研究課題/領域番号 |
22K03465
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
|
研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
佐藤 公法 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00401448)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
|
キーワード | ケイ酸塩鉱物 / プロトン伝導 / ナノ空間 / 一次元アイス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,ケイ酸塩鉱物中に多量に含まれる二次元形状のナノ空間,およびナノ空間内部で強く凝集する特異な水分子ネットワークに着目する。メカノケミカル反応により二次元形状ナノ空間を一次元異方性を有するナノ空間に改質し,一次元方向に空間制約を受けた準一次元アイスを構築する。平行して高い反応断面積で水分子解離を進行させ,効率的なプロトン生成を行う。さらにナノ空間近傍に局所生成する負電荷にプロトンを弱局在させ,空間内部への閉じ込めを行う。上記を同時に実現することにより,無加湿・常温環境下で超プロトン伝導の発現を目指す。
|
研究実績の概要 |
ケイ酸塩物質は地殻を構成する鉱物の大部分を占め,地球上で最も産出量が多い.加えて毒性もない.ケイ酸塩物質は一般に絶縁体に分類される.つまりケイ酸塩物質そのものに電流は流れない.資源的に安定で,かつ環境負荷のないケイ酸塩物質が伝導特性を持つようになれば環境・エネルギー分野の観点から意義がある.本研究では,ケイ酸塩鉱物中に多量に含まれる二次元形状のナノ空間,およびナノ空間内部で強く凝集する特異な水分子ネットワークに着目する.メカノケミカル反応により二次元形状ナノ空間を一次元異方性を有するナノ空間に改質し,一次元方向に空間制約を受けた準一次元アイスを構築する.平行して高い反応断面積で水分子解離を進行させ,効率的なプロトン生成を行う.さらにナノ空間近傍に局所生成する負電荷にプロトンを弱局在させ,空間内部への閉じ込めを行う.上記を同時に発現させることにより,無加湿・常温環境下で超プロトン伝導の発現を目指す.初年度は,ベースとなる試料としてケイ酸塩鉱物である合成サポナイトナノ粒子を採用した.当該試料には,サポナイトの基本ユニットである二次元ナノシート層間のナトリウムイオンに物理吸着した吸着水が多量に存在していることが熱重量示差熱同時測定でわかった.メカノケミカル反応を推進するための水分子ネットワークが十分に得られることが示唆された.湿式条件下で遊星型ボールミル等を用いたメカノケミカル反応により,サポナイトを構成するSiO4四面体の剥離,細分化が示唆された.ポジトロニウム分光実験によるナノ空間計測からは,二次元形状ナノ空間が一次元異方性を有するナノ空間に改質されていることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,ケイ酸塩物質に多量に含まれる水分子ネットワークに対してメカノケミカル反応を促進させる.加えて,二次元形状ナノ空間を一次元異方性を有するナノ空間に改質する.これらを推進することにより,ナノ空間近傍に準一次元アイスを生成させ,常温・無加湿環境下で伝導度10-2 Scm-1を達成する超プロトン伝導体の開発を目的としている.初年度は,ベースとなる試料の選定を行い,ケイ酸塩鉱物である合成サポナイトナノ粒子を採用した.熱重量示差熱同時測定により,常温常圧で水分子が濃度にして10 mmol/g以上含まれていることがわかった.この水分子はサポナイトナノ粒子の基本ユニットである二次元ナノシートの層間のナトリウムイオンに物理吸着した吸着水である.メカノケミカル反応を推進するための水分子ネットワークが十分に得られることが示唆された.加えて,湿式条件下で遊星型ボールミル等を用いたメカノケミカル反応を所定時間推進した.X線回折実験より,底面反射(00l)のピーク,およびそれらに直交する(0k0)のピークが反応時間の増加とともにブロードニングし,最終的には消失した.このことはサポナイトを構成するSiO4四面体の剥離,さらには細分化を示唆している.さらにポジトロニウム分光実験によるナノ空間計測を推進した.メカノケミカル反応前にはサイズにして3オングストローム,9オングストロームほどのナノ空間が存在していた.これらは二次元ナノシートのオーバーラップにより生成された二次元形状のナノ空間である.メカノケミカル反応の時間とともにこれらは減少し,最終的には約4オングストロームのナノ空間だけになった.メカノケミカル反応により,二次元形状ナノ空間が一次元異方性を有するナノ空間に改質されていることが示唆された.以上より,現在までの達成度はおおむね順調と判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,二次元形状ナノ空間を一次元異方性を有するナノ空間に改質すること,一次元方向に空間制約を受けた準一次元アイスを構築すること,水分子解離によりプロトンを生成させることが不可欠である.これらを達成するために,メカノケミカル反応を湿式条件下で行う.初年度は,メカノケミカル反応を推進するための水分子ネットワークが試料内部に十分に得られることが確認できた.加えて,サポナイトナノ粒子を構成するSiO4四面体の剥離,さらには細分化だけでなく,二次元形状ナノ空間が一次元異方性を有するナノ空間に改質されていることも示唆された.次年度はメカノケミカル反応条件を詳細に協議し,ナノ空間改質についてさらなる高精度化を進める.またサポナイト組織の細分化だけでなく,非架橋酸素にも焦点を当てる.ナノ空間計測は引き続きポジトロニウム分光実験,比表面積の評価はガス吸着実験により行う.さらにフーリエ変換赤外吸収分光実験により,メカノケミカル反応により変化した結合に関する情報を得る.ナノ空間近傍で水分子集団系は空間的制約を受けるため,準一次元アイス状態を形成し,一方で物理吸着した水分子は湿式反応でプロトンと酸素イオンに分解され,プロトンは連結ナノ空間近傍の負電荷に弱局在することが期待される.SiO4四面体近傍の化学環境はシリコン29固体核磁気共鳴により,水分子集団系の状態はプロトン固体核磁気共鳴により調べる.局在プロトンは水素結合を介して準一次元アイスをホッピングするため,常温・無加湿状態で超プロトン伝導が発現することが期待される.プロトン伝導特性を電気化学インピーダンス計測により調べる予定である.
|