFL)とその摂動系を用いて、熱抵抗の起源となる非線形フォノン散乱過程とその特性を明らかにする。 2023年度は、上記の第2段階に相当する部分を実施した。まず、UFLと双対的な非線形格子であるPISLを扱った。PISLにおいて、ある区間Iに含まれる任意の波数kに対し、非線形性により変調された単一波数の平面波の厳密解を得ている。区間I以外の波数kに対しては、厳密な単一波数平面波は存在しない。しかし、波数kの基本波と複数の高調波の重ね合わせで構成される近似的な平面波解が存在し得ることを見出した。特に、高調波モード数が少ない場合について、近似的な平面波解の存在を証明した。上記結果は、UFLにおける近似的な平面波解の存在も意味する。以上より、第2段階の目標であった非線形フォノンの定義については、概ね達成できたと思われる。 計画外ではあるが関連問題として、FPUT格子の異常熱伝導を扱った。非平衡シミュレーションを実施し、熱伝導率と格子サイズ間の冪乗則の指数を調査した。従来研究と比べて約100倍の格子サイズまでの大規模シミュレーションを行い、指数を精密に計算した。この結果を、学術論文誌Jour. of Physical Society of Japanに発表した。さらに、FPUT格子のmulti-pulse discrete breather解の指数関数的局在性を証明し、学術論文誌AIP Advancesにて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の当初計画は、以下の項目(1),(2)であった。(1)UFLについて、熱エネルギー輸送波の候補である非線形フォノン解の定義を与えること。(2)UFL摂動系について、非線形フォノンの近似解の計算と、その散乱過程の調査。 項目(1)については、UFLに双対的なPISLに対して、非線形フォノン解の厳密な定義を与えることができた。この結果に基づき、UFLの非線形フォノン解を定義することが可能である。概ね計画通りの成果を得ることができた。一方、項目(2)については、UFL摂動系の研究に着手に至らなかった。また、計画外の成果として、FPUT格子熱伝導の異常熱伝導の問題を扱った。大規模な非平衡熱伝導シミュレーションによる研究結果を、学術論文誌Jour. of Physical Society of Japanに発表した。さらに、FPUT格子のmulti-pulse discrete breather解の指数関数的局在性に関する証明を、学術論文誌AIP Advancesにて発表した。 上記(2)に関して当初計画からの遅れを生じたが、(1)については、ほぼ計画通り実施し、さらに計画外の成果を得ることができた。以上を踏まえ、現状について「おおむね順調に進展している。」と総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、計画の第2段階である非線形フォノンを明確に定義する研究を進めた。大部分の波数に対して近似的な平面波解の存在を証明することで、非線形フォノンの定義を与えることができた。しかしながら、任意波数に対する証明は完了していない。2024年度は、まず任意波数kに対する近似的な平面波解の存在証明の研究を進め、結果を論文化することを目指す。その後、計画の第3段階として、UFLの摂動系における近似的な非線形フォノンの安定性や減衰特性が、系の摂動にどのように依存するかを調査する。また、discrete breatherによる非線形フォノンの散乱特性も調査する。当該調査のための数値計算コード開発と、数値実験による研究を進める。
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