研究課題/領域番号 |
22K03467
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
内山 智香子 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30221807)
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研究分担者 |
橋本 一成 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10754591)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 量子熱機関 / 量子コヒーレンス / 非マルコフ効果 / 微小熱機関 / 量子可逆性 |
研究開始時の研究の概要 |
熱力学は19世紀の創設以来,マクロレベルの熱的性質の記述および制御において堅牢な学問体系を有する稀有な分野である.しかし,近年の量子技術の急速な発展に伴い,熱的性質に対する量子論的アプローチに注目が集まっている,なかでも,蒸気機関などの従来の熱機関の媒質を量子系で置換した量子熱機関に関する研究が加速し,理論・実験ともに数多く行われている.しかし熱機関に量子力学的視点を持ち込む際,「量子性」の果たす役割の明確化は未だ挑戦的な課題として残されている.本研究は,従来見過ごされがちであった熱機関過程の短時間領域での「量子可逆性」に着目した熱機関プロトコルの理論構築を行い,熱機関効率向上の可能性を探る.
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研究実績の概要 |
我々の日常生活で取り扱う物質の熱的な性質は,熱力学によって理解・記述されている.その代表的な成果は蒸気機関や内燃機関などの熱機関として結実し,われわれの生活を支えている.しかし,熱機関においてエネルギー変換の媒体として利用される作業媒質のスケールをどのように変化しても,熱力学が成り立つのか,また,熱機関の効率は作業媒質の大きさによってどのように変化するのか,という問いに対する取り組みが盛んに行われている.特に,作業媒質を原子・分子といったミクロなスケールの実体とした微小熱機関に関する理論研究が加速している.のみならず,量子技術の急速な進展を背景に,実験も数多く行われている.しかし熱機関に量子力学的視点を持ち込む際,「量子性」の果たす役割の明確化は未だ挑戦的な課題として残されている.本研究は,この量子性として特に,量子コヒーレンスと,熱浴の相関時間程度の短時間領域の振る舞い(非マルコフ効果)の量子可逆性に注目し,量子熱機関の熱効率への影響を明らかにすることを目的とする.具体的には, 1/2スピンを作業媒質とし,各過程を有限時間で操作するモデルを考え,量子可逆性が熱機関効率を向上させる条件を探索し,「量子性」を利用した有限時間操作可能な微小熱機関の理論構築を行うことを目指している. 本研究の開始にあたり,今年度は熱機関を構成する基本要素に分けて検討を行った.まず,1/2スピンが熱浴と相互作用している系において,量子コヒーレンスが果たす役割についてのエネルギー的視点からの考察を行い,論文発表を行った.また,量子コヒーレンスの制御の具体的実装提案を見越して,回転磁場の影響を取り込んだ完全係数統計の枠組みを整え,量子ドットー電子溜系に適用を行った結果について,日本物理学会および国際会議にて発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,熱機関に対する「量子性」の役割を明らかにすることを目的としている.具体的には,量子性として,量子コヒーレンスと,熱浴の相関時間程度の短時間領域の振る舞い(非マルコフ効果)の量子可逆性に注目し,量子熱機関の熱効率への影響を明らかにすることを目指している.研究対象である量子熱機関の素過程は,作業媒質と熱浴との相互作用と外部磁場による作業媒質のエネルギー準位制御の2種類に大別される.本研究の代表者と分担者は,1/2スピン系と熱浴との相互作用における非マルコフ効果の取り扱いには習熟しているものの,量子コヒーレンスの扱いは初めてとなる.そこで,本研究の開始にあたり,令和4年度は,量子コヒーレンスを取り込むための理論的枠組構築に集中することとした.具体的にはまず,定常磁場による量子コヒーレンス生成過程と熱浴との相互作用による擾乱が競合する状況下で,作業媒質と熱浴とのエネルギー交換ダイナミクスを記述する理論的枠組を整備した.さらに回転磁場の影響を取り込むことが可能な枠組みへの拡張も行った. 以上より,今後本研究で必要な理論的枠組の主要部分の整備を行い,次年度以降の研究への準備を完了することができたことから,おおむね順調に進展していると自己評価している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,令和4年度に構築した理論的枠組を,熱機関の素過程に適用し,熱機関効率の見積もりを行う段階に進む.その際,エネルギーを変換して得られる仕事量の定義として,どのようなものが適切なのか,についての考察が必須となる.先行研究を参考にしながら,複数の指標を用いて,熱機関効率の見積もりを行う予定である.
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