研究課題/領域番号 |
22K03464
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中田 芳史 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (10808992)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 量子擬似ランダムネス / 量子誤り訂正符号 / ランダム符号 / Hayden-Preskillの思考実験 / ユニタリ・デザイン / スクランブリング / 量子誤り訂正 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、量子力学によって記述されるミクロな系で生じる複雑なダイナミクスの研究を通じて、量子情報処理技術の発展や量子系で生じる新奇物理の探索を目指す。研究は基礎研究と応用研究に分けて行い、基礎研究ではその理論の発展を目指す。応用研究では、量子誤り訂正符号や量子情報デバイスのノイズの検証方法、また、量子誤り訂正に関連する物理に着目した研究を行う。これらの研究を通じて、量子情報と物理がクロスオーバーする研究発展をもたらし、量子情報と物理の包括発展に貢献する。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、量子擬似ランダムネスを用いた新規量子情報処理技術の提案、および、新奇物理の開拓を目指すものである。量子擬似ランダムネスとは複雑な量子系でのユニタリ・ダイナミクスを数理的に表現したもので、近年、量子情報科学と理論物理学の双方で重要な研究テーマとなっている。
2022年度の主な研究実績は、量子擬似ランダムネスの重要な応用の一つである「量子誤り訂正符号」に関するものである。量子誤り訂正は、符号化と復号化と呼ばれる手法を用いて、量子系におけるノイズの影響を最小限に抑制する技術のことをいう。量子誤り訂正は大規模な量子情報処理を実現するために不可欠なだけでなく、ブラックホールの情報パラドクスやホログラフィ対応、量子カオスなどの文脈においても重要な役割を果たすことが判明している。
当該年度は、量子誤り訂正の復号化に関する研究に取り組み、既存の研究とは全く異なる考え方から、新しい復号化手法を提案した。この結果は一般の量子誤り訂正符号に対して適用可能で、これまで知られていたものよりもよい性能を持つ復号化の発見へと繋がる結果である。特に重要な応用として、量子擬似ランダムネスを用いたランダム符号化の復号化が挙げられる。ランダム符号化は性能のよい量子誤り訂正符号を実現することが知られていたが、その復号化に関する研究はこれまでほとんど進んでいなかった。新しく提案した復号化手法は、ランダム符号化に対しても適用可能なものであり、この結果によって、ランダム符号化の復号化に関する研究が進んだ。ランダム符号化の復号化は、理論物理学にも影響を与えるものである。事実、新しい復号化手法を用いてブラックホールの情報パラドクスの量子情報的玩具模型を解析することで、ブラックホールに投げ込まれた量子情報をホーキング放射から復元する際の復元エラーが、これまで考えられていたよりも小さいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画の目的は、量子擬似ランダムネスにもとづき、量子情報技術の提案と新奇物理の開拓を同時に成し遂げることであった。具体的には、量子情報技術として、量子誤り訂正符号とノイジーな量子情報デバイスの検証方法の提案の二つを目指し、新奇物理として、ブラックホールの情報パラドクスの玩具模型であるHayden-Preskillの思考実験の解析、および、測定誘起の相転移の研究を想定していた。
当該年度に挙げた新しい復号化に関する結果は、量子誤り訂正符号の理論発展に直結するだけでなく、その結果を応用することで、ブラックホールの情報パラドクスの量子情報的玩具模型に対する新しい知見を得ることもできた。これらの成果は、既に当初目標のおよそ半分を達成するものであり、初年度としては期待以上の成果と考えている。また、得られた結果は量子擬似ランダムネスを用いた量子誤り訂正以外にも適用可能であるため、当初想定していた適用範囲を上回る一般の結果を得ることに成功している。この意味に置いても、当初の計画以上の進展を達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「1.2022年度に得られた新しい復号化手法の更なる発展を目指す」と同時に、当初計画していた残りの二研究課題である、「2.量子擬似ランダムネスの、ノイジーな量子情報デバイスの検証方法への応用」と「3.量子擬似ランダムネスにもとづく、測定誘起の相転移」の研究も推し進める。
1に関しては、既存の量子誤り訂正符号に対して2022年度に得られた我々の成果を適用し、より効率的、もしくは、より性能のよい復号化を達成することを目指す。我々の成果が量子擬似ランダムネスを用いた量子誤り訂正符号以外にも適用できることから、本研究については、当初予定していた量子擬似ランダムネスを超えた研究課題として新規に設定し、推進することとする。
2については、量子擬似ランダムネスを用いて、量子情報デバイス上の量子ノイズを特徴づけることを目指す。3では、量子擬似ランダムネスと量子測定のトレードオフで生み出される相転移に関する研究を、量子誤り訂正の観点から推し進める。これらの研究課題は当初計画していたものであり、今後、計画通り推し進める予定である。
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