研究課題/領域番号 |
22K03463
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
矢久保 考介 北海道大学, 工学研究院, 教授 (40200480)
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研究分担者 |
小布施 秀明 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (50415121)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 複雑ネットワーク / フラクタル / 長距離次数相関 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、複雑ネットワークに見られるフラクタル性の発現を説明する二種類のモデルを提唱する。一つは自己組織化臨界性(SOC)を呈するダイナミクスによるモデルであり、もう一つは小グラフの凝集過程による非SOC的なモデルである。現実の複雑ネットワークが、これら二種類の機構によって生じる得ることを実証的な研究により明らかにする。また、現実の複雑ネットワークがSOC機構と非SOC的機構のどちらの機構によってフラクタル性を獲得したかを判別する手法を提案する。さらに、それぞれのフラクタル形成機構に応じた構造制御を行うことで、機能性ネットワークをデザインする方策を探る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、複雑ネットワークにおけるフラクタル性がSOCダイナミクスと非SOC的な小グラフの凝集過程の二種類の機構によって生じる得ることを明らかにし、その形成機構に応じた構造制御を行うことで機能性ネットワークをデザインする方策を見つけることである。この目的のため令和4年度では、確率的な逆繰り込み操作に基づく微小グラフの凝集モデルであるマルチジェネレーター・モデルを構築した。このモデルは、以前に我々が構築した決定論的階層モデルを確率過程に拡張したものであり、前世代におけるネットワークの1本のエッジをジェネレーターと呼ばれる複数の微小グラフの一つに確率的に置き換えることによって逐次的に次世代ネットワークを構成する時間発展モデルである。本研究では、マルチジェネレーター・モデルによって構築されたネットワークが長時間後にはフラクタル性とスケールフリー性を有する構造を持つようになることを解析的に示した。本モデルの最大の特徴は、どのジェネレーターに置き換えられるかを決める確率変数の値を制御することによって、フラクタル次元やスケールフリー指数のみならず、クラスター係数、長距離次数相関、頑強性等を連続的かつ自由にコントロールすることができることにある。また、モデルが比較的単純であるため、形成されたネットワークの構造を特徴付ける様々な指標は解析的に求めることができ、本研究ではこうした指標に対する解析的表式が正しいことを数値計算によって検証した。 さらに、令和4年度の研究では、マルチジェネレーター・モデルによって形成されたネットワークは単純なフラクタル構造を取るのではなく、ハブと呼ばれる高次数ノード近傍の局所フラクタル次元とハブから離れた低次数ノード近傍の局所フラクタル次元が異なる値を持つ「バイフラクタル構造」を取るという注目すべき事実を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
自然界に遍在するフラクタル構造の多くが自己組織化臨界性(SOC)によって形成されることは良く知られている。一方、現実世界の複雑な関係性をネットワークで記述した場合、その構造の多くも最短経路長という長さスケールの意味で、やはりフラクタル性を示す。しかしながら、現実ネットワークが必ずしもSOCを示す時間発展に従うわけではない事を考えると、複雑ネットワークにおけるフラクタル性の起源には、SOC的機構と非SOC的な機構があるものと予想される。本研究の目的は、このような2種類の機構に基づくフラクタル・ネットワーク形成モデルを構築し、それらによって作られるネットワークの性質を詳細に調べ、比較検討することである。令和4年度の研究結果は、グラフ・モティーフによる確率的逆繰り込み成長という非SOC的ダイナミクス(マルチジェネレーター・モデル)によってフラクタル性が生じることを示しているため、本研究の目的の半分は達成されたと言える。令和4年度の研究では、本モデルによるネットワークがバイフラクタル構造を取ることも明らかにしている。バイフラクタル構造とは、系の局所構造が2つの異なるフラクタル次元で記述されるようなフラクタル構造である。本研究では、マルチジェネレーター・モデルで作られた無限ネットワークにおいて、無限次数ノード(ハブ)近傍のフラクタル次元とハブから無限に離れた有限次数ノード近傍のフラクタル次元が異なることを解析的に明らかにした。ネットワーク上の様々な現象はバイフラクタル性の影響を強く受けるものと考えられるため、現実ネットワークがこのような性質を持つか否かを明らかにすることは極めて重要である。非SOC的メカニズムで形成されたフラクタル・スケールフリー・ネットワークのバイフラクタル性は研究計画当初に予定していなかったものであることから、研究は予定以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究により非SOC的時間発展によるフラクタル・ネットワークの形成モデルが構築できたので、令和5年度には現実を反映したSOCダイナミクスに基づくフラクタル性発現のメカニズム解明を行う。具体的には、我々が以前提唱した地理的ネットワーク・モデルとBak-Sneppenモデルを融合させることで、生物や社会におけるコロニー形成をネットワークの時間発展としてモデル化する。まずこのモデルを数値的に時間発展させ、コロニーを構成するネットワークの次数分布、フラクタル次元、雪崩サイズ分布のベキ指数を求める。また、コロニー重心の運動がLevy飛行となることをシミュレーションにより明らかにする。次に、このモデルの時間発展を解析的に扱い、雪崩サイズ分布の指数やコロニー・ネットワークのフラクタル次元、Levy飛行の指数を求め、数値計算結果と比較する。これにより、コロニー形成を記述するSOCダイナミクスによるフラクタル性発現のメカニズムを理解する。 一方、マルチジェネレーター・モデルにより形成されたネットワークがバイフラクタル構造を取ることが令和4年度の研究により明らかとなった。ネットワーク上の諸現象は構造のバイフラクタル性に強く影響されると予想されるため、このバイフラクタル性がマルチジェネレーター・モデルに固有な性質なのか、SOC機構により形成されるフラクタル・ネットワークにも見られる性質なのか、さらにはフラクタル・スケールフリー・ネットワーク(FSFN)全てに共通する性質であるのかを明らかにすることは非常に重要である。令和5年度以降は、多様なFSFNのバイフラクタル性を解析的に調べることでこの問題を解決する。さらに、バイフラクタル・ネットワーク上の古典ランダム・ウォーク、および量子ウォークを考え、バイフラクタル性がネットワーク上のダイナミクスに与える影響を明らかにする。
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