研究課題/領域番号 |
22K03475
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
古川 一暁 明星大学, 理工学部, 教授 (40393748)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | アクティブマター / 回転ビット / 多体系 / 情報伝達 / フラストレーション |
研究開始時の研究の概要 |
研究代表者がイオンゲルを用いて最近発見した、アクティブマターの双安定な自己駆動回転運動を、左回転を0、右回転を1と表現する回転ビットとみなし、ビット間相互作用を持つ回転ビット多体系を構築する。回転ビットの1次元配列による1ビット情報伝達、2次元格子配列による集団秩序の形成・転移・崩壊過程を研究対象とする。特定の回転ビットのみの回転方向を外力により制御する方法を確立し、回転ビット多体系中での情報の伝播、また集団秩序の形成・転移・崩壊に対する影響を明確にする。本研究によりアクティブマターの時空間構造形成機構のダイナミクスを解明する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、アクティブマターの双安定な自己駆動回転運動を、左回転を0、右回転を1と表現する回転ビットとみなし、ビット間相互作用を持つ回転ビット多体系を構築することを初年度の目標とした。この下で、回転ビットのサイズと回転軸間距離を最適化することにより、隣り合う回転ビット間に互いに逆方向の回転を誘導できることを明らかにした。この際の相互作用は、2回転ビットの衝突による接触相互作用であると結論した。これは、イオンゲル自己推進運動の駆動力となるイオン液体分子の水面への展開が極短時間・極近距離にしか影響を及ぼさないことを意味し、これまで多くの研究がなされている樟脳とは本質的に異なる点である。 回転軸をn個の1次元配列としての1×n系を n=5 まで拡張し、いずれの系でも隣り合う回転ビットは互いに逆回転することが観察された。また回転軸の2次元配列として、n×m正方配列や正三角形配列への拡張を行った。前者においては、興味深い観察例として、特定の回転軸間距離を有するとき、集団運動がいったん軸の配列方向に揃い再びランダムな回転運動に戻るという結果を得ている。後者においては、隣り合う回転ビットの回転方向が逆になろうとすると安定な回転方向の組み合わせがないという、磁性体物理でフラストレーションと呼ばれる現象と類似の現象がみられた。回転軸をカゴメ格子配置にするなど、さらなる多体系への展開にも興味がもたれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、本研究計画を実行するための種々の実験手法・解析手法を確立した。 全体の戦略として、イオンゲルサイズは8mm×3mmに固定し、回転軸間距離を変化させることにより、回転ビット多体系を構成することとした。3Dプリンタを導入することで回転軸を自在な間隔・配置で設計できるようにした。イオンゲルの運動を効率的に追尾するために、透明材料で作製した回転軸を用いてバックライト照射下でビデオ撮影することで、のちの解析に支障となる影の影響を最小限に抑えた。当初一つのハードルと考えていたイオンゲルの運動の追尾をImageJを用いて行い、その後の解析を効率化するソフトウエア的な手法も整備した。 目標の一つに掲げていた回転ビット間の相互作用の誘導について、1次元配列では回転軸間を8.0~8.5 mm にすることで、隣り合う回転ビットの回転方向が逆になる顕著な傾向を明らかにした。このとき、回転ビットの回転方向は常に一定ではなく、隣り合う回転ビットの衝突により反転する現象も確認された。1次元配列は、5回転ビットまでの拡張を行った。また、2次元正方配列についても4×4回転ビットまでの実験を行った。回転軸間距離 8.5 mm のとき、集団運動がいったん軸の配列方向に揃い再びランダムな回転運動に戻る、などの興味深い現象を観察できている。 もう一つの目標であった、回転ビットの非接触操作に関しては、その基礎となる砂鉄を混合した回転ビットを作製し、磁力による回転の停止・発生についての基礎的な確認をした。今後、ステッピングモータを用いた磁石の回転制御により非接触操作への十分な布石となったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度がおおむね計画通りに進んだので、2023年度も引き続き当初計画通りに研究を実施する。系がより多体となり、実験・解析ともにより複雑となるのは明白である。2022年度には実験手法・解析手法に関して多くの発展と蓄積があったので、このハードルを乗り越えていけると考えている。 具体的には(1) 回転ビットの1次元配列による情報伝達と(2) 回転ビットの2次元配列による集団秩序形成、の研究を進める。 (1) 1次元配列の一端の回転ビットのみを砂鉄入りイオンゲルとし、その回転方向を磁場で制御する。この情報が直線配列を通じて他端に伝達する条件とビット間情報伝達のタイムスケールを測定し、回転ビット多体系を用いた1ビット情報伝達を実証する。1次元配列に分岐を入れた場合の情報伝達に発展させる。 (2) 回転ビットの配列を2次元に拡張する。2次元正方格子を作製し、集団秩序が形成されるのか、またその形成のダイナミクスを明らかにする。さらに秩序状態にある集団の特定の回転ビットのみを磁場により逆回転させ、その情報の2次元配列内への伝播、また集団秩序の転移・崩壊への関与を明らかにする。集団秩序を各回転ビット情報の行列として定量的に表現し、これを用いて情報伝達のダイナミクスを解析する。
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